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74話~疑いの眼差し~

「F級だと!?」


「おい、それってさっき騒いでた奴じゃないのか?」



 周りの人たちが騒ぎ出し、俺のことを話題に上げ始める。それどころかこちらを見てくる人の視線の数が増えた。


 い、痛いよ〜! 人の視線が痛いよ〜!!! みんながなんでこいつが選ばれて俺が選ばれないんだ? って目で見てくるよ〜!



「ねぇ、なに……? 文句でも、あるの……? 空は……強い。だから、選ばれた……それだけ」



 そんな中、一番最初に動いたのは綾辻さんだった。今回試験を受けた中で一番強い人が俺を庇う。その一言で、表向き批判の声は止まる。



「その通りだぜ。その人はC級の俺を倒したんだ。まぁ、F級ってのは驚いたけど……その人はちゃんと強いよ」



 そこに援護射撃をしてくれたのは、試験で一番最初に俺が倒した牧野弦矢(まきのげんや)さん……だっけ? その人だった。ありがとう〜!!!



「はい、皆さんお静かにお願いします。……それではこの後に登録用紙をお配りするので、探索者組合に所属、もしくは民間の組合に所属していた方の中から諸星組合に移籍しようと考えている方はお帰りの際、受付の方に提出をお願いしますね」



 最後にそう締めくくりの言葉で、試験の全ての日程は終了した。……さて、大本さんは舞台上には出てこなかったが、ほぼ確実に俺の力について尋ねにくるはずだ。


 ……そういえば、琴香さんも凄かったそうだし、それなら琴香さんも話しかけられるかもしれない。一緒にいた方が良いな。



「篠崎、てめぇは当然だが諸星組合に入るんだよな?」


「あぁ、そのつもりだよ」



 最上のおっさんが帰り際に尋ねて来たのでそう答える。だが、大本さんがどんな反応、返答をするのか分からない以上、自分の処遇がどうなるかについては確実とは言えないな。



「はっ、昨日の敵は明日の友。次に迷宮を攻略する時を楽しみしとくぜ。じゃあな!」


「おう! またな!」



 そうして最上のおっさんとの一時期の別れを済ませる。



「空……さっきの話、続きだけど、ーー」


「篠崎さん、お久しぶりですね……」



 綾辻さんが先程途中で止まった会話を今続けようとした瞬間、大本さんが話しかけて来た。綾辻さんがショボンとした表情を浮かべて一歩後ずさる。



「……なんですか? 今は綾辻さんとお話ししてたんですが」


「これは失礼を。綾辻氷花さんですね。綾辻烈火さんがお呼びだそうです」



 俺が不満げに大本さんに言い返すと、謝罪をしてから露骨に綾辻さんを引き離すような話をする。



「む……ごめん、空。ちょっと行ってきて、殴ってくる……。待ってて、ね?」


「お、おう……?」



 綾辻さんがそう言い残してこの場から退場して行った。なんか殴るとか物騒な発言が聞こえたが気のせいにして本題を入ろう。



「お互い内密に済ませたいかとお思いですので、裏にある控室に行きませんか? それは初芝さんも同じですが」



 大本さんは内容の核心については触れずにそう提案をしてきた。琴香さんもバレてたか……いや、俺と言う存在のせいで誘爆のように目立ってしまったが正解かもな。



「わかりました。先に北垣さんに別れの挨拶をしてきます。それと琴香さんにも説明してきます」


「分かりました。ではお待ちしておりますので」



 大本さんは控室の場所を伝えてその場を去った。本当なら今すぐ逃げ出したいけど無理だろうなぁ……。



「北垣さん、選抜メンバーに選ばれた事、おめでとうございます!」


「はは、ありがとう。でもそれは篠崎君もじゃないか。多分だけど、私は君の関係者だから呼ばれた気がしてならないよ。ありがとうね」



 北垣さんが謙遜するように俺にお礼を告げてくる。だが、もしそれが本当だとしても北垣さんが選ばれたことには変わりないのだ。素直に受け入れてほしいかな。



 その後、合流した琴香さんも北垣さんと挨拶を済ませる。そうして北垣さんもまた、一足先に帰って行った。



「それで、話ってやっぱりアレですよね?」



 琴香さんが神妙な顔つきで尋ねてくる。



「100%そうでしょうね。予定通り、話す内容は打ち合わせ通りにしましょう。基本的に俺が答えます。琴香さんは……俺がやらかしそうな時に支えてください」


「はい!」



 琴香さんが元気よく返事をする。ちゃんと内容覚えててくれるか心配になるけど、流石に自分のことだから忘れるような心配は……うん、エフィーよりはマシだと思っておこう!


 あとエフィーのやつ、いつまでお菓子食べてるんだろうな。それに予想外の出来事があって長引いたから、翔馬にもこんなにも待たせるなんて悪いことしたな。


 うん、手料理とかでお詫びでもしよう。それよりエフィーのやつ、帰ってから夜ご飯を残したら絶対に許さんからな……!


 そんなことを考えながら、俺と琴香さんは大本さんに教えられた控室の扉を開けた。



***



 一方その頃。



「やはりお菓子は美味しいの! 特に堅揚げポテトが最高じゃ!」


「エフィーちゃん、あんまり食べすぎると夜ご飯たべれなくなるよ?」


「デザートは別腹というじゃろう? 問題無しなのじゃ! ゲプッ」


「あ、手遅れ……空に軽食で済ませるようにさりげなく誘導してあげるか」

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