25-3 精一杯の抵抗
今、魔神がしゃべったのか!?
「わかってきた」って言ったのか? だが、今の声は、まるでフリードの…。
フリードを見ると、魔法陣の上で倒れたままだ。
片腕飛ばされたんだ、そろそろ死んでる頃だろう。実際、声はフリードからじゃなく、魔神の方から聞こえた。
けど、そうだな。
弱めの炎の槍をフリードに向けて放つと、魔神が飛びついて槍を叩き落とした。
すかさずレイルがフリードの方に駆け出すが、魔神は今度はレイルを爪で迎え撃った。
さっきまでと違う。今までほとんど動かず戦ってたのに、今はひょいひょい飛び跳ねてやがる。
体が安定してきたってことなのか? だが、それだとさっきのフリードの声みたいなのが説明できねぇ。
まるで、フリードが乗り移ったみたいだ。
いや、それじゃ、フリードを守るみたいに動いた理由が説明つかねぇ。
目を凝らして魔神を見る。
フリードとの間に、魔力の線みたいなのがある。
魔力そのものじゃないんだろう、この結界の中でも消えてない。
どういう仕掛けかわからねぇが、多分あれでフリードが魔神を操ってるってとこか。
魔神の動きにイマイチ精彩がないのも、フリードが四つ足の制御を上手くできてないからって考えりゃ、筋は通る。
なら、魔神が邪魔に入る前提で、フリードを攻撃だ。
うまくすりゃあ、レイルがつけ込む隙が作れるかもしれねぇ。
頼むぜ、レイル!
最初の攻撃と同じ、真ん中で2つに分かれる炎の槍を3本、フリードに向けて飛ばすと、魔神はフリードを守るように炎の槍を落としに来た。やっぱりだ。
魔神は、両方の前足で2本を踏み、もう1本は左の肩で受けた。踏まれた2本のうち、1本は真ん中をやられたが、もう1本は前の方を踏まれたから、後ろの槍が魔神の右前足に刺さった。よし、傷が広がった!
そして、俺とフリードの間に体を入れたかたちになった魔神の左後足に、レイルが斬りかかった。
魔神も黙っちゃいない。氷の矢をいくつも作って、全部俺の方に飛ばしてくる。その間、レイルが前足を斬りつけたりしても、やはり矢は消えない。
フリードは、魔神を操ってるだけで、痛みだとか衝撃だとかは感じてないんだな。だから、右の前足がそろそろヤバそうなのも気にせず、レイルは適当に相手して、先に俺を始末しようってわけか。
土の壁を咄嗟に作って、氷の矢を受け止めたが、今度は魔神そのものが俺に向かって飛びかかってきやがった。
なんとか避けたが、倒れちまってすぐには動けない。レイルが斬ったとして、止まってくれるか?
「フォルス!」
「ぐあああ!」
その時、突然魔神が悲鳴を上げて止まった。その隙に、レイルが右後足を大きく斬り裂く。
急いで立ち上がってフリードを見ると、斬られた右腕のところに何か──みゃあがいた。ありゃ、腕を食ってんな。…そうか!
「レイル! 今のうちに、フリードを殺せ!」
叫ぶと同時に、炎の槍を1本、魔神の喉元に叩き込みつつ距離を取った。
フリードの近くに行くのがいいだろう。
レイルがフリードの首を落としてるのが見えた。
これで、後は魔神の複製の方を…。いや、フリードの体から、何かが魔神に引き込まれてったぞ!?
「おのれ、まさかこんなことになるとは…」
地の底を這うような声が魔神から聞こえた。バカな、フリードは死んだのに。
「保護を掛けていたはずなのに、まさか体を破壊されるとは思わなかったぞ。
おかげで、この体から出ることはもはや叶わん。
私は、魔神を操りたかったのであって、魔神になりたかったわけではないのだ。許さんぞ、小僧ども!」
魔神がフリードの声でしゃべる。少し響くような声だが、確かにフリードの声だ。
「元々許すつもりなんかなかったくせに、よく言うな」
つまり、フリードはあの魔法陣の力で魔神の複製を操ってたってことか。で、自分の体が死んじまったから、魔神の体から出られなくなった、と。
なら。
「レイル! こいつはまだ魔神の体をうまく使えない。今なら勝てる!
こっからは、攻撃すりゃ魔法も中断できるかもしれない!」
今まで氷の矢が中断されずに準備できたのは、きっとフリードが魔神の体を通じてやってたからだ。体が攻撃されても、フリードはそれを感じないから、集中を乱されない。
だが、今はフリードが魔神そのものだから、攻撃すれば集中が途切れて魔法を中断させられるかもしれない。
とにかく、フリードが魔神の体の感覚に慣れる前に倒さないとな。
つっても、やることは今までと変わらない。
俺が炎の矢や槍で前足を狙い、レイルが前後を駆け回って撹乱しつつ隙を見て斬る、それだけだ。
さっき、右の後足は半分以上斬ったし、右の前足もズタボロ、首にも傷がある。
それに予想どおり、攻撃が決まると氷の魔法がかき消える。
魔法が弱まるから近くから攻撃しなきゃならないって問題はあるが、後足が1本使えないから、一気に飛びかかられる心配は少ない。このまま続ければ倒せる、と思ったんだが。
魔神は、手数重視で、小さな氷の矢を連射するようになってきた。
矢の大きさは、俺が最速で出せる炎の矢とどっこいなんだが、連射の早さが違う。
ここにきて、魔法士としての地力の違いが出ちまった。
今度は、逆に俺が防戦一方になっちまってる。
弱い矢だから、風の壁で止められるんだが、そっちにかまけて攻撃できない。
レイルの方は、攻撃されても避けられるからいいが、俺が援護できてねぇから攻めきれてない。
今、こっそり魔力を土に流して、魔神の足下からまた土の槍を生やそうとしてる。もうちょいで届く。待ってろ、レイル。
…よし、今だ!
魔神の左前足目掛けて生やした土の槍は、ひょいと避けられ、反対に持ち上げた左前足の爪から氷の刃を飛ばしてきた。防ぐ魔法を準備する暇はない。思いっきり横に跳んでなんとか避けられたが、あんな攻撃もできんのか。
顔を上げると、レイルが魔神の左前足を斬りに行ってた。おいおい、まだ右前足が終わってねぇのに、何やってんだよ!
案の定、魔神は右前足でレイルの背中から踏みにいった。
「レイル! 右足が来る!」
俺の叫びで、レイルは横に跳んで避けたが、そのせいで左前足に食い込んでた剣を手放しちまった。これじゃ、身体強化に使う魔力がなくなっちまう。
魔神は、剣が刺さったままの左前足でレイルを追撃する。
「レイル!」




