とある強国の苦悩
この小説はフィクションです。実在する国家、団体、企業、個人、法律等とは一切関係ありません。
【イスラエル首都 テルアビブ 首相官邸】
首相官邸では、アフリカ大陸西海岸の異変に関する対応を協議するため全閣僚と国防軍幹部が出席して閣議が開かれていた。
「では、新たな偵察作戦は2週間後に始まるのかね?」
首相のナタニエフがシュロン国防大臣に訊いた。
「はい、やはりロナルド・レーガンの損害に米国はショックを受けています。ロシアも虎の子のミサイル巡洋戦艦を失っており、かなり慎重です。」
シュロン国防大臣が嘆息しながら答えた。
「我々と手を組んで二方面から当たれば良いものを。」ナタニエフが忌々しげに呟く。
「2週間後の作戦に我々も協力すべきではないかね?」ナタニエフがシュロンにイスラエル軍の参加を促す。
「首相。2週間後に偵察をしても無意味です。」シュロンが無表情で答える。
「どういう事かね?」
「2週間後には我が国に異形の群れが押し寄せるからです。」
シュロンが額に汗を滲ませて答える。
「状況を詳しく頼む。」
ナタニエフが深刻な表情で説明を促す。
「かしこまりました。参謀総長、アフリカ大陸西海岸から拡がっている異形の最新情報を頼む。」
シュロンが参謀総長に指示する。
歴戦の戦士の強面で有名な参謀総長が顔色をやや青くしながら説明を始めた。
「本日1月15日午前零時現在、異形の群れは壊滅した旧リビアの首都トリポリを通過して旧エジプト国境を越えました。明日には壊滅したカイロの廃墟に到達するものと思われます。」
「異形の群れは、甲羅を着けた巨大なマンモスもどきの群れを先頭に、頭が3つあるチーター、尻尾が毒蛇のライオンもどき、全長30mを超えるサンドワーム、体長2m近い鋼鉄のように硬い体を持つ蟻の群れ、上空には銀色の鋭い刃を持つ異形のハヤブサやツバメが塊となって進路上の都市や部族の武装集団を撃破しながらまっすぐ陸路を北東……つまり我が国に向かっております。」
ナタニエフは冷や汗を拭うこともせずに呆然と説明を聴いていた。
やがて、
「バケモノどもに核兵器は有効かね?」と訊ねる。
「分かりません。アフリカ大陸西海岸は、長年に渡り欧米諸国が放射性廃棄物を海上に不法投棄しており、沿岸の住民に奇形児や癌の発生率が異常に高かったのです。
更に内陸部は、もともとウラン鉱脈が存在しており、自然的な特異種が発生しやすい環境でした。
我が軍の核攻撃で壊滅したトリポリを呑み込んでも損害が見られない事からも、放射能に耐性が有るのは明らかです。
奴等の殲滅を物理的にするには通常兵器の継続的な大量投入をしない限り、不可能でしょう。
これは、我が軍だけでは不可能です。」
参謀総長が見解を述べた。
ナタニエフは黙考する。
隣国のヨルダン、シリア、リビア、エジプト、イランは第5次中東戦争でイスラエルの核攻撃で首都を失い無政府状態に等しく、戦力の統合は絶望的だ。
神よ、私たちの歩んだ道は自業自得なのですか?
ナタニエフは深いため息をついて、1つの選択肢を提示する。
「我が国はこの地を捨てるべきだろうか?」と。
シュロン国防大臣、参謀総長の二人は沈黙するしかなかった。
他の閣僚も突然の発案に言葉を失っていた。
首相官邸の閣議に参加者していた者を照らす夕陽は長い影を作っていたが、その影はとても弱々しく、この国の末路を映しているように思えた。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は正午に投下しますm(__)m




