異形の洗礼
この小説はフィクションです。実在する国家、団体、企業、個人、法律等とは一切関係ありません。
【アフリカ大陸西海岸 旧ギニア首都コナクリ沖10キロの大西洋】
先行駆逐艦「コートノール」が異形の鳥からの襲撃を受けようとしていた頃、艦隊の海中でも異常事態が発生していた。
【任務機動部隊 攻撃型原子力潜水艦 「ヴァンガード」】
「深度450から本艦に急速浮上する物体あり!」ソナー員が報告する。
「デコイ1番、2番任意に発射!」
副長が反射的に指示を出す。
「目標のスクリュー音無し!」
「クジラなのか?」艦長が訝しげに呟く。
「目標はデコイを無視、まっすぐに向かってきます。5秒で接触します!」
「総員衝突に備えろ!何かに捕まれ!」
「急速浮上!全速力だ!」
矢継ぎ早に指示を出した瞬間、発令所の全員が前に身体を投げ出される感じとなる。
「スクリュー停止!舵効きません!」
「深度急速沈降!現在350、尚も沈降!」
「緊急信号!ブイを出せ!」
「引きずり込まれているのか!?」
「深度500!後300で圧壊します!」
「バラストブロー!」
「後部発射菅からノンアクティブ魚雷撃て!なんとしても振りほどけ!」
ヴァンガードは巨大な海蛇に艦尾を呑まれた状態で深海底に引きずり込まれようとしていた。
海蛇が潜水艦を更に呑み込もうと大口を拡げた瞬間に偶然バラストの泡が蛇の口内一面に拡がり、怯んだところに高性能爆薬弾頭を持つ魚雷が4発発射されて蛇の喉奥で炸裂した。
巨大な海蛇は頭の途中から千切れる形で爆裂し、海底に沈んで行った。
「スクリュー、舵、戻りました!急速浮上します!」
「急げ!艦が持たんぞ!」
10分後、艦隊後方の海面から緊急浮上したヴァンガードが、トビウオのように海中から飛び出して水圧でひび割れた船首から着水した。
【任務機動部隊 旗艦 ロナルド・レーガン】
「ワット大佐!ヴァンガードから入電。『我、深海から巨大生物の攻撃を受け、船体に深刻なダメージ受け航行不能。救助求む。』」
「艦長、至急ヴァンガードの乗組員の救助を。」ワット大佐が空母艦長に指示する。
「潜水艦を海底に引きずり込む生物だと?」ワット大佐は絶句した。
「『ひゅうが』から救助ヘリ出ました!」
「さすが日本海軍、早いな。」艦長が感心する。
「我々はボートで救助する。急げ!何が潜んでいるか分からんぞ!」ワット大佐が我に帰り指示する。
「ワット大佐!コートノールからの通信途絶しました。艦影は健在です。」
「トラクストンとコンゴウにコートノール救援を要請しろ!」
「進路変更、コナクリ沖70キロまで一時待避する。全艦隊に打電せよ!」
ワット大佐が撤退命令を出しても尚、事態は悪化していた。
「前衛巡洋艦『ウダロイ』から多数の未確認生物飛来を確認!」
「近接対空戦闘用意!CAP(艦隊空中哨戒)可能な搭載機は全機発進させろ!急げ!甲板デッキの乗組員は艦内に緊急避難!」
ロナルド・レーガンの艦内にけたたましくサイレンが鳴り響く。
ロナルド・レーガンの左舷側を航行している護衛艦『ひゅうが』の直通甲板には、ツバメ大隊のPSが集合してガトリング砲とスティンガーミサイルランチャーを両手に持って迎撃態勢を整えていた。
「カモメ相手にガトリング撃つんですか?」部下が林軍曹に質問する。
「馬鹿野郎、レーダーアンテナや砲身をスパスパ切り裂くカモメが居るもんか!あれは化け物だ!」林が怒鳴り付ける。
「敵は的が小さいのでロックオンが難しい、全て手動対応だ!」
天城大尉が指示を出す。
「奴等のくちばしや羽根は金属を切り裂く!
PSの手足もあっという間にもぎとられるぞ!
損傷した者は直ぐにデッキ下に待避しろ!」
「未確認生物2キロまで接近。」
「みんな生き残れよ!総員迎撃開始!」
甲板デッキのPSから一斉にスティンガーミサイルが発射され、ガトリング砲が火を吹く。
異形のカモメはまともにスティンガーミサイルやバルカン砲を喰らってぼとぼとと海面に墜落していく。
しかし圧倒的に多い異形のカモメ群は四方八方に展開してミサイルや対空砲を掻い潜りながら、各艦のレーダードームや通信アンテナを切り裂き、突き破っていく。
『ひゅうが』前方を航行していたミサイル巡洋艦のブリッジに無数の異形カモメが突っ込み、コントロールの効かなくなった巡洋艦が艦隊を離れた直後に、ガスタービン排気孔へ異形カモメが殺到、巡洋艦は中央付近から大爆発を起こして轟沈した。
『ひゅうが』の甲板デッキで必死にガトリング砲を撃ち続ける林軍曹は轟沈していくロシアのミサイル巡洋艦を視界の端に捉えながら、接近する異形カモメを撃ち落とし続けた。
任務機動部隊は全艦艇が必死にバルカン砲や短距離対空ミサイルやアスロック魚雷までも発射して対空砲火の弾幕を張るという予想外の状況に直面していた。
異形の者達の洗礼は始まったばかりだった。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
明日、17時に次話投下します。




