浮上
この小説はフィクションです。実在する国家、団体、企業、個人、法律等とは一切関係ありません。
【アフリカ大陸西海岸 旧ギニア共和国 中西部 フータ・ジャロン山地】
サドベリー市消滅後、異常な電磁波、ガンマ線、放射線を禍々しく周囲に放射する山地の頂上で、黒いローブを羽織った老婆が空に浮かぶ三日月を眺めながら呟く。
「少しはヒトもやるのぅ。それでなくては進化を目指す資格はないからのぅ。」
「どれ、更なる高みをヒトは目指さねばならんのじゃて。」
その時、サドベリー婆に別の思念が流れてきた。
『些か厳しすぎるのではないかね?進化は生き物が自ら掴みとるものだと思うが?』
「久しいのぅ、『月の番人』。」
「今のヒトは進化よりもこの星を食い尽くす事しか考えておらんよ。」
「進化の前に自滅するのが落ちじゃ。」サドベリー婆が幻滅したように語る。
『我は人類に植人という種を提示した。彼らは新たな道を歩もうとしている。見守る時期だと思うが?』
「ふん!人類は自ら進化を掴みとるべき、とか言っておいて、番人が植人を提示する事こそ、本末転倒じゃろ。」サドベリー婆が月の番人に異を唱える。
『植人と異形群を一緒にするな。
前者は人類の進化の手助けをするものだ。異形は、単なる人類を滅ぼす為だけの災厄に過ぎん。』
番人が反論する。
「いんや、異形と人類が争うことで、人類の闘争本能に火がついて進化の加速に繋がるじゃろ。わしゃ、次の手立てをするが、邪魔は番人であろうと許さんぞぇ。」
サドベリー婆は月の番人との問答を打ち切って、山地の頂上から姿を消した。
【米国 ハワイ州 オアフ島 米国地質研究所 太平洋地震津波センター】
「所長!アフリカ大陸西海岸の地殻が異常な動き!」
「地殻隆起!震源旧ギニア中西部!マグニチュード計測値振りきれました!」
研究員は青い顔で震えながら声をあげる。
「しっかりするんだ!何が起こるかわからんぞ!ワシントン、東京に緊急連絡!大西洋沿岸に即刻津波警報だ!」所長が叫ぶ。
「アフリカ西海岸の地殻更に隆起、明らかに異常なエネルギーを探知。まるで、……まるで重力に反発している様です!」
「バカな!」
「英国政府 王立アカデミーのケルト教授からリンク要請!国際機密閲覧権限トリプルSです!」
一瞬呆けた所長だが、直ぐに指示する。
「許可!リンクしろ。これは"地球本来の地殻活動ではない"。おそらく、ケルト教授の専門分野だ。」
【アフリカ大陸 西海岸 中西部】
その異常な大地は周囲の土地から引き剥がされるように、隆起を始めた。
辺りには砂埃と隆起による地震が発生して大地が揺れていた。
やがて砂埃が収まると、そこには直径40キロのフータ・ジャロン山地"そのものが"浮いていた。
浮上した山地はそのままどんどんと空に昇っていった。
【米国 NORAD 北米航空宇宙防衛司令部】
「ギニア中西部の山地尚も上昇中!高度30000メートル超えます!」
「浮遊大地から高レベルの電磁波、ガンマ線、放射線が半径10キロ以内で観測されました。衛星、航空機の飛行を妨げるレベルです!」
「南半球の飛行を禁止する緊急警報を出せ!」
「ISSから軌道変更要請!高度500まで上げたいとのことです。」
「許可する!露欧ステーションにも同じ通知を出せ!ムーンベース、ラグランジュベースにも警告しろ!」
地上の騒乱を記にも留めずに大陸は、高度35000メートルで上昇を止めて、衛星軌道に乗りながら 地球を周回するのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m




