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植人【外伝】月の番人  作者: NAO
邪悪な異形
14/25

激戦、ヤルタ海岸

この小説はフィクションです。実在する国家、団体、企業、個人、法律等とは一切関係ありません。

2023年1月30日午後1時【クリミヤ半島南東 ヤルタ海岸】


林の指摘でヤルタ海岸に駆け付けたPS大隊だったが、無数のグソクムシもどきと巨大サンドワームに襲われて、部隊が分断されつつあった。


至近距離で高威力のバルカン砲と左腕のRPGロケットを乱射してグソクムシもどきの固い殻を突き破って倒していたが、砂浜の中から突然現れる巨大サンドワームにPSごと呑み込まれる隊員が続出した。


「佐久間、大田!応答しろ!」

天城大尉が叫ぶがノイズが聴こえるのみで応答は無かった。


「第2小隊ワームに5名呑まれた!」

「第3小隊グソクムシもどきに包囲された!半数の応答無し!」


尚も海中から続々と砂浜に上陸してくるグソクムシもどきと隊員を呑み込んで暴れまわるサンドワームに手を焼いた竹見中佐は、海岸から500m後退して澤城大佐の指示を仰ぐ事になった。


「隊長、竹見です。申し訳ありません、既にヤルタ海岸から無数のグソクムシもどきや巨大サンドワームが上陸し始めています。損害PS13名!現状の装備では防ぎきれません!」


「分かった、空からの支援を要請する。悪いがそこを死守してくれ。」澤城が苦渋を滲ませた声で竹見に命令した。

「竹見、了解。」


「天城大尉、ひゅうがに残してある装備と武装を全てここへ運ばせてくれ。ここを死守する。拠点を作るぞ!」竹見が指示した。


要塞司令部では、澤城が戦力をかき集めようとしていた。

「セントリー、エマージェンシー!ヤルタ海岸で不意討ちを喰らった。10万が上陸中!直ちに航空支援を要請する!」


「PS、すまない。クリミヤ西岸に全部投入している。ヤルタ海岸に回す余裕が無いんだ。」

セントリー早期警戒管制機が苦しそうに返答した。


「ワット大佐、特殊戦車のクールダウンは後どれくらいかかりますか?」

「サワシロ、後1時間だ。何とか持ちこたえてくれ!」


「アレクセーエフ大将閣下、ヤルタ海岸がこのままでは化け物ビーチになってしまいます!」

「弾道弾はこれ以上は無理だ。予備戦力も西岸に全部投入している。ヤルタにいるのは偵察小隊だけだ。」

アレクセーエフも焦っていた。


澤城はとある覚悟を決めつつあった。

「『ひゅうが』の通信回線を使って東京に緊急要請する!」


【東京都 千代田区 永田町 首相官邸】


日向総理と須賀官房長官は衛星回線でクリミヤ半島の戦況を確認していたが、派遣していた『ひゅうが』から緊急コールを受けた。


「特殊作戦軍の澤城です。ヤルタ海岸に異形群が不意討ちで上陸しています。現地の戦力は手一杯でヤルタ海岸の我が大隊はこのままでは全滅します!

どうか天の羽衣の使用許可を頂きたい。それと、米国が極秘にしているオーロラ戦闘機の航空支援を要請してください。」


日向総理は澤城の顔をじっと見つめると、

「分かった。天の羽衣はこの回線で座標指示をしなさい。私は別室でペンス大統領に要請してくる。」

即答した。


日向にも特殊作戦軍の危機は須賀から指摘されていた。

日向はホットラインを手に取った。


【米国 ワシントンDC ホワイトハウス 大統領執務室】


「マコト、冗談は止してくれ。そんな部隊は合衆国に存在しない。」

「オーバーヒートした貴国の特殊戦車部隊の代わりに我々の虎の子部隊がサンドワームに呑み込まれて損害を出しながら、化け物に対峙しているのですぞ!どうか直ちに航空支援を頂きたい!」

日向が懇願する。

それでもペンス大統領は首を縦に振らなかった。


「大統領閣下、我々は天の羽衣という防衛システムを実験的に稼働していますがご存じでしょうか?」


「お国のCIA(ラングレー)もまだ全体像を知らない筈です。我々はヤルタの友軍を救うために、天の羽衣を初めて使用するつもりです。オーロラ戦闘機の支援と引き換えに、天の羽衣のシステムにリンク出来るようにしましょう。」

日向が切り札をあっさり使った。


「大統領閣下、日本の要請は充分に釣り合います。」パーシング大統領補佐官が賛成する。


「オーロラ戦闘機は何時でも出せます。クリミヤ半島まで20分で到着します。天の羽衣は、我が軍でも応用の価値が大きいです。是非、この機会を利用しましょう。」マッコイ国防長官も賛成する。


「マコト、本当は軍の機密を投げ売りするのは私的には好まないんだ。この会談記録は一切残さないでくれたまえよ。」

「ご支援に感謝します、マイケル。議事録は抹消しましょう。」

日向がペンスに約束した。


【クリミヤ半島上空36000km 日本航空宇宙自衛軍 輸送艦「赤城」】


クリミヤ半島の遥か上空の静止軌道上に日本の宇宙空母(対外的には輸送艦)から10基の無人工作船「コウノトリ」編隊が発進した。


コウノトリ編隊は船首をクリミヤ半島に向けると円陣を組んでそれぞれが合体した。円陣の直径は50mだ。


「コウノトリ、フォーメーション完了。」

宇宙空母「赤城」のCICで戦術長が艦長に報告する。


「コウノトリにレーザーダイレクトリンケージ。」艦長が指示する。


「全コウノトリにリンケージ完了。何時でも送れます。」

「ヤルタPSから座標来ました!グリッド13820!」

「コウノトリフォーメーション照準微調整!」


「コウノトリフォーメーション照準微調整、目標グリッド一致!」


「レーザーダイレクトリンケージ、フォーメーショングリッド、全て連動中!」


「天の羽衣起動!」艦長が号令する。


宇宙空母からコウノトリ編隊にレーザー送信で大量の太陽光エネルギーが供給され、コウノトリフォーメーションの先端部分が白い光を帯びて円形のレンズを形成してゆく。


コウノトリの船首は平らな網の目模様のレンズでびっしりと覆われており、空母から送られたエネルギーレーザーを船体からレンズに反射して編隊正面の宇宙空間に収束させてゆく。


数秒後、コウノトリ編隊正面で形成された巨大レンズから光の帯がクリミヤ半島東側に降り注いだ。


【クリミヤ半島南東部 ヤルタ海岸】


海岸から500m下がったPS大隊は空の彼方から降り注ぐ白い光の壁から目を背けた。

澤城から事前に直視するなと指示されていたのである。


ヤルタ海岸の波打ち際ど真ん中に、直径50mはある白い光の壁がそびえ立ち、光の壁の中や海中から壁に接触したグソクムシもどきや砂浜に潜むサンドワームを音もなくじりじりと焼き尽くしていった。

白い壁は微妙に移動しながらヤルタ海岸一帯を隅々まで光の壁で照らしながらグソクムシもどきとサンドワームを焼き付くしていく。光の壁の一部は波打ち際から海中にも接触し、壁の中になった海面は高温で沸騰していた。


竹見達大隊隊員は特殊ゴーグルをかけながら呆然とその光景を見ていた。


光の壁は1分程でヤルタ海岸一帯を照らし終えると唐突に消滅した。


「こちら澤城、そちらの化け物残りはどれくらいだ?」

「こちら竹見、ヤルタ海岸に生命反応無し!浅瀬の敵も殲滅された模様。送れ!」


要塞司令部では日本の秘密兵器の凄まじい威力に澤城以外の全員が言葉を失ってヤルタ海岸のモニターを視ていた。

「大将閣下、ヤルタの化け物を駆逐しました。」

澤城大佐が冷静に報告した。


「凄まじいものだな、大佐。」

アレクセーエフ大将はそう答えるしかなかった。


「竹見、楽が出来たと思うなよ!化け物の後続に備えて引き続き現在位置で迎撃体制。F35は空中哨戒怠るなよ!」

澤城は大隊の気が緩まないように叱咤した。


クリミヤ半島での水際防衛は成功していた。


大損害を受けて撤退していたG8連合海軍第2艦隊だが、追いすがる一角クジラやシーサーペントに苦戦していた。


残存艦艇の残弾が尽きかけた頃、東の空から幾筋もの流星が飛来すると、流星から細く赤い光の糸が降り注いで、一角クジラやシーサーペントの身体を次々と貫き、僅かな生き残りは艦隊から逃げるようにボスポラス方面に移動した。


流星の正体は推定マッハ12で飛来した米国の「オーロラ」戦闘機で、細く赤い糸はオーロラ戦闘機から発射された高出力レーザーである。


幾つもの流星は遥か上空をそのまま通過していった。

艦隊の乗組員は流星が戦闘機だとは思いもよらなかったのかも知れない。

数分後、上空から爆発音のような衝撃波が艦隊を襲ったが、被害はなく、原因は不明だった。


オデッサ軍港で衝撃波の正体が、米国の秘密戦闘機との噂(直ぐに箝口令がしかれたが)が流れ、ようやく艦隊乗組員は納得するのだった。


米国秘密兵器の支援により、G8連合第2艦隊はオデッサ軍港への脱出に成功した。


クリミヤ半島の戦いは人類側の勝利となった。

ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m


次話は明日17時に投下しますm(__)m

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