クリミヤの戦い
この小説はフィクションです。実在する国家、団体、企業、個人、法律等とは関係ありません。
【ロシア連合 クリミヤ半島上空 15000m 米空軍 E3Aセントリー 早期警戒管制機】
「准将、セパストポリの日本軍特殊部隊から通信です。」
「サワシロ、こちらはボルゴグラードの航空宇宙戦力を持ってきたぞ!目標を教えてくれ!」
空軍将校が澤城の作戦を支持している証だった。
どうもあの要塞に居るロシア熊は、自国以外は信用していない為に効果的な運用が出来なかったからな、サワシロが言いくるめたみたいだが、お手並みに期待したいものだ。心の中でNATO空軍将校が呟いた。
「了解、支援に感謝する、准将閣下。こちらのコールサインは以後PSとする。
敵位置は要塞西側海岸50m、上陸する模様。グリッド13790の中に撃ち込んでくれたら構わない。
レールガンの後に爆雷をばら蒔いて欲しい。
後はそちらの地上レーダーで海から上がる群を捕捉して水際で空爆をお願いしたい。
こちらの迎撃部隊は海岸から200m以内には近付かない。200m以内で動くものは全て敵だ。推定20万、ゴージャスな出迎え頼む。オーバー。」
「ラジャ、PS。貴官に幸運を!」
「ディスカバリー艦隊にグリッド通知!準備出来次第、攻撃許可しろ!神の雷をクリーチャーどもに落としてやれ!」
【クリミヤ半島上空 衛星軌道 宇宙巡洋艦『ディスカバリー』『足柄』『ピョートル大帝』】
「グリッド13790、照準固定完了。E3Aとのオンライン維持。」
「ピョートル大帝、足柄、本艦の順番でレールガン2斉射だ!それ以上は砲が持たん。砲撃後はラグランジュベースに帰投する。」
やがてクリミヤ半島の遥か上空から十数条の蒼白い閃光を伴った雷が黒海に降り注いだ。
【シヴァストーペリー要塞 守備隊司令部】
司令部のモニターにはクリミヤ半島西岸波打ち際に多数の雷が轟音と共に降り注ぐ様が映されていた。足元には西岸からの地響きが伝わってきた。
「『ひゅうが』ソナーは尚15万の"グソクムシもどき"を探知、西岸を目指しているとのことです。」
通信兵が澤城に報告する。
「セントリー、こちらPS。同じグリッドに爆雷ありったけ頼む。敵15万。」
「ラジャ、PS。こちらセントリー。2分後にP8が20機投下する。」
「大将閣下、ロシアの弾道弾も同じグリッドに落とせますか?」
「戦略ロケット軍には私からグリッドを伝えた。5分後から落着する筈だ。」
アレクセーエフ大将が応じた。
「ワット大佐、澤城です。お聴ききのとおり、西岸に間もなくクリーチャーが上陸します。大佐のマイクロ波部隊で上陸したクリーチャーを混乱させて貰えますか?レーザー部隊は異形カモメにリベンジしましょう!」
「オーケー、サワシロ。マイクロ波戦車は初出陣だ。リベンジ任せろ!」
クリミヤ半島西岸は宇宙からのレールガン攻撃で波打ち際に幾つものクレーターが出来ていた。
西岸のすぐ沖では米海軍のP8ジエット哨戒機の編隊が爆雷とホーミング魚雷を文字通り"ばら蒔いて"いた。
西岸沖の海面が、まるで沸騰した鍋のように泡立った。
そこに遥か上空から流れ星のような弾道弾が泡立った海面に次々と突っ込んでいった。海面はもはやジャグジーのように激しく海水を噴き上げた。噴き上げた海水に混じってグソクムシもどきの残骸がバラバラと辺りの海面に降り注いだ。
「ソナー探知、敵残数10万!上陸します!」司令部の通信兵が報告する。
「ワット大佐、クリーチャーが上陸します!」
澤城が迎撃を指示した。
要塞西側の崖の上から、米国陸軍特殊戦車部隊が、砲塔の指向性アンテナを西岸に向けてマイクロ波を照射し始めた。
上陸した"グソクムシもどき"の群れはマイクロ波を浴びると一瞬身じろぎをした後に激しく痙攣し、全身から沸騰した体液を噴出させながら絶命していった。
「セントリーから陸上レーダー探知結果来ました。現在上陸数10万!更に増加中!」
「大将閣下、アメリカのマイクロ波が終わったら直ぐに攻撃出来るように準備をお願いします。後5分も持たないでしょう。」
「アメリカの兵器はスタミナが足りんな。しょうがない、後始末は任せて貰おう。」アレクセーエフ大将は上機嫌にロシア陸軍部隊に指示を出し始めた。
「こちらPS、セントリーの爆雷に感謝する。こちらはこれから海岸でロシア軍が迎撃する。我々のレーザー部隊だけでは異形カモメを一掃出来ない。制空権を確保されたし。」
「ラジャ、PS。こちらセントリー、直ぐに迎撃機を向かわせる。スホーイ部隊が行きたがっている。大将閣下の指示を求める。オーバー。」
「大将閣下、間もなく制空権を確保するためにお国の戦闘機部隊が来ます。セントリーがフォローするので陸軍と共同出来るようにご指示お願い出来ますか?」
「サワシロは人使いが荒いな。問題ない、任せろ!アフガン時代にはよく航空支援を使ったからな。それはそうと、後でしこたまウォッカを要求するからな。」
「かしこまりました。浴びるほどの量を手配します。」
アレクセーエフ大将と澤城の会話を聞いていた司令部要員が歓声を上げる。
アレクセーエフも、澤城も分かっているのだ。たとえ"空手形"でも今は全兵士がその気にならなければ上陸を阻止出来ないと。
「サワシロ!こちらのマイクロ波戦車はオーバーヒートー寸前だ!一旦冷やす時間が欲しい。」
「ワット大佐、ありがとうございます。了解しました。特殊戦車部隊は要塞内部に移動して冷却作業を急ぎお願いします。バドワイザーも追加しておきます。オーバー。」
通信機の向こうからアメリカ兵士の歓声が聞こえた。
「大将閣下、しばらくお国の部隊だけになります。戦果を期待しても?」
「任せろ!」アレクセーエフ大将はそれだけ言うと、通信兵と共に各部隊に指示を出し始めた。
「竹見、天城、状況報告。」
「こちら竹見、現在のところケルチに敵は来ていません。」
「おかしいな、西と東で挟撃すると思ったのだが。」澤城が首を傾げる。
「あの、良いですか?」林分隊長が会話に割り込んできた。
「林、今忙しい。」天城大尉が林を咎める。
「申し訳ありません。ですが、陸路でケルチを突破するよりも、東岸のヤルタから上陸することは考えられませんか?」林が疑念を口にする。
澤城は暫し黙考したが、
「しまった!それだ!」叫ぶ。
「ヤルタなら直ぐに要塞を攻撃出来る場所だ!竹見!直ちに大隊をヤルタに移動させろ!敵を迎え撃て!」
林の指摘通りに大量のグソクムシもどきがヤルタ海岸に殺到しようとしていた。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は明日17時に投下しますm(__)m




