史上最大の戦闘
この小説はフィクションです。実在する国家、団体、企業、個人、法律等とは一切関係ありません。
2023年1月30日午前5時【地球衛星軌道上 ロシア南部上空 米国航空宇宙軍 巡洋艦『ディスカバリー』】
「ロシア南部上空のE3Aが敵影確認、グリッド13786、数96万!」
「日本とロシアに目標グリッド連絡しろ!レールガン発射用意。」
「日ロ艦準備完了です!」
「撃て!」
ロシア南部上空の宇宙空間に浮かぶ米国、ロシア、日本の宇宙巡洋艦からレールガンが、蒼白い電光を放ちながら秒速数キロの弾丸を地上に発射した。
【ロシア南部 旧ウクライナ クリミヤ半島 シヴァーストーペリー(セパストポリ)要塞】
要塞の軍港に停泊している護衛艦『ひゅうが』甲板上の澤城大佐は、空から蒼白い電光が東の方角に幾筋も降り注ぐのを驚愕の眼差しで見ていた。
「まさかこんな光景を視る事になるとはな。」
まるで、神々の戦い(ラグナログ)ではないか、と澤城は思った。
『ひゅうが』の艦内スピーカーがサイレンを鳴らす。
「ボルゴグラードに異形80万!、オデッサ沖に異形20万!、本要塞に海上から異形50万襲来!、全兵装使用自由!迎撃せよ!」
澤城率いるPS部隊はシヴァストーペリー要塞外縁に展開して行った。
シヴァストーペリー要塞沖に展開しているミサイル巡洋艦や護衛艦、フリゲート艦の艦隊からもハープーンミサイルやトマホーク巡航ミサイルが入道雲のように数百発発射されていた。
【ロシア南部 ボルゴグラード郊外上空 20000m 米国空軍のE3Aセントリー早期警戒管制機 】
「ディスカバリー艦隊のレールガン、目標グリッドに直撃!」管制官が同乗しているNATO空軍将校に報告する。
「よし、対地上攻撃部隊ブラボーからタンゴまでクリーチャー群先頭を叩け!高度に気を付けろ!下げすぎるとカモメアタックでミンチにされるぞ!」
将校が地上攻撃を指示する。
ボルゴグラード上空を埋め尽くすように旋回飛行していたNATO軍とロシア連合の地上攻撃機が、異形群の先頭に殺到してミサイルとナパーム弾を発射する。
異形群の先頭を走るマンモス亀とケルベロスチーターの群れが次々と紅蓮の炎に包まれていく。
【ボルゴグラード(旧名 スターリングラード)郊外 ロシア連合防衛司令部】
「米空軍から報告、敵残数50万!尚も防衛線に接近中!防衛線まで距離30!」通信兵が甲高い声を上げる。
「落ち着け。重砲、新型カチューシャ撃て!」ロシア連合のジューコブ陸軍中将が指示を出す。
ボルゴグラード郊外の防衛線に配置された地平線まで続く大砲とロケット砲が一斉に火を吹く。
【黒海東海岸 米戦艦『ニュージャージー』】
「敵クリーチャー、前方40キロ!主砲射程範囲内です!」早期警戒管制機の情報を受信した観測員が艦長に報告する。
「撃ち方始め!」
75年前にこの戦艦の砲手だった艦長が命令する。
ニュージャージーの3基ある46センチ3連装砲が45度の仰角で射撃を始めた。
側に人が立っていたら即死する位の衝撃波で巨大な砲弾が遥か彼方の異形群で炸裂する。
黒海東岸とボルゴグラード郊外から放たれた砲弾の嵐は、ドリルで削り取るように異形群を先頭から切り刻んで行く。
マンモス亀とケルベロスチーターは足元からすくわれるように地面ごと空中高く吹き飛ばされ、破片でバラバラになった骸が辺りに降り注いだ。
【ボルゴグラード郊外 ロシア連合 防衛線司令部】
「敵残数30万!防衛線まで距離20切りました!」
「米国空軍に異形カモメ群の殲滅を要請しろ!我々はタンクを出す!」
防衛線から数万台の戦車が異形群に向けて突撃を始めた。
【同上空 早期警戒管制機 】
「地上防衛線司令部からカモメ殲滅要請!防衛線から戦車が突撃始めました!」
「ナイトリーダー、カモメ狩りだ!」NATO空軍将校が対空戦闘への移行を指示する。
地上攻撃機が異形群上空を飛び去ると、直ぐにロシア連合のスホーイ35戦闘機やスウェーデンのサーブ37ビゲン、フランスのユーロファイター、ラファエル、ドイツのF15、F16の迎撃用戦闘機が異形群上空の異形カモメにスパローミサイルやサイドワインダーミサイルを撃ち込んで、バルカン砲弾を撒き散らしながら亜音速で異形群上空を飛び回った。
異形カモメやツバメは流石に亜音速で攻撃する戦闘機には成す術もなく一方的に撃ち減らされていった。
地上のロシア連合戦車軍団は戦車砲を間断なく撃ちながら異形群と正面から激突、瞬く間に30%の戦力を失ったが、地平線まで続く後続の最新鋭戦車により異形群を徐々に押し戻しつつあった。
ボルゴグラード郊外での防衛線はかろうじて維持出来そうだった。
【クリミヤ半島 シヴァストーペリー要塞 守備隊司令部】
「ミサイル駆逐艦『ゴルバチョフ』に"1角クジラ"が直撃!沈没します!」50mは有ろうかという鋭い角の生えた真っ黒な鯨が駆逐艦の横っ腹に突っ込んでいた。
「フリゲート『シマカゼ』より救難信号!巨大海蛇に巻き付かれて航行不能!」
体長100m、太さ4mはあるシーサーペントが護衛艦「しまかぜ」に巻き付いて船体を横倒しにして海中に引きずり込もうとしていた。
「潜水艦『オヤシオ』別の海蛇に呑み込まれ通信途絶!」
「戦艦『アイオワ』右舷に"1角クジラ"複数が体当たりして機関部に浸水!航行不能です!」
黒海に展開しているG8連合海軍艦隊の被害は甚大なものになりつつあった。
黒煙を上げながらゆっくりと艦尾から沈没していく戦艦『アイオワ』を見ながら澤城大佐は要塞司令部に意見具申した。
「アレクセーエフ大将閣下!
ボルゴグラード郊外は持ちこたえそうですから、あちらの航空宇宙戦力を要塞に回してもらって海軍はオデッサに撤退させては如何でしょうか?」
「サワシロ、無理だ。艦隊の撤退権限は米国が持っている。本職の権限ではないのだ。」アレクセーエフ大将が官僚的な返答をしてきた。
今回の防衛戦唯一の欠点は指揮系統が明確化されていないことであった。
だが、今はそんなことよりも、やらねばならない事が彼らにはあった。
「大将!もはや海軍艦艇は化け物共の格好の的です!今すぐ退避させないと、G8第2連合艦隊全滅の責任を現地司令部が負う事になりますよ!
本職の名前を使ってもらって構わない!日本軍が水際防御を採用しろと脅してきたという事にしてはどうか?」
澤城大佐はアレクセーエフ大将を脅しながら宥めるのだった。
「分かった、報告書には貴官の名前を存分に使わせてもらうとしよう。サワシロは司令部に来て水際防御の指揮を頼みたい。イオウジマみたいな手際を拝見したいものだ。」
アレクセーエフ大将はふてぶてしい態度を取りながらも澤城大佐の案を採用した。
「ありがとうございます、大将閣下。
竹見中佐に指揮権を任せる。大隊はケルチ半島で陸路の化け物を通すな!『ひゅうが』からF35を出して大隊の空中支援をさせろ。」
「こちら竹見、了解。オクレ」
「こちら竹見。要塞北側に直ぐに集まれ!オスプレイでケルチ半島に移動だ!急げ!」
日本のPS部隊がわらわらと要塞前のオスプレイに乗り込んでいく。
司令部に着いた澤城大佐はアレクセーエフ大将と軽く打ち合わせをした後に守備隊の再編成を行った。
「日本自衛軍の澤城大佐です。アレクセーエフ大将閣下の副官として守備隊を水際防御に再編成しますので、よろしく。」
「海軍艦隊はオデッサ軍港に転進して補給修理に入ってください。」
「セントリー、こちらPSの澤城だ。5分後にシヴァストーペリー要塞南側の海上50m地点から150m地点までレールガンを撃ち込んでくれ!それとP8哨戒機からありったけの爆雷を落としてくれ!護衛機も頼む。」
「ワット大佐!澤城です!貴軍の特殊戦車で要塞に向かってくるカモメもどきを焼き落として貰えませんか?」
「オーケーだサワシロ、コナクリのリベンジと行こうじゃないか!」「大佐殿に幸運を!」澤城が応じる。
「竹見、天城、何としてもケルチ半島を死守するんだ!骨は拾ってやる!炭になったら火鉢でこき使うから死ぬんじゃないぞ!行け!」
澤城の背後でアレクセーエフ大将は感嘆した面持ちで澤城の指揮を見ていた。
アレクセーエフも、アフガニスタンの最前線で戦った記憶を思い出して奮い立った。
「キエフの総司令部に弾道ミサイルの飽和攻撃を要請しろ!目標は要塞南側の海上で構わん!海が沸騰する位の弾を撃ち込んでやれ!」
「軍港内に停泊中の『ひゅうが』より入電。ソナーに感有り。海底を多数の何かが要塞西側の海岸に向けて移動中!」
「大将閣下、敵は西側海岸に上陸して来ます。予備の戦車師団で海岸を包囲して迎撃しては如何でしょう?」澤城が提案する。
「分かった、タマン親衛旅団は海岸に向かえ!戦闘ヘリも海岸包囲に参加させろ。ボルゴグラードの奴等だけに勝利の美酒を飲ませるな!」
アレクセーエフ大将は発破をかけた。
司令部にいたロシア兵は感激して「ウラー!」と歓声を上げて持ち場に向かった。
クリミヤ半島では異形群による上陸を阻止する死闘が始まろうとしていた。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は明日17時に投下します。
明日は1本のみの投下ですm(__)m




