ホロコースト
この小説はフィクションです。実在する国家、団体、企業、個人、法律等とは一切関係ありません。
2023年1月13日午前1時20分
【イスラエル国境まで50キロの 旧エジプト領内 上空10000m】
テルアビブ空軍基地から出撃した12機のイスラエル空軍F15スーパーイーグル編隊は、"異形の群れ"を視認すると直ちに中性子爆弾を装着した空対地ミサイルを次々と発射した。
12発のミサイルは異形の群れの上空100mで爆発して爆心地から半径5キロまでに存在する全生物の細胞を破壊して死に至らしめた。
細胞を破壊された生物は異形の怪物、イスラエル国境を目指す無数の避難民を問わず、身体を豆腐のようにグニャリと崩して体液を噴出させながら絶命した。
その光景を上空から無人偵察機がリアルタイムでテルアビブ基地に送信していた。
「攻撃評価はどうなっている?」モニターを視ながら、ナタニエフ首相は吐き気を抑えてシュロン国防相に確認する。
「異形の先頭部分にあたる推定20万、怪物総数の20%を殲滅出来たようです。後続の怪物共は進路を変えてヨルダン、トルコ東部、シリア方面を北上するようです。我が国を避けるルートです。」
シュロン国防相が答える。
「我が国は怪物の群れの中で孤立する形だな。」
「はい、これ以上の攻撃は我が国の国土に被害をもたらしてしまうので守りを固める以外に有りません。」
「米国の支援はどうなっている?」
「戦略爆撃機の大隊がディエゴガルシアから間もなく飛来します。」シュロンが報告を続ける。
「万一に備えて、日米航空宇宙軍がレールガンで宇宙からの支援砲撃を試みる準備をしています。」
「わかった。日本と米国に素直に感謝しよう。」
ナタニエフ首相は覚悟を決めた。
建国から70年余り、この地で最期まで戦おうと。
イスラエル軍の中性子爆弾攻撃で進路を変えた異形の群れはイスラエルの東側に位置するヨルダン南部から国土を蹂躙しながら北上し、シリア東部国境を越えてトルコ東部の地方都市を蹂躙しながらさらに北上、1月20日にはアルメニアに侵出した。
トルコのインジルリク空軍基地からNATO軍が偵察を何度も行ったが、異形の群れが通過したヨルダン、シリア東部、トルコ東部、アルメニアの生存者は皆無に近かった。
推定死者数は1000万人に達し、世界は恐怖した。
一方で異形を迎え撃つ準備がロシア連合のオデッサからボルゴグラード(旧スターリングラード)にかけて行われ、G8各国の陸海空軍が集結しつつあった。
米国海軍は第二次大戦で使用した戦艦『アイオワ』『ニュージャージー』『オハイオ』の3隻を復帰させ、徹夜のレストアにより、巨大な破壊力を誇る46センチ砲がアゾフ海や黒海の戦列に加わった。
また、レーザー砲やマイクロ波を照射する特殊戦車部隊も初めて戦場に登場した。
日本からも澤城率いるPS特殊作戦軍が派遣されて、米軍特殊戦車と共同作戦を取ることになっていた。
クリミヤ半島のシヴァストーペリー(セバストポリ)要塞にオスプレイで向かう澤城の大隊は眼下に広がる黒海の美しい海岸線や砂浜を眺めていた。
「あそこがヤルタ会談が行われたロシアで有名な避暑地なんですよ。」
にわか軍事歴史オタクになった林軍曹が天城大尉に説明する。
「あんな美しいところで怪談とはな。どんな怨みがこもっているんだろうか。林、塩を忘れるな!」
天城大尉、なんか言葉の意味取り違えてますし、冗談通じない方ですか?ヤルタ会談知らないの?
と林は失礼な事を思いながら、思わず
「はい、いいえ大尉殿。そっちの残念な怪談ではなくてですね………」
「む………。」天城のこめかみに青筋が立つ。
第一小隊が搭乗するオスプレイから、幹に粗塩をすりこまれて悶絶する林の悲鳴が大隊通信回線に流れたが、もはや大隊恒例の様式美になりつつあり、隊員達は装備のチエックに余念が無かった。
澤城大隊の母艦である『ひゅうが』と随伴するイージス艦2隻とフリゲート艦2隻はシヴァストーペリー要塞防衛任務を受け、オスプレイに続いて黒海北部のクリミヤ半島を目指していた。
ロシア連合軍はオデッサとクリミヤ半島、ボルゴグラードの防衛線を突破されると、穀倉地帯が壊滅するため、第二次大戦で使用した戦車も含めて国内各地から数万台の戦車と大量の予備役を動員し、ボルゴグラード南部の平原に空前規模の機甲軍団を出現させた。
宇宙空間からも米ロ日の航空宇宙軍がラグランジュベースから出撃して地上への支援砲撃準備を整えていた。
そして1月30日午前5時、アルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア(旧グルジア)を蹂躙した異形の群れがカフカス山脈を埋め尽くすように越えて、ロシア南部を望む平原に現れた。
史上最大の攻防戦が始まろうとしていた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
次話は明日正午に投下しますm(__)m




