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植人【外伝】月の番人  作者: NAO
邪悪な異形
10/25

死の洪水

この小説はフィクションです。実在する国家、団体、企業、個人、法律等とは一切関係ありません。

2023年1月12日

【旧エジプト スエズ県 スエズ】


テレビレポーターが、夜のサハラ砂漠をバックにカメラを通して世界中の視聴者に話しかけていた。

「私達CNNのチームはエジプト内戦を取材するために1週間前に現地に入りましたが、エジプトの人々は内戦に明け暮れているのではなく、新たな人類の脅威と戦っていることがわかりました。」


そう言ってレポーターが録画した画面を流す。

「これは、5日前に廃墟となった首都カイロ郊外で撮影した、旧エジプト軍部隊が加わった地元部族連合と謎の異形の群れとの戦闘シーンです。」


画面では旧エジプト陸軍のロシア製T72主力戦車の隊列が亀の甲羅を持つマンモスもどきの群れに発砲している場面が流れていた。

戦車砲弾は1頭のマンモスもどきの胴体に命中したが、硬い甲羅の表面を僅かに抉った程度で砲弾を受け流し、致命傷を負っていない様に見えた。


戦車部隊が慌てて後退したところに別のマンモスもどきの群れが横から戦車部隊に体当たりをして戦車が次々と横転、ひっくり返ってしまう。さらにマンモスもどきが殺到して戦車部隊を踏み潰していき、やがてひしゃげた戦車の内部にあった砲弾が誘爆したのか、戦車が各所で爆発した。部隊の乗員は誰も脱出出来なかった。


撮影したカメラマンはジープに乗っていたのか、画面が慌てて後退する装甲車や機関砲を載せた軽トラックに群がる兵士達をぐんぐんと追い抜いていく。

後退する装甲車や軽トラックに乗った兵士達は次々とマンモスもどきに踏み潰され、群れの中に消えていく。


不意に画面の上からミサイルがマンモスもどきの群れに降り注いで群れの足が僅かに止まる。

ロシア製の戦闘ヘリコプターの編隊がロケットランチャーや重機関銃をマンモスもどきに撃ち込む。


歓声を上げる兵士の上を戦闘ヘリが高速で通り抜け、異形の群れ上空で再びミサイルを発射した途端に、銀色に光輝く何かが操縦席を貫通して、黒煙を噴き上げながら戦闘ヘリが墜落していく。


そして地上で歓声を上げていた兵士にも銀色の"ツバメ"が襲いかかり、兵士達の身体が貫かれたり、手足を切断されたりして地獄絵図が展開された。


カメラは助けを求める兵士を振り切って、戦場を急いで走り抜けひたすら砂漠を走り続けた。


画面が夜のサハラ砂漠に変わり、

「この異形の群れは現在、私の背後の砂漠で旧政府軍と地元部族連合の残存勢力が展開する最後の防衛線に接触しようとしています。

この防衛線を抜けるとそこはスエズ運河です。

既に避難用の最終ヘリは飛び去りました。

視聴者の皆様、この映像は私が一人で操作している為、ぎこちない映像でお送りしますがお許しください。ニューヨークのスタジオに伝えます。ナンシー、他のスタッフはヘリで退避したよ。

私、ジム・マッコイが彼らの戦いを現地からの生中継でお伝えします………。ナンシー、愛している。私は末期ガンなんだ………すまない。」


やがて、機関砲が火を吹き、迫撃砲や戦車砲の轟音が画面を震動させた。カメラは地平線の彼方から迫る黒い集団の各所で砲弾が爆発し、機関砲が飛び交う戦場を映し始めた。


銃砲撃に加え、上空からは多数のジエット戦闘機と思われる轟音が響き渡り、黒い集団の中で一際大きい爆発が各所で起こる。


激しい砲爆撃にもかかわらず、黒い集団はヒタヒタと画面に接近し、砲爆撃の音に、兵士の叫び声や絶叫、悲鳴、自動小銃の乱射音が交じり始める。


「私の目の前に今、巨大な何かが、あーーっ!」

レポーターの音声が途切れ、画面が横転し、暗転した。


真っ暗なテレビ画面からしばらく女性の悲鳴が聴こえたが、ニューヨークのスタジオへ切り替わった。

沈痛な顔の女性キャスターが俯きながら

「………。ジムの冥福を心から祈ります。彼に愛を。」

CNNのニュースキャスター、ナンシーが声を詰まらせながら呟いた。


【インド洋 イギリス領 ディエゴガルシア島 米国海軍基地 護衛艦『ひゅうが』食堂】


ツバメ大隊の隊員達は食堂でCNNのテレビ中継を視ていた。


「これでアフリカにまた行かなくて済んだな」

澤城大佐が泣き腫らした顔の女性キャスターが映るテレビ画面を見つめながら呟いた。


「なぜでありますか?大隊長殿。」隣でテレビを視ていた林軍曹が幹を器用に傾げながら質問する。


「馬鹿者!これで異形の正体は分かったんだ、人類の武器がどの程度通用するか性能評価付きときたもんだ。」

天城大尉が林の背後から幹を上に引っ張りながら答える。


「あだだだだだ!痛いです!」

林は手痛い無知の代償を払うのだった。


「この後はたぶん……………」澤城が何か言おうとしたが、ジエット機の爆音でかき消される。


食堂の窓から外を見ると、戦略空軍のB1戦略爆撃機が次々と西の空へ出撃していた。


「さすがアメさん。早いな。」澤城が言った。

護衛艦『ひゅうが』は異形カモメに破壊されたレーダーや通信設備の修理をしている最中だった。

修理の完了まであと数日はかかりそうだった。



その日、スエズ運河は多くの犠牲者と共に、異形の怪物の手に落ちた。


あっさりと防衛線を突破した異形の群れによる"死の洪水"はイスラエル国境に迫りつつあった。

この時点でイスラエル政府が国外に脱出させた国民は10万人にも及ばなかった。


同日午後11時、ナタニエフ首相は米国のペンス大統領に核兵器の使用を通告した後、テルアビブ郊外の空軍基地で待機していたF15戦闘機に中性子爆弾の使用を命じた。

ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m


次話は17時に投下しますm(__)m

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