70話 愛称
「あふ……」
宿の一階の食堂でのんびりしていると、最初にラファエルが姿を見せた。
眠そうにあくびをしつつ、こちらにやってくる。
「おはようございます」
「ん、おはよ……ふぁ」
「あ、ラファエルさん」
「ん?」
「そのままじっとしててください」
「え? え?」
そっと、ラファエルに近づいていく。
「ちょ、まっ……!? い、いきなり!? っていうか、こんな人目があるところで……!」
「よし、寝癖が直りましたよ」
「え、寝癖?」
「はい。ちょっと髪がはねていたので、手でささっと」
「……」
ラファエルは顔を赤くして、ぷるぷると震えた。
「あ、あたし、なにをしているのよ……こんな勘違いをして、挙げ句、ちょっと期待していたとか……」
「えっと……どうかしたんですか?」
「なんでもないわよ!」
なんで怒っているのだろう……?」
「おはようございます」
今度はウリエルが降りてきた。
こちらはスッキリとした顔で、完全に目が覚めている様子だ。
「おはようございます、ウリエルさん。なにか飲みますか?」
「えっと……じゃあ、ミルクを」
「わかりました」
僕の注文と合わせて、店員にオーダーを通した。
ほどなくしてミルクと紅茶が運ばれてくる。
ミルクはウリエルのもの。
紅茶はラファエルのものだ。
「あたし、頼んでないけど?」
「飲むと頭がスッキリしますよ」
「……一応、ありがとうって言っておくわ」
ふいっと顔を背けつつ、ラファエルは紅茶に手を伸ばした。
照れているのかな?
なんとなくだけど、彼女の考えていることが理解できるようになってきた。
ラファエルも花嫁になったから……なのかな?
「ところで、カイル達はどんな目的があってあの村に来たの?」
「目的? そういうのは特にないですね。強いて言うのなら、悪魔がいるっていう噂を聞いたから……でしょうか」
「そうなの? なら、普段はなにをしているのよ」
「えっと……特に目的はないですね。僕、世界を旅したくて、あちらこちらを回っているんです。あ、それが目的になるかもですね」
「気ままなのね」
「旅が好きなんですか?」
「えっと……」
亡くなった母は、外に出ることが許されておらず、籠の中の鳥だったこと。
だから、母に代わって世界を見て回りたいこと。
そんな事情を話すと……
「うっ、くぅ……ぐすっ」
「お姉ちゃん、ほら、涙を拭いて?」
「……ありがとう」
ラファエル、ものすごく泣いていた。
実は感情移入しやすい?
「あんた、苦労してきたのね……」
「えっと……ありがとうございます」
「なんで、そこでお礼を言うのよ」
「だって、僕のことを心配してくれたんですよね? 嬉しいから……だから、ありがとうございます」
「別に……ふん。そういうわけじゃないわ」
「ふふ。お姉ちゃん、意地っ張りなんだから」
なんだか、姉妹の立場が逆転しているような気がした。
「ところで、ルシファル様とミカエル様はまだ寝ているんですか?」
「そうですね。ルルとミリーは、けっこうねぼすけさんなので。たぶん、もう少し寝ていると思いますよ」
「なんか意外ですね。もっとしっかりした方かと思っていました」
「……」
ふと、ラファエルが微妙な顔をした。
「どうしたんですか?」
「……ルシファル様とミカエル様は、愛称呼びなのね」
「え?」
「二人だけ愛称なのね」
「えっと……」
愛称で呼んでもらえないことに拗ねている?
「もしかして、愛称をつけてほしいんですか?」
「……そんなことないわ。変な勘違いをしないで。断じて違うわ。絶対よ」
「えっと……」
ものすごくわかりやすい。
「えっと……私、カイルさんに愛称で呼んでほしいです。よかったら、私とお姉ちゃんの愛称を考えてくれませんか?」
「……まあ、ウリエルがそう言うのなら仕方ないわね。考えることを許すわ」
めんどくさいようで、でも、可愛い性格だ。
「えっと……」
ラファエルとウリエルの愛称。
どんなものがいいかな?
しばらく考えて……
自然と思い浮かんだ言葉を口にする。
「ララ、なんてどうですか?」
「……ララ……」
「それと、ウリエルさんは……ウルルで」
「……ウルル……」
姉妹だから似たような響きがいいと思い、そんな愛称にしてみた。
気に入ってくれるだろうか?
「ララ……か。まあまあね」
「ウルル……とても素敵です!」
よかった。
二人共喜んでくれたみたいだ。
「じゃあ、これからは、ララとウルルって呼びますね」
「はい、よろしくお願いします」
「その……」
ラファエル……もとい、ララは恥ずかしそうにしつつ、しかし、ぶっきらぼうに言う。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
そこで、ララは小さく笑い……
そんな彼女の笑みは、なによりも綺麗だと思うのだった。
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