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59話 自分で解除してもらう

 僕、ルル、ミリー。

 そしてラファエルの四人は、村長の家の裏手に潜んでいた。


 時間は深夜。

 村は静まり返り、虫の鳴き声だけがわずかに響いている。


「本当にうまくいくの?」


 ラファエルが懐疑的な視線をこちらに向けてきた。

 それに対して、僕はしっかりと頷いてみせる。


「大丈夫です、僕を信じてください」

「……そうね。わかったわ、あなたを信じる」


 ラファエルは小さな笑みを浮かべて、優しい顔をしてくれた。


 それを見て、ルルとミリーがこそこそと話し合う。


「……ラファエル、カイ君にかなーり心許してない? これ、お嫁さん増えるパターン?」

「……旦那様は悪魔たらしだからのう……仕方ないし、ミカエルの件もあるから反対はしないが、しかしモヤモヤするのだ」

「……今度、カイ君襲っちゃう? それで、ストレス発散」

「……うむ、とても素敵な案なのだ」


 なにやら恐ろしい会話がされているような……?


「っと……みんな、静かにしてください」


 村長の家に動きがあった。

 裏の勝手口が開いて、複数の人影が姿を見せる。


 一人は村長だ。

 その他数人は武装している男達。

 たぶん、雇われ傭兵だろう。


 そして……


「ウリエル……!」


 ラファエルが小さく叫ぶ。


 手足を拘束されたウリエルが、男の一人に抱えられていた。

 意識がないらしく、ぐったりとしている。


「大丈夫です。たぶん、薬かなにかで眠らされているだけです」

「どうしてそんなことわかるのよ!?」

「僕、目は良いので」


 この距離でも、ウリエルが呼吸をして胸が動いているところが見えた。


「ふむ……簡単な封印装置は使っているっぽいが、あれなら我がすぐに取り外せるな」

「ってか、ここまでカイ君の思い描いた通りになるとか、めっちゃすごくない? ウケる」


 僕は、大して複雑なことはしていない。

 ただ単に、匿名で村長の家にとある通報をしただけだ。


 あなたの家にいる悪魔に教会が気づいた可能性がある……と。


 悪魔を匿う、利用するなんて、教会に対する反逆行為に他ならない。

 教会に見つかれば、確実に処分されてしまうだろう。


 村長はそれを良しとしないはず。

 僕から商売の話を持ちかけられているから、なおさら、ウリエルを手放そうとしないはず。


 だから、こっそりとウリエルの監禁場所を変えるだろう……そう読んだわけだ。

 その読みは正しく、村長はウリエルを移動させようとした。

 自分の手で、わざわざ封印装置の外に出して。


「ルルとミリーは、ウリエルさんをお願いします」

「らじゃったのだ」

「おけまる」

「ラファエルさんは、僕と一緒に護衛を」

「いいわ。今までの鬱憤、晴らしてやる」

「……殺しはなしですよ?」


 一応、釘を指しておいた。

 聞いてくれるといいんだけど……


「……わかったわ。あんたがそう言うのなら、従ってあげる」

「ありがとうございます。ラファエルさんは優しいですね」

「別に……後々で面倒になるのが嫌なだけだから」


 ふいっと、ラファエルは顔を逸らす。

 照れているのかな?


「よし、いきましょう」


 3……2……1……

 心の中でカウントダウンをして、


「ゴーッ!」


 ゼロになった瞬間、あえて大きな声を出しつつ突撃した。


「な、なんだ!?」


 僕達の襲撃をまったく予想していなかったらしく、村長達は思い切り慌てていた。

 大声を出したことも、良い方向に働いて、脅かしてくれたらしい。


「そやつから離れるのだ!」

「女の子は、優しくしないとダメダメっしょ」


 ルルの鉄拳とミリーの魔法が炸裂して、ウリエルを抱えていた男が吹き飛ばされた。


 ウリエルが放り出されるものの、ルルとミリーは抜かりない。

 男を放り出して、すぐにダッシュ。

 そのまま、ふわりとウリエルを二人で抱きとめた。


「なっ!? お、おい、誰かその悪魔を取り戻せ!!!」


 やや遅れて状況を認識できたらしく、村長が怒りに叫ぶ。


 でも……


「そんなことはさせません!」


 傭兵が二人、突撃してくるものの、僕は冷静に対処する。


 二人共に剣を抜いて斬りかかってくるものの……

 遅い。

 ルルと比べたら、象とアリのようなものだ。


 縦に振り下ろされる剣は横にステップを踏んで、余裕を持って回避。

 そのまま敵の懐に潜り込み、剣を持つ手を蹴りつける。


 二人目は斜めに剣を払うけれど、これも遅い。

 拳を下から振り上げるようにして、剣の腹を叩いて弾き飛ばした。


「炎牙」


 そのまま、魔法拳で傭兵の腹部に抉るような一撃を叩き込む。


「風牙」


 最初の一人も、同じく攻撃を当てて……

 そのまま地面に沈める。


 よし。

 僕、ちゃんと戦えているぞ。

 昔のように、なにもできない僕とは違う。

 そのことがどこか誇らしい。


「よくもあたしの大事な妹に……」


 ラファエルは四人の傭兵を相手にする。

 しかし、まったく怯むことはなく、むしろ気迫で相手を圧倒していた。


「ふざけたことをしてくれたわね!!!」


 どこからともなく剣を取り出して、ラファエルはそれで傭兵に斬りかかった。

 傭兵は剣を盾にして防ごうとするが……


「なっ!?」


 剣を斬られてしまうという、とんでもないことが起きた。


 ラファエルの持つ剣が特別なものであっても、剣で剣を斬るなんて話、聞いたことがない。

 単に優れた剣を持っていれば可能、というわけじゃない。

 言葉では言い表せないほどの技術、途方もない修練を積んだ者でないと実現できない、まさに神業だろう。


「はぁあああああっ!!!」


 ラファエルは嵐のような猛攻を繰り出して、四人の傭兵の剣、全てを両断した。

 その上で、剣の腹で脇腹などを叩いて、戦闘不能に陥らせる。


 すごい剣技だ。

 全てを叩き斬る豪胆さがありつつも、舞い踊るかのような華麗さもある。

 あの領域に至るまで、いったい、どれだけの修練を積んだのだろう?


「ば、ばかな……」


 あっという間に傭兵達を失い、村長は体を震わせていた。


 青い顔であちらこちらを見て……

 そこでこちらに視線が止まり、ようやく僕に気がついたらしい。


「あ、あなたはバーンクレッド家の……!? ど、どうして、このようなことを……!?」

「あ、ごめんなさい。僕、商人なんてやっていません」

「は?」

「あなたに近づいたのは、ウリエルさんを助けるためなので。そのために商人を騙りました」

「な、な……」


 ようやく事態を飲み込めたらしく、村長の顔が怒りで赤くなる。


「ふ、ふざけるなぁっ!!!? 貴様、儂の財産を狙う賊だったのか!?」

「ふざけているのはどっちですか。妹を誘拐して姉に言うことを聞かせるとか、やっていることは盗賊じゃないですか。そんなことをして恥ずかしくないんですか?」

「ふんっ、なにをバカなことを。そいつらは悪魔ではないか。人間の敵だ。だから、なにをしても構わないに決まっているだろう」

「……確かにラファエルさんとウリエルさんは悪魔ですけど、でも、ちゃんと話が通じるんですよ? それなのに、物のように扱うなんて……」

「はっ、バカを言うな。そやつら悪魔は物以下の存在だ。ただ存在しているだけで害悪だというのに、私達の餌となり養分となることができるのだ。光栄に思ってほしいな」


 村長の視線がラファエルに向いた。


「お前も私に感謝するべきなのだ。せっかく、討伐をしないで拾ってやったというのに……それなのに、恩を仇で返すような真似を。恥を知れっ!」

「あなたに助けられた覚えなんてないわ。妹をさらい、無理矢理薬を作らせていたくせに……よくもそんなことが言えたものね」

「ふんっ、不良品の命を私が有効活用してやろうというのだ。感謝してほしいものだな。どうせ、お前も妹も誰からも必要とされず、嫌われ、軽蔑されて、行く宛もなく死んでいくしかない、ゴミのような存在だというのに」

「このっ……」

「ふざけないでくださいっ!!!」

「ふがぁ!?」


 気がつけば、僕は村長を殴り飛ばしていた。

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[気になる点] >「……ラファエル、カイ君にかなーり心許してない? これ、お嫁さん増えるパターン?」 >「……旦那様は悪魔たらしだからのう……仕方ないし、ミカエルの件もあるから反対はしないが、しかしモ…
2022/11/08 02:26 退会済み
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