拒絶ガールは是が非でも告白魔にお近づきになりたい!(梨奈視点)
ブロッコリー(マヨネーズ別途付属)・卵焼き(醤油味)・ポテトサラダ・タコさんウインナー・梅干し入りのご飯。
ふむふむ、改めて中身を確認すると実に基本を塗り固めたお弁当である。
手料理というのはお母さんに任せっきりで真剣に取り組んだことがないので実際にやってみなければ上手くいく保証なんてこれっぽっちもなかったが案外形になっているようでなにより。
分からないことは分からないなりにスマホの知識やお母さんの知恵袋を借りてお弁当箱を作成。
小一時間掛けて出来上がったものは大層嬉しくなって、一人で舞い上がって。
背中を振り向くとお母さんはやたらとニヤニヤしていた。おやおや、彼氏でもできたの? とか茶化されたけど、残念ながら彼氏ではない。
そもそも女子高に男子との出会いなんてあるはずもない。いや、あるにはあったけど……文化祭では違反行為を働く男子達を蹴散らしていただけだしなんとも言えない。
「よーし、今日こそは捕まえてやる」
起床。数日前の曇り空から一転して眩しい朝日が立ち込める。窓を開けて息を吸って身体の調子を整えて、自室からリビングに移動して朝食でパワーをつけて地に足をつけながら学びの校舎へと歩む。
この感じ……今からダンジョンに入り込むかのようだ。ここから踏み入れたらもう二度と戻れない。
お弁当箱を渡すまでは絶対に帰ってやるものか! こいつは私が必死こいて作り出した努力の源!!
やたらとあれだけしつこくアプローチしてきた以上、私の手作りだと言えば絶対に寄ってくるはず!
そうに違いない!! まずは廊下ですれ違いざまに!
「月島!」
「ごめんなさい!」
ちっ、諦めてたまるか! ならば、お次は空き時間に一年の教室を覗いて!
「月島!」
「……月島さんなら、さっき出ていきましたよ」
「ふ~ん、そっか」
いやいや偶然でしょ。だったら、また何回か行けば。
「月島!」
「平井先輩……月島さんとなにかあったんですか? 用件があればこちらで伺いますが」
「必要ない! 私が直接あの子に言い渡すから!」
「は、はい!」
ぐぬぬぬぬっ! 月島~、どれだけ私を困らせれば気が済むのよぉぉぉ!
「たくっ、その調子だとまた失敗したみたいだな」
「そうよ! 失敗したのよ! あぁ、もう!」
「おー、怖い怖い」
こんな時、隣にはっちゃんが座ってくれていたら私のこと宥めてくれるのかな。
できれば頭の上ポンポン叩いてよしよししながら頑張ったねぇとか天使のような囁きで撫でていただければすぐに充電完了するんだけど……薄茶色のボーイッシュな髪型ではっちゃんとは正反対の男勝りな浅倉が相手だとそんなことはまるで起きなさそうだ。
いや、起きなくてもいいけど……よりにもよって二年生に繰り上がって何故に一年から知り合いのこいつが?
神の気まぐれないたずらかなんかですか? どうして、私の可愛いはっちゃんを引き離す必要があるの?
腸煮えくり返りそうだからわらしの人形に釘をハンマーで叩いて神様ごと呪い殺したい気分ね……そうじゃないとイライラが止まらないから。
「次はどうすんだ? また性懲りもなく挑むのか?」
「お昼休み……この時間帯になんとしても渡す。直接お弁当箱を持っていってでも仕掛ける」
「へっ、なんだかストーカーっぽくなったな。平井さんよ」
「わ、私はストーカーなんかじゃないから」
「大丈夫。分かってるぜ、それくらい」
「だったら笑うな。あとニヤニヤするのも禁止!」
「へいへい」
本来なら鞄を持ち込む前に強制的に二人だけで話し込める時間外欲しかったけど。
私の目から逃げるようなら作戦は強制的に執行する他ない。かまりこういう手は使うべきじゃないけど……あとから教師にどんな説教が与えられるか考えるだけで震えがが止まらなくなるけど。
もう二度と話せなくなるのならルールを一時的に破ってでも……私は!
「はい、それじゃあ授業終わるぞ~。委員長、号令~んっ!?」
腕を振って全力ダッシュ! 鞄の中に弁当箱二つ詰め込んだことはきちんと確認済み。
一応中身が飛び出すという恐れも想定して、鞄も予備で二つ持ってきた。
鞄に関しては自由だからそれはそれで助かる。これはその為だけにあったんだね!
「月島ぁぁぁ!」
「ひゃう!? せ、せせ先輩!?」
「見つけた!! 今度こそは!!」
「うぁぁぁ、いやぁぁ!!」
ちょっ! は? ぐぬぬっ、なんでまだ逃げるのよ! 折角視界に捉えたのによりにもよって反対側の扉から逃げられてしまうなんてとんだ想定外! いや、しかしそこで諦めるわけにいかない!
「月島ぁぁぁ! 逃げんなぁぁ!」
「…………あれってどういう状況?」
「告白魔が拒絶ガールに追い掛けられているようにみえるけど」
「えっ? なおさら意味分かんないんだけど」
「もしかしたら、私達には理解が置いついていないだけかもしれないわ」
「「なるほど~」」
月島。あんたは今どこに隠れているの? どこまで逃げ回っているの? お願いだから、返事してよ。
じゃないと……この目できちんと確認するまで大声で叫ばなくちゃならない。
誰かに見られたって、不審がられたって問答無用。今日お弁当食べてくれなきゃ私一人で二つも食べないといけないんだから責任持ってきちんと食べてくれないと困るのよ!!
「月島ぁぁ! ちっ、ここじゃないか」
体育館、食堂、校舎裏とちらちら見ても栗茶色のツインテールが見当たらない。
ならば、更衣室か。思い立ってすぐにドアノブに手を掛けても開いてる感触がなかった。
「……このままだと時間が」
いたずらにあてずっぽうで探し回ったところで時間を闇雲に消費させるだけ。
ならば、ピンポイントで月島が潜んでいそうな場所を一旦推理してみるのはどうだろう?
とはいえ……あの子って毎回神出鬼没。昼間なんて、大抵どこにいるの皆目検討がつかな……ん?
「あっ! もしかして!!」
輪から外れようとも、ベンチで黙々と菓子パンを放り込む月島を三階の中央廊下から眺めていた記憶がある。
その時に浮かべていた表情は私に対していつもちょっかいを掛けて馬鹿みたいに笑う月島とは全くの別人で。
あんな表情も浮かべられるんだとかそんなことを頭の中で考えていたっけ?
でも、正直言うと月島にはそういう顔をしてほしくないって想いの方が強かったんだけど。
「月島、はぁ……はぁ……はぁ。やっと見つけた」
お昼は大体ここにいる確率が高いというのに、逃げ出した月島を追うのに精一杯で完全に見逃していた。
しかも、ここはよくよく考えればガラの悪い男達と揉めあっていた私と月島の最初の出会いだというのにそれすらも失念していたなんて。
「やれやれ、あんな大きな声で叫んで注目を集めようとするなんてぇ……先輩は恥ずかしくならないんですかぁ?」
ポツンと逃げも隠れもせず端っこのベンチに座っていた。私が月島の名前を叫ぶと同時に両手で馬鹿にしているかのようなジェスチャー。
けれど、声は震えていた。どうしてか、私にはそれがよーく分かる。
「恥ずかしくなんてならない。あんたを捕まえる為なら私はどんなことだってする。これっきりの関係で中途半端に終わらせたくないから」
「梨奈先輩……」
たとえ、ここがお昼真っ最中の中庭で幾つかのテーブルと幾つかのベンチの中にランチタイムしている子達の目線がこちらに注がれていたとしても……私は一向に気にならない。
そんなグループの子達よりも月島の方を優先する。私は聞きたい……なんで、どうして。
「月島の本気はこの前の更衣室で充分伝わった……けど、その想いに応える前に個人的に聞きたいことがある。月島はなんで……毎回こっぴどく振っている私に好意を伝えるの? 一体どこを見て好きになったの?」
口元が緩むと同時ににっこりと笑う。私だけに向けた表情なのだろうか? なんだか、とってもドキドキする。鼓動が全然収まってくれない……あぁ、なんて無邪気な。
「好きでいるのに理由なんて必要なんですかぁ?」
「えぇ、私にとっては重要よ」
「……文化祭のあの日に惚れたんです。寄って集って私をしつこくナンパしようとしてくる男子達を口先で恐れることもなく堂々とした態度で撃退して。それから一瞬で好きになっちゃいました。王子みたいに颯爽と現れて木っ端微塵に自分の力で撃退する勇ましさに……目が離せなかったんです。家に帰ったあともずっと」
こうやって間延びせずに一言一句言葉に出す月島は大変珍しい。
だが、言葉を聞いたところで私には一つ納得ができなかった。ただ単なる個人的な意見として言わせてもらえれば。
「私は文化祭実行委員だったから仕事として出来る限りのことをやっただけ。救ったのもたまたま……もし、私じゃなくて別の人だったら間違いなく月島はその子に惚れていると思うよ」
心がズキリと痛む。違う、私はそんな冷たい言葉を吐くために探し回っていたわけじゃないのに。
自分の言葉に嫌気が差す。また嫌われる方向に話を持っていっている。
なのに、月島は懲りず私の両手をぎゅっと一つに結んで。顔が近い……息が荒い。
緊張しているのか顔も真っ赤。そこで私は気づいてしまった……この子は間違いなく自分に恋してると。
栗茶色のツインテールがふわっと宙に舞い、非常に整った顔立ちは近づけば近づくほどに更衣室で起こしてしまったあの出来事が非常にはっきりと思い浮かんで。
あぁ、まずい。私も……顔が思わず赤くなりそうだ。
「梨奈先輩……私はあなたのことが本気で好きです。真剣に付き合って欲しいんです! こんなにもこんなにも好いていても……まだ旭川先輩のことが諦められないんですか?」
「はっちゃんは関係ないでしょ」
「関係ありますよ。旭川先輩のせいで踏ん切りがつかなくなっているんですから」
戸惑っているだけだ。口には出さないけど、ここまで真正面から告白されて心が揺れ動かないなんて冗談も馬鹿馬鹿しい。
「……」
「先輩、返事聞かせてもらってもいいですか?」
表はちょっかい掛けたりいたずらする小悪魔で裏では気を回したり、会話を楽しく弾ませるように持っていったり。
マネジャーとしても非常に優秀で、私にとっても必要な存在。これからもいてもらわなければ困る。
抜けたりなんかされたら部活に……いいや、私の心に傷が開く。
大切な後輩を……朱里を失いたくない。だから、まずは。
「先輩後輩関係なく、友達から始めよう。そこからゆっくり時間を掛けてーー」
「恋人って言ってくれなきゃ、二度と口なんて聞いてあげませんから」
「はぁぁぁ!?」
「それが嫌なら、あとはもうお分かりですよね?」
「ぐぬぬぬぬっ! 月島ぁぁぁ!」
「駄目ですよ、せ~んぱい♪ 暴力は禁止ですぅ♪」
弱った。この子、ほんと私の痛いところを突くのがお上手だ。断れないと知って踏み込んでくるのもなおさら性格が悪いというかなんと言うか。
はははっ、朱里と一緒に居たらこれから先逃げられなさそうだ。
なんというか……ずっと付き合うとかそんなこと決めていないのになんだか近い将来そんな風になってしまいそうで。
つまり、なんやかいって私は子の隣に立っていることを望んでいるのだろう。
今まで散々はっちゃんの方に矢印が向いていたのに。うわぁぁ! ごめんよ! はっちゃん!!
「月島」
「朱里でどうぞ」
要求までするのかよ。くっ、わざわざ皆の前でこれ言わされる私の身にもなれっての!
「朱里」
「はい」
「恋人として付き合う? 私、けっこう面倒くさい女だけど……それでもよけれーーぶほぉ!?」
「はい……はい! お願いします! 梨奈さん!」
「こらぁ! くっつくな! 鞄の中の弁当箱が崩れるからさっさと離れろぉぉ!」
「私のために作ってくれてありがとぉー」
「はいはい、それよりもさっさと食べるよ。どっかの誰かさんのせいで時間が押してるからね」
「了解ですぅ」
抱き着かれて、困惑して、弁当箱を理由にして距離を取って。
テーブルとベンチとセットになっている席には座らず、いつも朱里が寂しそうな顔を浮かべて食べているベンチに座ってご飯と走りすぎてちょっと崩れたおかずを膝の上に並べて彼女に渡す。
全部どれもこれも美味しいですって大層喜ばれた。努力して作ったかいがあったというものだ。
「梨奈さん!」
ニコニコしながら、口元がふにゃりと緩む朱里。良かった……やっぱりあんたには笑顔が丁度いい。
泣いてる顔とか悩んでいる顔は朱里には似合わない。そんな表情は私の前ではしないでほしいから。
「ん?」
「ぶっちゃけ、私のことってどれぐらい好きですか?」
ふっ、答えずとも一番に決まっている。でも、教えてあげない。
遠からず朱里のことがはっちゃんを押しのけて一番好きだという日は近いうちに訪れるのだから。
けれど、その前に。
「そーだなぁ」
「ワクワク」
「二番目に好きよ……あんたのことは」
「ちょっとぉぉぉ! この場面では普通、一番って言う所でしょうがぁぁぁ!」
「あはははっ!」
笑いあって、からかって、意地を張って、ふざけあって。時間はまだ掛かるかもしれないけど、ちょこちょこいじってやろう……いつの日か愛しているって口にポロっと出せるまでは。
いつの間にか二人だけになった校舎の中庭で雲一つも見当たらない綺麗な青空にポツンと浮かぶ太陽に照らされながら私は笑う。
そういえば、誰かの前でこんなに大きく笑うのって滅多にないなぁ……なんて思いながら。




