拒絶ガールはなんとかして告白魔と距離を詰めたい!(梨奈視点)
やってしまったぁぁぁ! やっちまったぁぁぁ!!
「うわぁぁ!! くそっ、なんでよぉぉ!」
なに、がっつりやってるの!? どうして、そんなに簡単に私の大事なファーストキス捧げてるの!? この大事な大事な唇は純粋でピュアで押せば押すほどチョロくなるはっちゃんのために取っておいたのに。
それをよりにもよって、あの後輩にぃぃぃ!!
「あー、もう訳わかんない!!」
自宅に帰還。顔赤いけど熱であるの? とか母親に言われた気がするけど、思い出すだけでまた沸騰しそうなので黙々と洗面所でランニングウェアを洗濯ネットと合わせて洗濯機に放り込み手を洗ってから自分の部屋へ。
鞄を放り投げてベッドにダイブ。そのあとなんも手が付けられなくて、そのまま夕食の時間になって以下略。
頭が破裂しそうになるくらい恥ずかしさで身悶える。うぎゃあああ! くそっ! なんであのあと人がひょっこり入室してくるかもしれない状況でキスしまくったの!?
ていうか最後らへん、あの子完全にノリノリだったよね!? いや、まあ私もどっちかっていうとノリノリ……だったかもしれないけどさ。
あー、唇が思っていたよりも凄く柔らかかったし、体操着の上でも遥よりちょっと大きいから密着してきたときにおっぱいの弾力も……うわっ、キモいなぁ。なに悦に浸ってんのよぉぉ!
「ぐぬぬぬぬっ」
翌日になって学校に登校してきたら目が合った瞬間に月島がぼそっと昨日はありがとうございましたぁとか意味深なこと言うのかな? あぁぁぁ!! 無理! 殻に閉じ籠りたい!
「やばっ、全然眠れないんですけど」
ベッドの近くに備えている枕に顔を埋める……も、脳内ですぐにピンク色になってしまい寝ようにも寝れない。
この煩悩は無理にでも沈める! そう思って自分の部屋のテレビをリモコンをぽちっと押して画面とにらめっこしても会話が全然頭に入らない……というか邪魔になる。
夜の12時……そろそろ寝ておかないと体力に差し支える。けれど部屋の明かりとテレビを消したところで就寝などできるコンディションでもなく、やはりどうしても月島の顔が思い浮かんでくる。
しかも、たったの二ヶ月間しか関わっていないのに一年の頃から仲良くしているクラスメイトよりも驚くほど繊細に。
「……明日どんな顔をして挨拶すればいいのよ」
笑った顔、ドヤッてる顔、馬鹿にしている顔、心配そうに見つめる顔、ちょっとぷくっと膨らませて本気で怒っているのか起こっていないのかよく分からない顔……ははっ、なんと恐ろしい。
一週間前から……いいや、私は前々からあの子のこと見てないフリしてしっかり見ていたんだ。
月島は気配りが上手で、よく私のことを見ていてくれている。実はあんな軽そうな女の子に見えても。
梨奈先輩、今日は調子悪そうでしたね。なんかよくないことでもありました?
梨奈先輩! 今日は素晴らしい走りでした!! 私、今凄く感激です!! あぁ、ほんとかっこよかったなぁ!
梨奈先輩、シャンプー変えました? 私としては前の方が好みだったんですけど、今さら変えられませんよね……
梨奈先輩、表情暗いですよ? 困っていることがあったらなんでも相談してください! きっと力になれると思いますので!
言葉を包み隠さず、ありのままの言葉を伝える月島。聞いていて恥ずかしくなるけど……それでも心の中では嬉しかった。
靴箱に手紙を入れてくる女の子は大抵私の容姿しか誉めない。
基本はそれだけ……はっちゃんがもし仮に容姿だけ誉めて付き合って♡ とか言われたら即答で付き合うけど。
あの子は思えば特別なのかもしれない。容姿に限らず、私のことをよく見ている。
些細な変化も大体バレてしまって嘘がつけない。だから今日だって簡単に懐柔される。
「はっちゃん……私、どうしたらいいんだろう」
揺れてる。天秤のようにどっちか付かずで傾いている。寝ようとしても梨奈先輩、梨奈先輩って私の名前を呼ぶ声が頭の中で繰り返し反響していて。
宣言通り、月島は私に対してあの更衣室で口だけの女じゃないってことが分かった。
そうでないとあのねちっこいキスと二ヶ月間にも及ぶ大声の告白はなんだったんだという話になる。
答えてあげるべきなのかもしれない。受け入れるか拒絶するべきか無視するかを。
「梨奈! こらっ、梨奈!!」
「ふごぉ!? う、うーん……なにすんのよぉ」
「学校……遅刻してもいいの?」
「ふぁ? ち、遅刻……あ、あぁぁぁっ!!」
や、やらかしたぁ~。いつもなら前もって早く起床しているはずなのに!
よりにもよって、こんな日に遅刻してしまうか遅刻しないかの瀬戸際で起こされるなんて!!
とはいえ、叩き起こしてくれたお母さんにはお礼をしてから身なりと歯を磨いて朝から猛烈なダッシュで地面を駆け抜ける。
走れば数分で到着。朝から駅までの通勤中のサラリーマンはあまりの早さに目が点になり、電柱近くで雑談を交わしているママ友らしき人達も節々に私に視線を向ける。
「ぜぇ、ぜぇ……はぁ……はぁ」
なんとかぎりぎりセーフ。この距離なら汗かいても走った方が賢明だったね。
朝食抜きというのは実に痛いけど、私の正面に丁度肩まで伸びた黒髪のプリティーなはっちゃんがこちらに気づいて手を振ってくれた。
これで溜まった疲れを消しておこう! 今日もはっちゃんは絶好調に天使!!
「おはよう、梨奈」
「おはよう、はっちゃ……げほっ!」
「えっと……あの、大丈夫? なんか疲れてない?」
「へ、平気。しばらくしたらよくなると思うから」
二年になって別々のクラスになっても私に話し掛けてくれるはっちゃんは心に余裕があるのかいつも楽しそうにしていて、あの女が私のはっちゃんを変えてくれたのか基本的にイキイキしている。
寂しそうな目はもう枯れ果て、現在では幸せそうな顔を浮かべるはっちゃんに内心寂しいなぁと思いながらも校門から靴箱へ。
あー、まだ心の準備できてないけど……今頃の時間帯なら月島から声を掛けてくるはず。
そう思いつつ、はっちゃんと雑談を交わしながら教室に向かっていても一向に姿を捉えない。
はて? なにがあった? ま、まさか今日になって休み出したとかそういうことじゃないと思いたいけど。
「ど、どうしたの?」
「うーん、いや……いつもの子がいないなと思って」
「いつもの子ってもしかして……例の告白魔?」
はっちゃんですら耳に入っていたとは……もはや逃げ場なさすぎだろ、これって完全に後輩に手堅く包囲されてるよね?
「あぁ、うん……例の告白魔っていうのはご存知の通り月島っていう子でね。具体的には私と顔を合わせる度…………あっ! いた! 見つけた!!」
「……っ!?」
やっと二階の階段ですれ違った! 今日は昨日のキスについて徹底的に問い詰めてる! と思ったら。
「ひぃ! ご、ごめんなさい!!」
効果音として付けるとしたらピューンって付けたら最適なほど、凄まじい走りで去っていく。
あんだけ、顔を合わせる度に好きです! 付き合ってください!
とかきゃぴきゃぴした声で毎回毎回懲りずに言ってきた月島が私を前に逃走? いやいや、待て待てぇい!
「ちょっと、梨奈!」
「えっ、なにするの!? 腕、離してよ!」
「無理に行っても話聞いてくれないと思う。なにがあったかは知らないけど……様子見した方がいいと思うんだよね」
「そう……かな?」
あんまり納得いかないんだけど、はっちゃんがそこまで強く止めるのなら諦めた方がいいのだろう。
本音はさっさと掴まえて、なんで逃げるのか根掘り葉掘り聞いてやりたい気分だけど。
「ねえ……今日時間あるなら一緒にお昼食べない?」
「ご、ごめん。誘ってくれるのは嬉しいんだけど……私は」
「一人で抱え込むより私に相談してみない?」
「……」
はっちゃんが珍しく強気に食い下がるので折れた。本当なら私と月島の問題に関わって欲しくはないのだけど……お昼休み、屋上の扉の前にある階段場で出来る限りの状況を話した。
ただし、キスの件は完璧に封じ込む。ピュアの塊であるはっちゃんにこんなエッチぃことは死んでも伏せねば!!
「へー、私が知らない間にそんなことがあったんだね」
「う、うん……まあ、それから今日みたいな感じで気まずくなったというかなんというか」
「梨奈……なにか隠してない?」
「へ? な、なにも隠してないよ? わ、私ははっちゃんの前では洗いざらい話していると思うけど」
「そうかなぁ~、なんだか言葉の節々にたどたどしさがあるような」
ぎくぅ! 妙にはっちゃんが鋭い!? 前までこんな徹底的に追跡してくるような子じゃなかったのに!! 一体誰の影響……って考えなくてもすぐに思い付いたと同時に腹が立った。
あの女……純粋無垢なはっちゃんになにしてくれちゃってんの!?
「まあまあ、そんなことよりさ。なにかアドバイス貰えないかな? 具体的にはえっと……妙に距離を取ろうとする月島に話し掛ける方法とか」
「前に月島さんにいつも告白されてうんざりだよぉ……とか言ってなかった?」
一ヶ月前、痺れを切らして一回だけはっちゃんと二人きりで昼食を取っていった時思わず言ってしまった記憶がある。
まさか、うっかり溢していた発言を覚えられていたとは……恐るべし!
「言ってた……けど、今は事情が変わったの。なるべく急ぎであの子と距離を詰めたい。本当は私のことをどう思っているのかを」
「真剣に向き合ったらどうかな? 月島さんに対して失礼のないように」
「真剣に向き合う……か。この状況でそれはちょっと難易度が高いような」
「何事もやってみなきゃ分からないと思うよ?」
「そ、それもそうなんだけどさ」
「随分と弱気だね。いつもなら前向きに元気ではつらつとしているのに」
「さすがに今回のことはちょっと傷ついた。前まであんなんじゃなかったのに」
というか、しつこすぎるくらいアプローチされていた。まあ、うざいうざいと思っていたけど……いざ距離を取られたら心に穴ポッカリと開いて。
この喪失感は……なんだかはっちゃんに振られた時と一緒。どうして一目惚れの女の子とやたらと積極的に関わってくる後輩との喪失感がシンクロしているんだろう?
あぁ、無性にイライラする! モヤモヤする!! このストレスどこで発散すればいいのよぉぉ!
「梨奈は結局の所……いつも告白してくれる月島さんとどうなりたいの?」
「……そ、それは」
「友人として? それとも恋人として?」
「……」
「決めるなら慎重に決断した方がいいよ。多分間違ったらもう二度と修復ができなくなるかもしれないし」
「うん、分かった。はっちゃんの言う通り……慎重に決める。なるべく悔いの残らないように」
「頑張ってね、梨奈」
はっちゃんにアドバイスをもらったあと、部長に陸上部を休むと言い渡してから私は家に閉じ籠り真剣に考えた。
悩み悩んで、いたずらに時間を消費して……夕食のご飯を食べて、お風呂に入って、歯磨きをして、髪の毛を一本にしているポニーテールをほどいて。
「よし! 決めた!」
これで無理なら、もう二度とあの子と関わるような真似はしない。
私から話し掛けるようなこともしない。
けれど叶うのであれば……また、あの光景を取り戻したい。馬鹿みたいにはしゃぐ月島と笑いあっていたい。
その一心で私はいよいよ重い腰を上げる。数日後、夜の10時に母から許可をもらってオーソドックスな弁当箱と色とりどりの食材を自分の財布から出して台所に並べる。
やるなら徹底的にやる……手抜きはしないし妥協もしない。あの子の為なら私はなんだってやってみせる!
「待ってなさい、月島!! 明日必ず美味しいって言わせてやるから!!」




