私達はいつでも、どこでも仲良しです! ね? そうですよね~?
10月9日。誕生日まであと一日! 日曜日の昼間下がり。体調もほどなく良好で上手く進めば今日で退院! 真っ白な清潔感のあるベッドともおさらばです!!
自分勝手に身体を無意識に苦しめ、学校の先生やクラスメイトやそして……私のこ、こここ恋人の陽子さんにもご迷惑を掛けましたがそれもようやく終わりです。
けど、退院したとしてもしばらくお家で安静にしていないと言われてしまったので数日は過剰な運動と必要最小限の外出ならびにお菓子とかそういったデザートは禁止されてしまいました。
うぅぅぅ、誕生日にケーキとかプリンで祝われたかったのになぁ。
あっ、でもその前に家に帰ったら放置して枯らしてしまったお花の処理をしないと……って、入院して心が安定して気付いた瞬間に既に処理とか諸々やってくれたそうで相変わらず私は助けられてばかりです。
「は~るか♪ やっほ~、元気にしてる?」
「はい、元気にしてますよ! よ……うーん」
「えっ、なになに? どうしたの? なにに悩んでいるの?」
「あっ。そのー、折角恋人になったのにいつまでも同じ呼び方だと特別感がないといいますか」
やっと結ばれたのに……晴れて恋人になったのに、4ヶ月も要して呼び方がずっとこれではなんだか釈然としません。
この機会に……陽子さん呼び卒業したいなぁ。
「ふむふむ。つまり……あれね。恋人になった記念として一つくらい私達だけの特別な感じを出したいと?」
「はい! できたら呼びやすい感じでお願いしまーす」
「私が考えていいの?」
「勿論です」
「こういうのは一緒に考えた方がよくないかしら?」
「そうですかね?」
「うん、一緒に考えよ?」
病室で身体を起こしている私に囁きかけるデザートよりも甘~いボイス。
服装も青のズボンに白のシャツに黒のジャンバーでとてもかっこいい女性を再現!! あぁ、眩しい! あぁ、麗しいです!!
「あぅぅぅ」
「あらら? 顔赤いよ~?」
「狙ってやらないでください。それ心臓に悪いですぅぅ」
「ふふっ、ごめんね……るーちゃん♪」
「る、るーちゃん?」
「はるかのるだけをを取って、るーちゃんと名付けてみました。どう、気に入らない?」
「いえいえ、いいと思いますよ。親しみのある感じが素敵です!」
「じゃあ、次はるーちゃんの番ね!」
「えー、では私は陽子さんのことをこれからはうーちゃんと呼ばせていただきます!」
「うーちゃん? これまたなんか可愛らしいあだ名になっちゃったなぁ」
「い、嫌ですか?」
「ううん、とってもいいあだ名で気に入ったわ。他の子ならもれなく八つ裂きにしていると思うけど」
「やった!」
わーい、これからはうーちゃんっていつでも呼べますね♪
陽子さんなんて堅苦しいだけですし、こっちの方が断然恋人らしい感じが出ているじゃないですか!
えへへ、恋人らしいことがやっと叶えられましたぁ。当日どうなるかなと思っていましたが勇気を出してみてよかったです。
「けど、なにか足りないなぁ」
「えぇ? まだ足りません?」
「るーちゃん、あのね。そろそろ、いい加減その喋り方を変えて欲しいかなって思うの」
「喋り方とは具体的にどういった感じで?」
「私に対していっつも敬語で話しているでしょ? なんだか年上みたいに扱われていて、聞いていて距離感を感じるのよねぇ」
距離感とはこれまた難しいこと言われてしまいました。うーちゃんがそこまで不満を募らせているのであれば喋り方を変えてみるべきかもしれませんね。
ただ、これ大丈夫なのでしょうか? 馴れ馴れしく喋ってあとから怒らせたりしないか心配です。
「うぅぅぅ」
「唸ってないで答えてよ」
「分かり……分かったよ、うーちゃん。今日から頑張って敬語なくすようにするから……だから、これくらいで許して? うーちゃん」
「うん、許す!! もう、許しちゃう! 愛しちゃう!! これからはどんどん甘えちゃう!!」
「あにゃ!? そんなにくっつかないでよぉ」
「はぁ……はぁ。肌すべすべでひんやり……これ最高」
抱きつくのが本当日常茶飯事になってきましたね。病室のベッドから動けないことをいいことに毎回会うたびに抱きつかれるのは……ちょっと興奮するので実は控えて欲しいかなと思ってもみたり。
「うーちゃん、近いです」
「ふふっ♪ 柔らか~い」
「うーちゃん♪」
「な~に?」
「うーちゃん♪」
「……るーちゃん♪」
「うーちゃん♪」
「るーちゃん♪」
「うーちゃん!」
「るーちゃん!」
「好き♡」
「大好き♡」
「愛しています!」
「私も愛しているよぉ~」
「えへへ」
「ねぇねぇ、キスしていい?」
目と目が合う、キス三秒前。言われなくとも私からたっぷり捧げます。
うーちゃんが陥落するまでじっとりねっとりと楽しみましょうね!
「いいよ……しよっか? うーちゃん♪ ちゅっ」
「んんっ……ちょっ……私から……させて……んんんんッ!?」
「くちゅ……んふぅ……んんっ、ちゅっ」
「んっ……ちゅる……んぷっ」
「んふぅ……んはぁ……ぁ……んっ」
「入りますよー! 旭川さーん」
「「……んぐっ!?」」
やばい! やばいです! 看護師さんにこんなキスがっつりしている最中に見られたらあとで悲惨な光景になること間違いなし。
まだまだお互いが溺れるくらいちゅっちゅっしまくりたかったのですが……あぁ、無情。神はたまに非情なる試練を残すのですね。
「旭川さん? ど、どうかされました?」
「あははは、ナンデモナイデスヨ~」
「あら? こんにちは」
「ど、どうも……こんにちは」
「今日も見舞いに来られたのですか?」
「えぇ、まあ自宅から通えなくはありませんので」
「なるほど、随分と旭川さんのことを大切にされているのですね。毎日来るなんて愛されてますねぇ~」
毎日来て欲しいとねだった覚えはありませんけど、私が倒れてからはほぼほぼ見舞いに来ています。
ただ、幸いにも夕方までにはバイトの関係で渋々帰っていくので夕方から見舞いに来てくれた梨奈と由美さんとかち合う場面はないのである意味ホッとしていますが。
けど、まあそれもさしずめ心配することではありません。既にお父さんから私と陽子さんの関係は認められています。
もしかしたら見回り中の警官に職質という形で訪ねられるかもしれませんが、別にビクビクして怯える必要はないでしょう。
つまりは自由に恋愛してもOKなのです。これからは私からもガンガン攻めていきましょう!!
「あはは」
「るーちゃんは私の大切な人なので毎日来るのは当然でありもはや義務です!!」
「ふぇ!?」
「あらあら~、仲睦まじいですねぇ」
「これは……えっと……あはっ」
うふふっと笑う看護師さん。もうすぐ先生も来られますからねぇと言いながら脈を見たり、はたまた注射器を構えて私の腕にチクリと刺したりーーあいたっ!
「ちょっと、るーちゃんに手荒な真似しないでちょうだい!!」
「うーちゃん……そんなに怒らなくてもいいから」
「えぇ、でも……るーちゃんが苦しんでいるところを見てたら耐えられないよ」
「私は大丈夫。だから、なるべくなら静かに見守っていて欲しいなぁ」
「るーちゃんがそこまで言うなら……分かった」
「……居づらい」
あだ名付け合ってからなんだか更に過保護ぎみになったといいますか……とにかく心配性のうーちゃんを宥めつつ、看護師さんの検査を一通り終えて最後に医者による本格的な検査を済ませます。
結果は……勿論体調に問題なし! 昼間から家に帰れそうです! イェーイ! 久々にお家に帰れますよー!
衣類についても退院前日にうーちゃんに取ってきてもらいましたのでこれで安心。
さすがに制服で病院とか外をうろちょろするのは気が引けますからねぇ。
「退院おめでとうございます、旭川さん!」
「はい、ありがとうございます! 短い間でしたがお世話になりました」
入院して三日間。僅かな期間ではありましたが、担当の看護師さんとお医者さんに頭を下げて最後に受付の人に挨拶を済ませて帰ることに。
広いロビーでたくさんの簡易的なソファーがある部屋。うーちゃんはもはやお約束といっていいのか私の腕にしがみついています。
うぅぅぅ、いくら恋人同士とはいえこれはさすがに過剰なスキンシップに当たるのでは?
なんか、もう私達の関係に鋭い人なら勘づいていそうです。
「いえいえ、こちらこそ……元気になってくれて良かったです。これから体調に気をつけて学業に励んでくださいね!」
「はい!」
「あと……これは退院するときに渡してくれと頼まれていたお祝いです。どうぞ」
「へ?」
「……まさか」
受付の看護師から渡されたB5の封筒。中身はなにかな? ひとまず封を切って中身を取り出すと中には二枚の入場チケットと二枚の特別鑑賞席のご案内チケットらしきものが。
えっ!? ここって、巷で大人気のあのテーマパーク!?
三日間しか入院していないのにこんな素晴らしい退院祝い貰っちゃっていいんですか!?
「それ……あなたのお父さんからです。本当は名前明かさないでくれって口止めされているんですけどね」
「お父さんが? 一体どうして?」
「さあ、そこまでは私にも分かりません。ただ、なんとなく予想できるというか確かに言えることは」
娘想いの大変素晴らしい方ですねという言葉。病院を去って、家を目指す間もお父さんがどのような気持ちでこれを渡したのか考えていました。
きっと色々とあるのだと思いますが、一番は父にとっての贖罪だったのかもしれません。
もしくは純粋に祝いたかったのかもしれませんが……なんにせよ、これは照れ隠しですね。
直接渡してくれたらもっと嬉しかったのに……なんだか不器用な人です。
「るーちゃん♪」
「はい?」
「それ……いつ行く?」
「近い内に行きましょうか? こんな素敵な贈り物……早く使わないと勿体ないような気がしますしね」
「るーちゃんのお父様はとても素晴らしい人ね……紛いなりにも気持ちの伝え方が不器用な気がしてならないけど」
「自分もそう思う。お父さんは不器用だけど……なんだかんだ私のことを見てくれているんだなって」
昼間は過ぎて、夕方2時。うーちゃんは私の手を繋ぐどころか絡ませて、上機嫌で鼻歌を歌いながら歩く。
その光景に微笑ましく思いながらも家へ向かう最中にピコンと音を鳴らすスマホ。
また授業中に書いていたノートを写真として残しているのかな?
宛先は平井梨奈。私が倒れてから翌日に掛けてノートなり宿題なり欠席の最中でも手助けしてくれた大切な友人。
スマホの電源を軽く入れる。すると、ラインのメッセージにはいつも通り…………あれ?
「どうしたの、るーちゃん?」
「摩耶さんが私とうーちゃんにお話ししたいそうです。それも今回の一件について」
「摩耶……か」
表情が瞬時に曇る。唇を噛み締め、耐えられないといった感じでふつふつと怒りを込み上げているようにも見えた。
だから、うーちゃんは巻き込めない。話をするなら私だけでも充分聞きに行けます。
それからあとで話せるときに話してしまえばいいことです。
「うーちゃん♪」
「な~に?」
「私一人で話を聞きに行きます。うーちゃんにはその時に色々と報告するからおとなしく待っていてね♪」
「うん、分かった……待ってる。でも、なにかあったら小さいことでも大きいことでもぜぇぇぇったいに連絡入れてね? すぐに駆けつけて蹴散らしてやるから!!」
そんな物騒なこと確実に起きるわけないんだけどなぁと思いながらも笑って誤魔化す私。
恋人になった途端に段々心配性がオーバー気味になってきたうーちゃん。
とっても心配です。お願いだから、捕まるようなことはしないでね。
可能なら傍でそっと見守りたい。その美しいボディラインと端正な顔立ちと舌を入れたくなるぷっくらとした唇を……私はいつまでも眺めていたいから。




