文化祭へ向けて準備を! 主催はメイド喫茶で!? しかも、バンドのボーカルも自分!?!?
8月は終わり、無事に9月を迎えカッターシャツの上に羽織るブレザーも加えました。新年になるまであと半年の辛抱です。
そうすれば正月休みとかでゆっくりとのびのびと家でぐーたらできます。
まぁ、お父さんもその時期になったら家に帰ってくるかもしれませんが適当に相手して無難に済ませば日を跨ぐことなく仕事場へ帰っていくでしょう。
そして、あとは陽子さんと一緒に少ない正月を堪能するのです。
あっ、その前に冬休みというものがありました! こちらの方で陽子さんパワーを補充するとしましょう!
具体的にはハグとかナデナデとかあわよくばキスとか……えへへへ。
「出し物の候補はこれで大丈夫ですか?」
「「意義なし!」」
「それじゃあ、ここから実際にやっていく出し物を決めたいと思います。挙手制でどれが一番多いかで決まりますので必ず手を挙げてください! ただし、一人一回までですからそれをお忘れなく!」
おっとっと、妄想している場合ではありませんでした。今日は文化祭の出し物を決めるのですから私もちゃんと挙手に参加の意欲を示さなければなりません。
文化祭実行委員ことポニーテールが目印の梨奈は教室内でよく響く声で皆を導き、同じく実行委員の立場でありながら隣で見守っている女子生徒は梨奈の顔を時々ちらちら見ながらチョークを使って黒板に出し物の候補をなぞっています。
その候補はいくつかあります。紹介するとキリがないのですが、ポピュラーな物から語ると飲食系統はたこ焼き・ポテトフライ・焼きそば・タコせん。
文化系統はお化け屋敷・脱出迷路・ピタゴラスイッチ・プラネタリウム・演劇など。
ここら辺で目玉の候補とすれば、私は無難に演劇を選ぶでしょう。
当然表舞台ではなく完全な裏方として。それはそれはもう目立つに値もしない顔なんかで表に出る方が失礼ですし、なにより口下手ですので一生裏で引きこもっている方がお似合いでしょう。
はい、となると既に決着もついたも当然ですね。あとはどれだけ演劇に手を挙げてくれるかがポイントですが……ん? あれちょっと待ってください。
「ハル、候補は決まったか? ちなみに私はプラネタリウムで回避する予定だ。メイド喫茶とか絶対お役ごめん被るぜ!!」
なんで、メイド喫茶が出し物として提出されているのでしょうか?
私、全然リカイデキテイマセン。オーノー、見落としていました。
きちんと文化祭の出し物を見ていませんでした。あっ、梨奈と目を合わせたら一瞬だけ口角がつり上がっていました。
あの出し物を書いた人は間違いなく梨奈でしょう。最初の時書いてなかったもん。
絶対あとからこっそりとバレないように自分から付け加えたんだ。
想像以上に性格が悪いようでなによりです。
「それじゃあ、候補を決めたいと思いまーす! まずはたこ焼きをやってみたい人!!」
「「…………」」
反応なし。あれっと思いながらも心の中で首を傾げる。うーん、さすがにたこ焼きとかは別にしたくないとか思っているのだろうか?
最悪これに決定しても別に良かったのになあとか思っていたから少しばかり肩透かしを食らった気分になる。
で、それからも同じような反応が何度も何度も。
飲食店の挙手はなし。挙げても一人か二人なので大した票にもならない。
皆どこに票を入れるつもりなのでしょうか。残りは学校の中でしかできない出し物しか残っていませんよ?
「お化け屋敷をやりたい人! ……次に脱出迷路に手を出してみたいと思う方……次にピタゴラスイッチをしてみたい方。それじゃあ、思いきってプラネタリウムに手を出してみたいって方はーー」
「おっし! 私がプラネタリウムに行く。教室にでっけえ星咲かせるぜ!!」
「あっ、そう頑張ってね……一人で」
「え? まじでこれ一人だけなの? いくらなんでも人気なさすぎじゃね? 他に残っているの演劇とあれしかなくね?」
クラスで一番男勝りでなおかつボーイッシュな髪型をしている絶賛薄茶色染めの由美さんはかなり大袈裟な手振りと表情で驚いていた。
それもそのはず、この黒板の出し物はあと二個しか残っておらず実質二択で出し物が決まるような状況。
不可解に思う。クラスの何人か口に出していた物がこれだけ挙手されないとか果たして真意は。
「じゃあ……演劇やってみたい人」
「はい、私やります」
「わぁぁ! はっちゃんが演劇やるの? 何役? どんな題材で出てくれるの? できたら眠りのお姫様役に出てくれたら私もーー」
「うん? 私裏方に回るつもりなんだけど」
「は?」
「ひぃ……怖いよ、梨奈」
「……はっ!? 怒ってないよ、はっちゃん! お願い泣かないで!!」
「ハルのこと溺愛しすぎだろ。なんで、そんなにも私との扱いが違うんですかね……ほぼ、自分の場合塩対応その物だし」
「浅倉。あなたはこの時間、口を閉じていなさい」
「へいへい」
「はっちゃん……今ならプリンセスに行くって言うのであれば演劇の方になると思うけど。どう、考え直してくれない?」
プリンセスって柄じゃないと思うんだけどなぁ、特に私は。そういうのは他の女の子がやってこその役柄だと思う。
あとプリンセスとかなら題材的にも相手役として王子のプリンスが必要になる。
となればプリンス役としては元気ではつらつとしていて男の子に負けないほど見た目がクールな梨奈が打ってつけでありまして。
つまり、プリンセスが私なら完全に役負けもいいところである。
やはり裏方で表を支える方が道理に叶ってる……と思います。
「ごめん、プリンセスは私には合わないや」
「…………メイド喫茶がいい人は挙手で。ちなみに私も挙げまーす」
「「え?」」
意味が分からないので思わず由美さんと声がハモってしまった。
それほどの光景が目の前に広がる。な、なんとメイド喫茶と口にした瞬間からクラスメイト全員が座っているにも関わらず背筋をピンと伸ばして手を真っ直ぐに挙げたのだ。
息の合った連携プレイとも呼べる挙手。こ、これ……もしかしなくても最初からこれをやるのが前提だったのかなと言わんばかりの。
「不正投票だろ、これ。さては平井……お前、まさかクラスメイトのほぼ大半を金かなんで丸め込んでないだろうな?」
「はっ! 私がそんなことをする愚か者に見える?」
「いや、ここまでばっちりあからさまだと疑いたくもなるだろうが!! なぁ、先公!?」
「俺に同意を求めんでくれ」
「……まさか、先公も既に平井の手に掛かって洗脳済み?」
「そんなわけないだろ」
「だよな、はははっ!」
「じゃあ、一番多いのは明らかにメイド喫茶なので出し物はこれにしまーす。なお裏方と表に出るスタッフはこちらの方で決めておきましたのでクレームなどは受け付けません。悪しからず」
「あ、あの」
「うん、どうしたのはっちゃん?」
メイド……自宅で陽子さんにご奉仕した時はこれでもう着ることはないんだろうなぁと安心していたところでメイド喫茶だなんて。
せ、せめて裏方の厨房なら……厨房なら極力表に出なくても済むだろうからここは勇気を出して裏か表かポジションを確認しておかないと!!
「私、裏方の厨房に回りたいんだけど……」
「ごめん、はっちゃんは表にしといた。当日は張り切って頑張ってね♪」
「いやぁぁぁぁ!!」
「でも、きっとはっちゃんなら大丈夫だから!! 表で可愛くいらっしゃいませご主人様♡ とか口にするだけで男女問わずメロメロ間違いなしだから自分に自信持ってよ♪」
「うぅぅぅぅ、そんなぁぁ」
「これ、不正票だろ。明らかに平井主導の不正操作じゃん」
「あぁ、そういえば浅倉は厨房の方に回しておいたから。当日はメイド服着て店頑張って回してね」
「そして、この塩対応である」
「先生! 決まりです、私達クラスメイト一同は文化祭当日メイド喫茶を経営します!」
「メニューとか決まっているのか?」
「主にパフェとパンケーキの2つで回そうかと考えています。他には各種味が違うドリンクをちらほらと」
「分かった。それじゃ、あとは俺の方から学校側に伝えておくから……正確にこれが出来るかは分からないが、まあ期待して待っていてくれ」
「はい、お願いします!!」
今日の梨奈の笑顔は空に浮かぶ太陽と等しく負けず劣らずの輝かしさ。
まるで、これの為だけに生きてきたかのような。一世一代の勝負に見事勝利して浄化したかのような表情。
一方由美さんは授業が終わったあともひどくうなだれており現在もなおブツブツと呪いの呪文のように吐き出しております。
8月中旬で席替えでたまたま真横同士になっているおかげかより一層怨念が伝わる模様。
しばらくは話し掛けない方がいいかなと思っていたのですが、変化があったのは掃除が一通り終わって担任教師によるホームルームが明けた放課後。
教室を出ようとした瞬間に誰かに肩を掴まれました。なんか嫌な予感がするので逃げましょう……残念、元々身体が貧弱すぎて一歩も動けません。
ゆっくりと振り返ってみればニヤッと浮かべる由美さんが。しかも教室内は既に一人もいません。
梨奈は……あぁ、文化祭実行委員の仕事とか不在だっけ。となれば教室は私と由美さんの二人きりか。
ま、まさか文化祭当日にボイコットするお誘い? うわぁぁ、いくらなんでもそれはやりすぎだよぉぉ。
「どうした? そんな馬鹿みたいに身ぶり手振り使って慌てちゃって」
「だ、駄目だよ!! 嫌だからってボイコットするなんてやっちゃいけないことなんだよ! メイド喫茶って出し物が決まった以上は全力でやらないと!!」
自分は裏方で厨房に励みたかったけど……メイドになっちゃった。
正直、梨奈を少しも恨んでないといえば嘘になるけど……こうなったからには真面目に取り組まないといけません!
「あのさ……ハル」
「うん、なに?」
「別にボイコットするつもりはないから。というか私が呼び止めたのはそういう話とかではなくてですね」
「えぇぇぇ!? じゃあ、他になにがあるの?」
「私がどこの部活に所属しているかは知ってる?」
「いきなりなんの話?」
「質問に答えてくれよ、まずは」
「運動部のどれか?」
「違うんだが」
「えっと、じゃあ文化部?」
「それに近いんだが……あれ、前に話したりしてなかったか?」
「ううん、一度も聞いたことがないけど……ん? けど由美さんって前に夏休みの時に中学の子達とバンド活動に明け暮れていたとか言ってませんでしたか?」
「あぁ、だいぶ前に言ってたな……それ」
「ということは……由美さんって音楽関連の部活に入っているのですか?」
「言うなれば軽音部ってところだろうな。一応活動できなくないんだが……まあ、ちとパンチが掛けているというかなんというか」
頭を悩ませているのか溜め息を吐いたり、妙にそわそわされているとこちらとしても不安感が増すのでやめてほしいです。
ともあれ、決断したのか由美さんは普段通りのおふざけばかりしている不真面目な表情とはかなり異なった迫真の眼差しで頭を深々と下げてそのまま手を差し伸べました……はて?
「ええと、その……あの、お願いします!! あなたの天使の歌声で文化祭当日メインボーカルとして出場してもらえないでしょうか? いや、頼みます!! この通りぃぃ!」
メインボーカル? つまりは歌手ということでしょうか? これ承諾したら実際皆の前で歌声を披露するんですよね?
あわわわわっ、引っ込み思案で影薄くて消極的で人前ではきはきと喋れない私なんかに務まるのでしょうか?
うわー、成功する未来が全然見えないや。
じゃあ、いっそのこと丁重に断ろうか……と思ったところでぎりぎり踏みとどまる。
これはもしかしたら神様が与えてくれたチャンスなのではないか?
愛しの陽子さんに大々的にアピールできる絶好の機会をわざわざへし折ってどうするんだと。
そうと決まれば私の意思に否定はない。これを機に好きな人に告白する勇気を出せるきっかけになれば最高じゃないか!
実際当日に想いを伝えられるかどうか自分次第なところはあるけれど……これを利用すれば陽子さんを私の彼女に出来る!!
上手くいったら飼い主とお人形ちゃんの関係は卒業。これからは恋人同士として……はにゃぁぁ。
「おーい、ハル? おーいってば!」
「わひゃ!?」
「うぉ、びっくりした! ハル、お前どこか意識飛んでたけど大丈夫か?」
「心配しなくていいよ。いつものことだから」
好きな人が出来てから大体妄想に浸りまくっているくせがある。
でも悪いこととは一つも思っておりません。むしろ、これが今の自分です♪
「えっ? おいおい、それけっこうやべえだろ」
「そんなことよりもさ。その……返事の方が大事だと思うんだよね」
「ま、まあ確かにな……じゃあ、返事を聞かせてくれるか?」
「ボーカル、やるよ。足手まといになるかもしれないけど、それでもよければお願いします!」
「ふっ。むしろ、その答えを待ってたんだぜ……ハル!!」
熱い握手。由美さんの黒い瞳から漂う情熱のまなざし。こうして私は文化祭で引っ込み思案でどうしようもない自分が大きく生まれ変われるであろうきっかけを手に入れるのでした。
勿論、まさか本当にやるとは思ってもみなかったメイド喫茶にふと頭を悩ませられたりもしましたが……終わりよければ全てよし。
文化祭当日まで精一杯頑張りましょう。とにかく自分ができることは無理せず頑張らねば。
エイエイオーです! ファイトォォォ!!




