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自信が持てるまで待ってもらってもいいですか? とってもわがままな願いでしょうけど

 月が大量の雲で掻き消される夜。人の気配がない公園で私は無我夢中で陽子さんにしがみつくというよりぎゅっと身体を密着させる。

 これには涼しげな顔を浮かべる陽子さんも驚いてしまったのか言葉のあちこちに焦りが見えていた。


 身体を引き剥がしたりなどの明確な抵抗がないので構わず抱きつく。

 ピンクのパーカーから芳香剤の臭いが鼻孔をくすぐる。ふにぁ~、これはとんでもなくクセになりそうです。


 いえ、そもそも既に陽子さんの虜になっていました。まだ堪能したりないのでずっと密着させていたら頭上の方からなにやら息づかいが荒くなっているようです。

 あれ……あれれ、なんか雲行き怪しくなってきたような。


「は~るか? いつまでこうしているつもりなの?」


「いや~、あともうちょっとだけ堪能させてくださいよ」


「そんなに寂しかったの? たった何日も会っていないだけで人肌が恋しいのかしら?」


「だって、陽子さんすっごくいい香りするから自然と抱きつきたくなるんですよ。こうしてむぎゅーってするだけでふわぁ~って気持ちよくなるだからもっともっと味わわないと」


「えっ? 遥、いつからそんなにキャラ変わったの? なんか今日おかしいと思うの私だけ?」


「おかしくないですよ、至って正常です!」


「前までこんなに大胆に甘えてこなかったような気がするけど……まぁ、これはこれで可愛いから飼い主からすればその反応は喜ばしいところね」


「はい! じゃあ、もうしばらく待ってくださいね!」


「まだするの……これ」


 抱き合ってから何分経つのだろう? いくら人が来ないからってちょっとやり過ぎような気もしなくもないけれど陽子さんが目の前にいるだけそんな些細なことどうでもいいやって投げやりになっているだよねぇ。


 あぁ、恋って恐ろしい。自覚した瞬間から周りのこと全然見えなくなるから。

 例えば夢中になりすぎて途中から陽子さんが花火の袋が入ったバケツを下ろして今まさに顎を持ち上げられていることとか。


 それから、こんな見られてもおかしくない場所で躊躇なく自分からキス待ちをして受け入れていることとか。

 全部が全部恋の仕業。恋は盲目だなんだということわざの意味も今更ながら馬鹿には出来ないと思った。


 まさに私自身の状態はそれに限りなく近い。想い人が傍にいるだけで胸がドキドキ高鳴って全然言うことを聞いてくれない。


 だから、ひたすら捧げる。陽子さんに乱暴にされても構わないやって思うくらいの認識で。


「……ん……っ」


「はむっ……んふっ……ん……くちゅ」


「ぁ……いやぁ……あっ……んんっ……んむっ」


「んん……じゅるるる……ちゅぱ……れろ」


「あっ♡ んふっ……んっ……ぁ……んんっ」

 

「んちゅ、ん、んー……んむっ……れろ……ちゅ……れりゅ」


「んはぁ……ぁ……んんっ、んっ……ちゅる……ちゅぱ」


 舌で手探りに転がしながら攻めに攻めまくる陽子さんの姿勢に私は受けに受け入れ、あまりの快楽に身を預けコロコロと気持ちよく入れてくれる陽子さんの口に小声ながらも喘いでしまい自然と力強いキスが飛び込んできた。


 幸せいっぱい、顔の向きさえ変えられはしない濃厚なキス。唾液がつもり積もって地面に落ちる。

 

 眺めたところで何も起きるはずがない……のだが、陽子さんは不意に自分の人差し指を舐めまくった後にこちらの口に問答無用で入れ始める。

 陽子さんの唾液をいただく。あのお姉さんのきめ細やかな白く光る指から液体を眺めるだけでもだなんだかこうムラムラしませんか?


 えっ? そう思うのはお前だけだろって言われれば反論なんてできるものではありませんが。

 少なくとも私はこの状況を大いに楽しみます。変態って呼ばれようがどうでもいいです。


「ちゅぱ、ちゅぱ、んん……んっ」


「はぁ~、遥……もっともっと私の指を舐めて。そう、優しくあとからじわじわと攻めていくのよ」


「ん~、んふっ、ちゅぱ……れろれろ」


「あぁん♡ もう、頭おかしくなりそう♡」


 白くて透き通った小振りの人差し指。ちゅぱ、ちゅぱと舌で舐め取りじっくりと慣らしてから出したり引いたり徐々に動きを激しく。

 求められる分、もっと攻めて。こうして私からぐいぐいとアプローチするなんてここ最近では初めてのような気がした。


「はぁ、はぁ、はぁ……やばい、これ私が私じゃなくなる」


 人差し指を舐められてから明らかに息づかいも荒々しく、頬もこれ以上ないくらいに赤く染まり、瞳もとろんとしているのか視線が全然定まっていない陽子さんはとてつもなくエロい。

 あぁ、今ので気持ちよくなってくれたのなら私はとんでもなく嬉しいです。


「れろ、んちゅ。なら、いっそのことやめます?」


「そう……ね。指はまた今度にしましょう」


「では、次はどうしましょうか? 飼い主さん?」


「もう一回キスしない? どっちかがやめるって言うまで」


「いいですね。私負けませんから」


「遥……遥!」


「はい、陽子さん」


「今日のあなた……なんかずるい!!」


「たまには仕返しくらいさせてくださいよ。いつも私がやられてばかりだと不公平です」


「あとでその言葉、精々後悔しないでよ……んっ」


「望むところです……んむっ」


 時間がいつとか、ここがどこだろうがお構い無しだった。あれからひたすら私は陽子さんと口を重ねまくる。

 知らず知らずのうちに恋という感情に溺れまくり、その実買い主に明確な好意があると認識した私は強くなる。


 思いの思いが、好きの好きが。溢れて溢れて溢れまくる。心に隠した感情は舌に全部乗せた。

 

 今日は一味違う。陽子さんが私のことを可愛いお人形ちゃん扱いとしてカウントしていようが自分としてはお姉さんをいつか恋人にしたいという欲求を募らせる。


 長い長い、熱い熱いキスとハグ。引き際はお互い唇を離してから。


 息も乱れて自分からは喋れない。いつも余裕の態度を見せつける陽子さんも同じく息を荒げている。

 最初に脅されてから泣く泣く続けたこの関係。今にしてみれば、これは運命的で素晴らしい出会いでした。


 欲しい……陽子さんから便利な道具扱いされようがはたまた適当にあしらわれようとも。

 置いていかないで、捨てないで。もし、ここで捨てられたら多分生きていけないから。


 きっと、その時はまたショックを受けて盗みが再発しかねない。

 だから……どんな私でも嫌いにならないでね?

 

「は、花火しない? 折角持ってきたのにこれで遊ばないのはちょっと……まああれだし」

 

「そうでしたね。分かりました、代わりに自分バケツに水入れてきますんで花火の準備しておいて下さい」


「う、うん。あ、ありがとう」


 ハキハキと喋る陽子さんにしては歯切れが悪いなぁとニヤニヤしながらも手持ち花火の準備にようやく本腰を入れ始める。


 公園の入り口付近にある小さな水道のような物から蛇口を捻って水を大量に汲み上げ、ゆっくりとした足取りで真ん中付近にバケツを置く。


 ここなら明かりがあるから捨てるときもはっきりとバケツがあるって分かるから安心できる。


「それ持ち方に気を付けなさいよ」


「はーい、分かりました」


「私から先にやろうか? まともに使ったことないでしょ?」


「これくらい何回か使ったことありますよ。心配はご無用です」


 着火マンに細心の注意を払いつつ手持ち花火の先端の部分に火を近づける。


 少しでも触れた瞬間に引火。先端のヒラヒラとした紙から物凄い音でバチバチと鳴らしていく。

 まるで穂のような広がり方で前方に前のめりに勢いのある花火にワクワクが止まらない。


「わー、凄い!!」


「ちょっと、そこの可愛いお人形ちゃん! 花火に見とれてないで私に着火マン貸してよ!!」


「ふぇ? あぁ、ごめんなさい!」


 陽子さんのも慣れた手付きで花火を前方に撒き散らす。バチバチと軽快に鳴らすススキ花火。


 おもちゃの割には良くできたクオリティー。引火させた勢いが一番強いと感じた手筒花火や四方八方に燃え広がるスパーク花火そして袋には何故か二個ではなく、一個しか入れていない絵型花火(じゃんけんで勝って私のものにした)など、河川敷で打ち上がった花火とは若干クオリティーが低くなるも私の心はあれをはるかに凌ぐほど心が満たされていきました。


 無念が踊り、ワクワクしながら、陽子さんの美貌を隣でチラチラと見つつ心臓バクバクの忙しい……だけど充実した時間。


「綺麗だね」


「はい、とっても綺麗ですね」


 告白することはいずれも勇気がいる。前を踏み出すにもそれなりの覚悟が必要だ。

 口に出すだけならいくらでも言える自信がある。けれど、ただお人形ちゃんとして弄ばれている私に告白などという権利が果たしてあるのだろうか?

  

 最後に終わり間際に垂らした線香花火。至近距離で肩をくっつけ静かに眺める。


 とても緩やかな時。そこはまるで二人だけの世界。幸せって言葉では埋め尽くせないほどの幸せ。


 あぁ、なんてチョロい……好きです、一人の女性として。誰にも取られたくはない、もし仮に取られたとすれば私は陽子さんをたぶらかしたその人の存在ごと許そうとはしないでしょう。

 でも……まだ時間が必要だ。もっともっと陽子さんの傍にいられるような努力をしなければならない。


 何か、きっかけがあれば……今すぐにでも。


「陽子さん」


「なーに?」


「いつか……覚悟が決まったら聞いて欲しい話があるんです。それがいつになるかは分かりませんが、その時まで待ってもらえないでしょうか?」


「勿論……いくらでも待ってあげる」


「ありがとうございます」


「ふふっ、その時を楽しみにしてるね」


「はい、期待して待っていてください」


 花火の先端に広がる火玉がポトッと同時に落ちる……こんなタイミングよく一緒に落ちることってあるんだと思いながらも花火の残骸が水と共に沈められたバケツを片手に取ってお互い手を繋いで公園を後にする。

 

 それからは有無を言わさず自分から誘って陽子さんを自宅に泊めてあげた。

 家にあがってからは比較的いつも通り談笑しながら衣食住の生活を送る。

 風呂はさすがに別々にしてもらったけど、就寝時は一緒のベッドで。


 この頃になるともう自然と私から身を寄せて横向きになっている陽子さんに密着する。

 しばらくして、陽子さんの方からキスを始める。軽く何度も何度もしてから最終的に舌を絡める。


 無言で受け入れた。とにかく求められるなら私も求める。それは長々と早朝の深夜まで続いた。

 落ちついた頃にすやすやと寝息を立てる陽子さん。寝ている表情はこんなにも愛らしいんだなと思いながらも上質な桜色の髪を撫でて再び目蓋を閉じる。

 

 ただれているなぁ。でも、私にはこれくらいが丁度いいんです。


 誰に言われようとも、誰に咎められようとも。

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