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■91.大偉人バトル! ウェールズ公&ドゴールvs???

 元々地球において壊滅的損害を被っていた旧中国人民解放軍海軍が瞬く間に戦闘力をしっし、旧ロシア連邦軍が規律の緩さによって半ば自滅に陥る中、開戦前から協調していた旧英仏軍は連携を取りながら自衛隊に対して反撃を加えていた。

 イギリス軍はクイーン・エリザベス級航空母艦『プリンス・オブ・ウェールズ』、フランス軍は航空母艦『シャルル・ド・ゴール』を新大陸東海岸東方沖に浮かべている。モーリス・ブーロントス旧フランス海軍大将も、ニホンジンコロスノスキー・ボールドウィン旧イギリス海軍大将も、空母打撃群の運用は慎重であった。陸上航空部隊の援護と、“距離”の有利が得られるエリアを見定め、そこから空母打撃群を出さないようにしつつ、艦上機により自衛隊の攻撃を妨害する、というのが彼らの基本戦術。

 ニホンジンコロスノスキーも、ブーロントスも本心では消極的に過ぎると思っていたが、戦闘力の劣る旧英仏機動部隊が打って出ても返り討ちにされるだけだ。それに日本国の勢力圏である旧大陸への打撃は、戦略ミサイル部隊が担当する。


 この『プリンス・オブ・ウェールズ』と『シャルル・ド・ゴール』の二偉丈夫は、自衛隊側からしてみればかなり厄介な存在だった。

 特に前者の搭載するF-35Bは、大きな障害である。『プリンス・オブ・ウェールズ』と艦上機部隊が生き残っているだけで、自衛隊機は常に見えない脅威に晒されることになるのだ。

 一方、『シャルル・ド・ゴール』の艦上機は第4.5世代戦闘機のラファールであり、これ自体への対処は容易である。ただ自衛隊が非ステルス戦闘機のF-2E・Super-Kaiで旧中国軍機を釣り出し、F-35による奇襲で叩いたように、彼らもまたラファールに少数機のF-35Bを援護につけていた。


「火野さんも無茶を言う……」


 この2隻と最初に対戦したのは、旧韓国海軍揚陸艦『独島』――あらため海上自衛隊護衛艦『たけしま』である。旧韓国海軍時代はありふれた揚陸艦であった『たけしま』だが、いまでは大改装を施され、F-35を12機擁する軽空母となっている。真正面から殴り合って勝てる道理はない。

 が、それでも彼女は先制した。

 哨戒機からの通報によって『プリンス・オブ・ウェールズ』と『シャルル・ド・ゴール』の所在を知った『たけしま』は司令の判断の下、攻撃機を即座に繰り出した。少数機であってもF-35であれば、攻撃へ向かう途上で発見される可能性は低い。そして1発でも空対艦誘導弾が敵の防空網を突破出来れば、数少ない敵航空母艦を落伍らくごさせられる。やらない理由はない。

 だがしかし――。


「イギいんスとフうんスが合わさり最強にみえる。おまえエグゾセでボコるわ・・」


「ラファールの攻撃隊に、『プリンス・オブ・ウェールズ』のF-35を護衛につけよう」


「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り」


「……」


「シャるるドんコうルが沈むという証拠を出せと言われても出せるわけがないという理屈で、最初からフランス海軍の勝率は100%」


「?」


『たけしま』がF-35を発艦させるのと同時に、旧英仏側もこれを捕捉した。正確には『たけしま』ではなく、『たけしま』の前方に展開する護衛艦を捉えただけであるが、彼らは当然その背後に航空母艦が控えているとみた。ラファールから成る攻撃隊に、F-35から成る護衛隊を付けて出撃させる。


「時既に時間切れ。もう勝負ついてるから」


 優美の体現ラファールと、計算され尽くした機能美を誇るF-35を見送ったブーロントス旧フランス海軍大将は、自信満々の笑みを浮かべた。

 そして生起したのは、互いに想定外の遭遇戦。

 遠方からラファールの存在を認めた自衛隊側の攻撃隊が迂回する時間もなく、両者は混戦へもつれ込んだ。


「日本人野郎も攻撃隊を出していたか」


 ニホンジンコロスノスキーは動揺することもなく、最前線からの報告を冷静にとらえていた。


「敵艦上機の頭数はそう多くない。一挙に潰してしまえ」


「こいつらは馬鹿すぐる。ラはぁルが強いのは当然に決まっている」


 ブーロントス旧フランス海軍大将も目の前の敵機動艦隊を叩こうと、積極的な用兵を見せた。


「食らいついた!」

「文科省が新たに定めた熟字訓、“英仏バカ”は間違いじゃなかったってことだ」

「本命、頼んだぞ――!」


 その旧英仏の動きに、『たけしま』の幹部一同は膝を叩いた。


 実はその遥か後方を、1隻の怪物が海面上を駆けている。

 満載排水量約10万トン、天地をす鋼鉄。

 異世界の害獣駆除に供するにはあまりにも巨大すぎた“牛刀ぎゅうとう”は、いまようやく自身に相応しい敵を得た。

 海上自衛隊最強の水上艦艇は、カタパルトからF-35C戦闘機を空へ送り出す。


 その名は……。

 その名は、ひとりの日本国内閣総理大臣が由来になっている。


 その彼は、東海・東南海・南海・琉球四連動型地震直後に生起した周辺国との戦争において、防衛省に自ら乗り込み、


「撤退したら自衛隊と日本は100%潰れる」


「幹部連中は現地に行って死んでもいいんだ。俺もいく」


 と言ってのけ、実際に最前線へ赴いたところを航空攻撃に遭い、公務中行方不明となった(後、内閣総理大臣にして史上初の戦死者と認定)。

 死後、マスメディアと日本国民は彼を「自衛隊の最高指揮官としての覚悟を示した偉人」といたみ、当時は野党であった自由民主党幹部も「イラカンではなくて、ユウカンだった」と評した偉人。


 いま『たけしま』目掛けて攻撃機を出し、足を止めることとなった『プリンス・オブ・ウェールズ』と『シャルル・ド・ゴール』。


 そこへ、“彼”――海上自衛隊原子力護衛艦『カン・ナオトシ』が殴りかかる。




◇◆◇


原子力護衛艦『カン・ナオトシ』は旧アメリカ海軍『ジョージ・ワシントン』です。

次回更新は4月15日(木)を予定しております。

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