表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/95

■76.まびこう、どうぶつのくに!

 最前線での死闘など別世界のこと。

 人民革命国連邦が誇る広大な畑地にそびえる大樹――“人民の母”は、きょうも地中に走らせた匍匐茎ほふくけいに栄養を送り込んでいる。

 人民マンドラゴラはみなこの“人民の母”と呼ばれる巨大な親株から、分かれた存在だ。

 地中に張り巡らされる匍匐茎ほふくけい、あるいは走出枝ランナーから無数のクローンが発生し、成長とともに地上へ頭が、そして収穫間際には上半身が現れる。


 人民革命国連邦の絶大なる国力、その源泉は国内に万単位存在するこの“人民の母”にある。

 人民マンドラゴラは発生してから収穫まで、半年もかからない。

 そして人民マンドラゴラは、生まれながらにして成体。故に過酷な労働や戦争で使い捨てられたマンパワーは、“人民の母”が生産し続ける膨大な人的資源によって、瞬く間に補填される。

 人民革命国連邦首脳部や連邦軍高官が、強気でいられる理由がこれだ。

 生産活動・軍事行動に供する人的資源の補填が極めて非効率的な旧人類を打倒するならば、犠牲を無視して戦争を仕掛け続けた方が有利に働く。

 膨大な人的資源と広大な土地を利用した長期戦こそ、彼らの戦略。


 勿論、日本側はその戦略に馬鹿正直に付き合ってやるつもりはない。


 春の陽気。

 燦々(さんさん)と降り注ぐ太陽光を浴びて、青葉を広げる“人民の母”。

 収穫の瞬間を待ち、瞳を閉じて眠っている無数の人民マンドラゴラ

 その頭上を、黒い影が横切った。F-15SEX-J戦闘攻撃機。

 続けて翼下から切り離されたクラスター爆弾が空中で炸裂し、無数の子弾をばら撒いた。

 子弾の重さは約5kg――内4.5kgが“除草剤”であり、残りが起爆用の火薬である。


「くそっ、なんなんだ!?」


 “人民の母”の近傍きんぼうは勿論、畑地全体にばら撒かれた子弾は一斉に起爆すると、白濁した煙を噴き出した。

 濃霧のように立ち込めるそれに収穫間際の人民マンドラゴラらは呑み込まれ、管理役の核心者マンダラゲ達は呆然とそれを眺めることしか出来ない。

 居ても立ってもいられず、畑に分け入っていった核心者マンダラゲもいることにはいたが、呼吸器と皮膚から除草剤を取り込んだ彼は数十秒で意識を失い、神経系と筋肉を破壊されて即死した。


「毒ガスか……?」


 すぐに状況を理解した核心者もいたが、環境省環境保全隊が投下した除草剤は彼らの想像よりもずっと強力である。

 散布された除草剤は2種類だ。

 ひとつは雑草を無際限に生み出す根本を絶つための枯葉剤。

 もうひとつは成体を効率よく駆除するための神経ガス。

 どちらも旧陸上自衛隊化学学校(埼玉県さいたま市)――現・環境省環境保全隊化学学校で製造されている超強力なお役立ちアイテムである。

 日本国内では使用は禁止されているが海外では活躍しており、雑草とゲリラに苦しんでいた現地住民の悩みを一挙解決、以後10年は雑草もゲリラも生えてこない土地に改善したことで有名だ。


 勿論、環境省内ではこの除草剤の使用を巡り、多少の議論が起こった。

 が、日本国民の生命は地球よりも重い。

 そして日本国民が生き残るための環境づくりこそ至上。

 というわけで5分という激しい議論の後、断腸の思いでこの2種の除草剤を使用するに至ったのである。


「ドロップ――」


 除草剤の投下は1か所には留まらない。

 空中給油機のアシストを受けたF-15SEX-Jの作戦行動半径内に収まる範囲の畑地に、彼らは次々と除草剤を散布していく。

 操縦士イーグルドライバーらは自分達が何をしているのか、何を投下しているのか、当然ながら理解していた。

 良心の呵責かしゃくなどというものは、ない。

 正義や悪は相対的なものであるが、絶対的に正義だと言えるものもある。

 それは日本国民の生命と財産を守ることであり、そのために相手を殺し尽くすことだ。


 その狙い通り“人民の母”は枯死こしし、匍匐茎で繋がっている芽もまたことごとく死んでいく。

 収穫間際であった成体らは神経系を破壊され、一瞬の激烈な苦しみの後、永久の眠りに就いた。

 人民革命国連邦の関係者はすぐさま対策を講じようとしたが、無駄である。

 散布された神経ガスは従来のガスマスクだけでは防げず、物体に付着したものも長時間にわたって毒性を持ち続ける。水では洗浄できず、解毒方法が分からなければ無害化させることは出来ない。

 そして枯葉剤は長期間、その土壌を汚染する。

 対策があるとすれば、それはもうF-15SEX-Jを撃墜することだ。

 だが名実最強のジェノサイダーを射落いおとすには、何もかもが足りなかった。


「美しい――」


 その夜、日本国総武省は後背の工業地帯に対して戦略爆撃を実施した。

 B-52による絨毯爆撃。焼夷弾の雨は地を焼き、天を焦がす。

 良心の呵責などというものは、ない。

 日本国内を焼きながら戦う専守防衛と、外国領を焼きながら戦う先制戦争。

 第2次世界大戦を思えば、どちらが正しいかなど考えるまでもない。

 ただし総武省は人民革命国連邦の首脳部を火葬することだけは避けた。

 ……これは後で確実に仕留めるための方策である。




◇◆◇


次回更新は2月14日(日)になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ