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65/95

■65.地方都市の市民を虐殺した高級魔族が、降伏すると言ってももう遅い。俺は大火力で無双します!

 魔王ゼルブレスLv.99が塵芥ちりあくたを化して消滅したことを、即座にデーモン・ロードLv.89は悟った。

 創造主と眷属の間に存在する“リンク”が途絶えたのだ。

 デーモン・ロードは自身にとって神に等しい存在が敗死したという事実に愕然としたが、その一方で無数の軍事組織を束ねる人類国家『日本国』の前では、魔王陛下でさえ敗北を喫するのではないか、という予想をどこかでしていた。


 さて。現在、デーモン・ロードが指揮する地上野戦軍は、敵の包囲下にあった。

 彼ら野戦軍は、本拠地である地下要塞から敵地上軍を遠ざける役割を果たしていたが、航空攻撃によって地下要塞が壊滅し、魔王が半ば自滅同然に敗死したいま、もはや抗戦を続ける戦略的・戦術的な意味はなくなった。

 寄せ手からただ生命を守るために抵抗を続けているだけに過ぎない。


(降伏するか――?)


 と、デーモン・ロードが魔族の誇りを曲げて思考するのも無理はなかった。


 が、現在、彼ら野戦軍が対峙している相手は冷酷無比、日本国総武省所管のNHK異世界総局・受信設備普及旅団と、法務省人権擁護局・人権擁護委員戦闘団である。

 この両者は地球では両者ともに過酷な海外での活動を中心とする組織であり、多少の損害にはひるまない上に、一度“敵”と見做した相手には苛烈であることで有名だ。

 NHK受信設備普及旅団は、全世界の公共の福祉を向上するために国際放送を普及させること(と、それに伴って世界各国から莫大な受信料を徴収すること)を目的に創設された実力組織であり、他方の人権擁護委員戦闘団は世界規模で日本国民の人権を守るため、法務省が擁する武装集団であることは、周知の通り。

 そしてNHK・法務省人権擁護局双方からすると、魔王野戦軍の降伏をれる理由はない。


 NHK異世界総局・受信設備普及旅団の主力装備は、旧中国人民解放軍から接収した装備品が主だ(NHKは旧中国領内への進出を推し進めており、年間1兆8000億円近い受信料・物品を回収している)。

 そして彼らの最先鋒は高地から田園地帯まで踏破とうは可能な15式軽戦車を主力とする戦車隊であった。


「いい、いい、撮れてるかぁ~?」


 NHK異世界総局・受信設備普及旅団は、異世界における戦場の取材も担っているのだが、NHK関係者からすれば、魔人どもの降伏など“面白くない”。

 明日のニュースになるべき、そして次の『映像の世紀』に収められるべき映像はもっと衝撃的でなくてはならない。

 視聴者が求めるものは、スムーズな降伏劇ではない――前時代的な密集陣形をる野戦軍が砲撃によって薙ぎ倒されたり、降伏しようとして近づいてくる魔人が呆気なく射殺されたりする映像だ。


「ばっちり撮れてますよぉ~」


 15式軽戦車だが直接照準は勿論、間接照準火器管制システムも備えているため、105mm戦車砲を射程約14kmの榴弾砲としても使用できる。

 彼らは戦場に踏みとどまる敵陣を手数で圧倒した。戦車砲から発射された105mm榴弾が魔術防壁を削り、敵の魔術防護中隊に負担をかける。その105mm榴弾のもと、法務省人権擁護局・人権擁護委員戦闘団が、AMX-10歩兵戦闘車を主力とする機械化部隊を前進させ、敵を圧迫する。


「では、打ち合わせた通りだな」


 そうして敵魔術防護中隊の魔力リソースを前面に集中させたところを、国土交通省緊急災害派遣隊の特科部隊がとどめを刺す。

 泥濘踏みにじる巨砲――203mm自走りゅう弾砲の砲口が天をいた。

 大音響とともに噴き上げる火焔と巨弾。そして大重量の203mm榴弾は、重力に曳かれるまま、魔王野戦軍の主力頭上を終着点とした。

 弾ける203mm榴弾。瞬間、その付近に居合わせた魔術兵らは、破裂した。血液と肉片、四肢の欠片がぶちまけられる。少し離れたところで即死を免れた者も、飛散する榴弾の鉄片と哀れな被害者の骨の直撃を受けて、うずくまり、悲鳴と呻き声を上げた。

 空中で炸裂する榴弾もある。降り注ぐ鋼鉄の雨。その真下の戦列は、血飛沫を上げながらズタズタに引き裂かれた。


「降伏する!」


 榴弾の直撃を受けて噴き上がった臓物と血液の土砂降りの中、黄金の鎧を纏ったデーモン・ロードは弾雨激しい最前線に出た。

 これまで彼は数度にわたって、降伏を申し入れるための使者を送っていたのだが、何の音沙汰おとさたもなかった。そのため自ら交渉におもむくことにしたのである。

 だがしかし、彼ら日本側の実力組織は、むしろこの悪目立ちする軍事指揮官に対して攻撃を集中させた。降伏とは、笑止千万。地方都市エイデルハルンの大虐殺を思えば、デーモン・ロードの申し入れを聞く必要はない。

 自業自得。

 無数の火線に捉えられ、対戦車ミサイルの直撃を受けて爆発四散する瞬間を、NHK前線記者のテレビカメラはバッチリ収めていた。




◇◆◇


次回更新は1/12(火)を予定しております。

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