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■58. 魔王Lv.99「人類のくせになまいきだ」!(後)

 地平線の果てまで見通す瞳は、事象の真価さえも見抜く。

 赤き竜鱗はあらゆる矢を通さず、いかなる魔術も弾き返す。

 そしてが操る火焔は、すべてを焼き尽くし、世界を変える。


 圧倒的暴虐が太陽を背に飛来したとき、半ば壊走状態にあった魔王軍の将兵らは沸いた。

 熟練した魔術戦の巧者であるとともに、勇者の剣戟けんげきを除けばあらゆる攻撃を防ぎきる物理的防御力を誇り、魔術的攻撃手段を除いた純粋な火力は魔王陣営最強。

 それがレッドドラゴンLv.88。ひとたび姿を現せばもはや敵に逆転の可能性はなし、ただ焼き尽くされるのを待つのみ。

 ……人々の間でデーモン・ロードが操る軍勢や多数の魔術を修めたスカイクラッド・ウィッチの伝説が忘却された一方、レッドドラゴンの伝承が残った理由はただひとつ。

 あまりにも彼が、強すぎたからであった。


「調子に乗るなよ、愚猿ぐえんども」


 そのレッドドラゴンが、眼下を睥睨へいげいする。


「【情報開示ステータスオープン】」


 その金色の瞳に映る敵味方の戦闘能力を、彼は一瞬で把握した。

 勇者は存在せず。人類軍のレベルは概ね12から15程度。さしたる敵ではない。これならば鎧袖一触がいしゅういっしょくだ、と彼はわらった。


「身の程を知れ」


 戦場上空に君臨たいくうした怪物は、一帯の魔力を集積する。

 そして彼の周囲に無数の魔法陣が描き出される。編まれるのは、10、20、100、200――1024発の魔力弾。魔法陣が発する青白い光輝こうきを背負ったレッドドラゴンは、魔族将兵からすれば“神”に見えたことであろう。

 ところが次の瞬間、1024発の魔力弾は霧散した。

 燐光を放つ魔力は1秒もせず、レッドドラゴンの前面に魔力防壁として再構成される。


「あッ――」


 芸術的なまでの高度な魔力操作に息を呑む魔人デーモンどもの目の前で、その半透明の防御スクリーンが炎に包まれた。AH-64Dが放った38発のハイドラ70mmロケット弾の直撃。瞬く間に数枚の魔力防壁が砕け、破片となった魔力の塊が空中に散っていく。


児戯じぎだな」


 レッドドラゴンは束ねた30枚の多重層魔力防壁の内側で、そう嘲笑した。

 彼からすれば羽虫に過ぎないAH-64D戦闘ヘリコプター複数機が連続して撃ち出すハイドラ70mmロケット弾と、30mm機関砲弾は魔力防壁を削り、破り、砕いていくが、それよりも飛散した魔力が再集積・再構成される速度の方が早い。

 が、彼は自らの頭上遥か高空の存在に気づくべきであった。


「FOX3」


 亜音速で大空を逆落としに貫いて、黒鷲が襲いかかる。

 右主翼付け根の外装が開放され、彼が携える凶器が起動する。毎分6000発という高速発射で撃ち出された20mm半徹甲高爆発焼夷弾は、超局所的な豪雨のようになって、眼下の怪物へ降り注いだ。

 赤鱗が貫かれ、血肉がぜる。


「――!」


 激痛にもだえる火竜を愚弄するように、黒鷲は機首を引き起こして上昇を開始する。膨大な推力と共に上空へ翔け上がるその背中を、レッドドラゴンは怒気とともに見やった。もう彼の頭に、地上のことは消え失せている。

 雄雄おお、と吼えながら彼はその瞳で、黒い翼の正体を看破する。


「【情報開示ステータスオープン】ッ!」


 次の瞬間、レッドドラゴンは慄然りつぜんとした。


「世界、最強――!?」


 先程の広域に対する【情報開示】とは異なり、空を駆け巡る影に集中した彼がたのは、F-15SEX-Jの性能から、F-15という“概念”に至るまでのすべてであった。必勝無敗。列島の守護者。億殺しの虐殺者ダムバスター。衛星狩り。ラプタースレイヤー。

 視た。視てしまった。

 そして。


――“人類最強の戦闘機”。


 日本国民の信仰と全世界の畏怖を乗せて翔ける翼。

 異世界の火竜が古き伝説であれば、F-15SEX-Jとは最も新しき伝説であった。

 だがそれは、レッドドラゴンの破壊と暴虐の伝説とは似ているようで、異なるものだ。

 力の誇示にあらず。愉悦に浴するにあらず。

 護るために殺す。護るために殺した。護るために、殺し続ける。

 その覚悟をもつイーグルドライバーが駆るF-15は、護るために最強の座を明け渡さない!


「最強ォは――この竜種おれだ!」


 亜音速まで急加速する火竜が、数十発の魔力弾を完成させて撃ち放つ。

 が、百戦錬磨のイーグルドライバーは怯むことなく、レッドドラゴンに背中を晒したままスロットルを開いた。


「決着だ」


 火を噴き、爆発的推力を得るF-15SEX-J。

 そのまま機体は急上昇に転じ、魔弾を振り切る。

 その後、機首が天をき――かと思うと、漆黒の機体は背面からダイブする。


 正対する火竜と、黒鷲。


「FOX1――」

「【火球投射ファイヤーボール】」


 が、それが囮だとレッドドラゴンはぎりぎりまで気づかなかった。

 彼が虚空に強力な攻撃魔術を完成させると同時に、全方位から複数の凶槍きょうそうが殺到する。目の前を飛び回る1機の黒鷲に夢中になっていた彼は、遠巻きに攻撃のチャンスを窺っていた3機のF-15SEX-Jに気づけなかったのだ。

 そして迫るのは、99式空対空誘導弾。

 あまりの高速に、魔術戦の手練れである彼も魔力の再編が間に合わない。

 1発目の凶弾がまずレッドドラゴンの右翼をぶち破り、2発目は彼の顔面近くで炸裂した。無数の破片が竜鱗をぶち破り、金色の瞳を破壊し、首筋に突き刺さる。3発目は腹部に直撃し、膨大な運動エネルギーと暴力的な速度で飛散する破片によって内臓を破壊した。


「レッドドラゴン、が……」


 天地逆転の鳥葬ちょうそう

 大空を支配するはずの巨体はいま、重力に捉われて緩やかに地表へ曳かれていく。

 そのかんも黒鷲らが発射した数発の空対空誘導弾が突き刺さり、竜鱗が剥がれ、肉が弾け、腸が飛び出す。噴き出る膨大な量の血は、雨となって地を這いつくばる魔人デーモンらに降り注いだ。


 そして最後には無残な肉塊となって、地表に叩きつけられる。


「は?」


 誰もが呆ける中、巨大な死骸の落下地点上空にM26ロケット弾が撃ち出され、無数の子弾を解放した。この環境省の丁寧な仕事により、レッドドラゴンの死骸は吹き飛んで原形を留めない肉片となる。土煙の墓標と、暴虐の伝説はすぐに消え失せた。


 残ったのは、魔人デーモンらの絶望だけである。


 ……レッドドラゴンLv.88の絶命を知った魔王ゼルブレスは、特に何かを言うことはなかったが、数ミリほど首をかしげてみせた。




◇◆◇


次回、■59.御寧、怒りの理解聖拳わからせけん! に続きます。


また話数も積み重なってまいりましたので評価欄を開放いたします。


荒唐無稽なお話ですが、今後ともお付き合いいただければ幸いです。

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