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21/95

■21.会議は踊るというか全力疾走するし、しかも死へ進む!

 さて、話は飛んで御前会議である。

 バルバコア帝国首脳陣にとって間諜や冒険者たちから次々ともたらされる情報は、衝撃的に過ぎた。集まった報告は日本国環境省、『バルバコア自然公園』の軍事力から、環境省職員と彼らに帰順した村々、セイタカ・チョウジュ・ザルらの衣・食・住にまで及ぶ。

 そうした情報から考えれば『バルバコア自然公園』の国力(?)が、バルバコア帝国を凌駕していることは明白であった。

 さらに気が利く一部の冒険者は、入手した物品をいくらか提出していた。取っ手を回すだけでいつでも照明を使える道具。ナイフや栓抜きなど、様々な機能が1本に集約された多機能ナイフ。これだけでも『バルバコア自然公園』の工業力がわかろうというものである。

 当然ながらバルバコア帝国で大臣を務めているような高級貴族や、実務を取り仕切る高級官僚らは動揺した。

 ところがしかし、皇帝キルビジアス11世は慌てふためく左右を鼻で笑った。


「阿呆どもが」


 彼は間諜や冒険者たちが欺瞞情報を掴まされている、と断じた。特に後者に関しては、金次第でどちらにも転ぶような連中である。大方おおかた、環境省の人間に金を握らされ、“鋼鉄の怪鳥”や数日で完成する道路網、誰もが砂糖菓子を食べているなどといった欺瞞情報を吹聴ふいちょうするように言い含められたのであろう。……と、彼は言うのである。


「他の者どもは騙せても、ちんをごまかすことはできんぞ」


 玉座に身を預けたまま笑う皇帝キルビジアス11世であったが、ただ実際のところ彼は確証をもって話をしているわけではなかった。ただ単に周囲への反発から、逆張りしているだけだ。あとは、金属の塊が飛ぶわけがない、という彼個人の狭い常識からきている(実際のところ飛行機械――飛行船や戦闘機に関しては人民革命国連邦軍が実戦配備しているのであるが、そのあたりが彼の暗愚を象徴していよう)。


「お言葉ですが……」


 阿呆はお前だろう、と心中で唱えながらひとりの重臣が挙手をした。


「集積された情報の中に欺瞞があるのは常でしょう。皇帝陛下の仰るとおりかと私めも愚考いたします。しかしながら、まずはバン=ホウテン城伯のホウテン円形都市が大量虐殺の憂き目に遭ったという事実、『バルバコア自然公園』を名乗る武装集団にそれを可能とするだけの実力があるという事実。これを認識するべきかと」


 ホウテン円形都市は、口に出すこともはばかられる最期を迎えた。

 突然の襲撃に半日と抗することも出来ず、守備隊は全滅。戦闘に巻き込まれなかった市民の多くはそのまま危害を加えられることもなかったようだが、円形都市を訪れていた加工利用派の貴族や名士らは皆殺しとなった。バン=ホウテン城伯の安否は不明だが、冒険者らが聞いた噂話によると、銃殺された後、焼却されたらしいとのことである。葬儀すら許さないとは、あまりにも惨いやり方であった(バルバコア帝国には火葬の習俗はなく、土葬がもっぱらである)。


「日本国環境省の行動原理は、過激なまでの“人道主義”と“動物愛護主義”にあると思われます」


 他の重臣も挙手をして、自論を述べた。


「ホウテン円形都市の大量虐殺、という表現は誤謬ごびゅうがあるかと。明らかに彼らは加工利用派とそれ以外の市民を選別して殺害しております。また現地では戦奴を解放、それ以前にはセイタカ・チョウジュ・ザルどもに人間水準の衣・食・住を与えているとか。つまり彼らの興味は、我々の家畜にあるというわけです。……交渉の余地は、十分あるかと」


 これはかなり鋭い分析だった。

 皇帝の周囲に控える重臣らは長所・短所はあろうとも、一国を動かすエリートである。家柄だけではなく、実力も兼ね揃えている。彼らの中には、物事を的確に認識している者が少なからずいた。つまりそれは彼我ひがもし戦わば、必ず負けるということ。だがしかし、いまなら交渉により全面戦争は回避出来るということであった。


「おい」


 だがしかし、彼らにとっての不幸は、君主に恵まれなかったことであろう。


「誰に許しを得て喋っているッ!」


 甲高い叫びに、彼らは口をつぐんだ。

 すでに皇帝キルビジアス11世は意を決している。帝国の威信を傷つけた日本国環境省を許すわけにいかない。加えて現実問題として、社会に深く入り込んでいるセイタカ・チョウジュ・ザル等の家畜を解放することなど、できはしないのである。故に全面戦争しかない。

 それに彼はとにかく周囲の指図を聞くのが嫌であった。

 結局、その個人的な性格、感情によってバルバコア帝国は凄惨な運命を辿ることになるし、重臣らもそれに薄々気づいていたが、皇帝には直轄軍や高速航空騎兵隊、装甲艦隊を指揮する権限があった。崖目掛けて投身せんとしているのは間違いないのだが、これではどうすることもできない。

 と、なれば重臣達は自らの身や、領土の安堵に動き出すほかなかった。




◇◆◇


次回更新は10/2(金)となります。

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