第23話 情報の恐怖
「──全く。一体どうなってんだよ……これは」
閉店間も無い『妖精の隠れ家』。そのカウンター席の真ん中で、スマホを眺めながらオカキンが呟いた。
「どこもかしこも、フリードを養護する書き込みばかりですね……」
呆れた様に萌くんが答える。
あの、『透明な魔女』とのやり取りから数カ月。俺達は細々と活動を続けていた。しかしシークレット・フェアリーは既に、ネット上では以前程の影響力を失っている。
その理由は二つ。
一つは『透明な魔女』が勢力を拡大したせいだ。今や、シークレット・フェアリーが得意としたネットでの情報操作は、完全に『透明な魔女』の十八番。最早、俺達に世論を誘導する程の影響力は残されていなかった。
そして、もう一つの理由。それは、あの日から姿を見せないリーさんの存在である。
『自分が戻るまでシークレット・フェアリーの活動は出来るだけ控えろ』
そう言い残し、リーさんはあの日から姿を消した。亜里沙さんの話では、何やら単独で動いているとの事らしいのだが……。正直、ここまで影響が大きいとは思わなかった。何しろ、『妖精』と言う抑止力を失ってしまったのだ。シークレット・フェアリーがその影響力を失ってしまうのも、当然と言えば当然なのかも知れない。
「擁護派の奴等、どんどん増えていきやがる……。もう、俺達が情報を発信した所で、誰も真面目に聞きやしねえ……」
カウンターにスマホを投げ出すと、背もたれに体をあずけながらオカキンは溢した。
「仕方ないよ……。今や、フリードは革命の旗頭。最早テロリストかも知れないと疑われていた過去なんて、誰も気にはしてない。『透明な魔女』のお陰でね」
そう。希ちゃんの言うとおり、今や、世論はフリードを支持する意見で染まっている。一体、どうしてこんな事になってしまったのか。それは、『透明な魔女』の情報操作による所が大きかった。何しろ、ネット上ではフリードを養護、賛美する様な記事ばかり。検索しても、フリードに対するネガティブな書き込みや情報は殆ど出て来ない。そして、それにつられる様にマスコミや各メディアも同調の色を示している。まるで、世論が報道を導く様に……。
(これじゃ、まるで逆じゃないか……)
本来、真実を伝える為の報道機関が世論に左右される。そして、その世論は自分の目で見た物では無く、ネットやメディアの情報を鵜呑みにするのだ。確かに、自らの手で検索して掴んだ情報に関しては信じてしまうのも無理は無い。同じ情報が多くあれば、誰もウラなんて取らないからな。しかし、それはとても恐ろしい事だ。
例えば、それがフェイクニュースだとしても人はその情報に流される。そう。まさに、今のこの国の様に。そして、それは言い換えれば、ネットの情報を支配した者が真実を作り出せると言う事だ。例え、それが歪んだ情報でも……である。上手くやれば政治すら動かす事が出来る……つまり、国を動かす事が出来ると言う、恐ろしい事なのだ。
「政治家ってのは民衆の意見に流される物だからな……」
自分の保身の為ならば、思想や理想なんて二の次。如何に国民から支持を得られるか。殆どの政治家はそんな事しか考えていない。特に、この国では。ある意味、この国を支配するには最も適した方法だ。
俺は、現代人が如何に『ネットの情報』と言う物に左右される、危うげなメンタルの生物なのかを痛感した。そして、その『情報』と言う物が持つ本来の恐ろしさも。
「俺達……人を救う為とは言え、恐ろしい事をしてたんですね……」
情報を操ると言う事。それが如何に恐ろしい力を発揮するか、奇しくも俺は、それを今回の件で魔女から教わった。現代において、ある意味どんな兵器よりも恐ろしい『情報』と言う力。それは、ネットを支配する者が世界を動かしかねないと言う、恐ろしい真実。そう。誰一人『支配されている』と言う自覚すらないままに……。
「そうね……。でも、『透明な魔女』がしているのは情報を捻じ曲げると言う行為よ。私達のやっている事とはまるで逆だわ。私達のしている事は、歪んだ正義に晒され、苦しんでいる人達に真実と言う力を与える行為。決して同じではないの」
亜里沙さんは自分に言い聞かせる様に、そう俺を諭した。
「だけど、一つ腑に落ちない事があるんです。ここまで大規模な世論の誘導……それに、徹底した情報の管理。これは、本当に『透明な魔女』だけの仕業なのでしょうか……?」
検索エンジンにすら影響を及ぼす程の情報操作。とても個人で出来る物とは思えない。かと言って、仮にそれが大規模なハッカー集団だとしても結論は同じだ。おそらく、世界規模の集団でも不可能だろう。
検索エンジンの提供元?
いや、違う。そもそも、提供元は一つじゃない。これはもっと、他に何か大きな力が働いている……俺は、そんな気がしてならなかった。漠然とした不安と恐怖を抱え、呆然とする俺に亜里沙さんは答えた。
「わからないわ……。ただ、間違いなく只者では無い事くらいしかね。だけど、気になる事は他にもあるの。あの日、『透明な魔女』から送られて来たメッセージの男……あの堀部博之が動き出したみたいなのよ──」
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