8・1 王都到着
「ヴィオレッタ。よいか、馬車を降りたら、私と近衛騎士の間を歩くのだぞ」
あともう少しで王宮に到着するという頃合いで、キャロライン殿下が私に向かって言った。真剣な表情で。
どういう意味なのだろう。
今までは、なにかとリシャール様がそばにいてくれた。
となりに座る彼を見る。すると彼は、
「実は君の逮捕状が出ている」と言った。
「公爵!」
鋭い声を上げたキャロライン殿下を見る。憤慨している。
ということは、本当のことなのだ。
でも当然だ。王命に背いたのはお父様たちだけではない。私もだもの。
むしろ、なぜ私はリシャールたちと旅を続行できるのかが、不思議だった。キャロライン殿下がいるからかな、と考えていたのだけど。
「本来なら君は、とうに憲兵に捕まっている」とリシャール様が言う。「キャロライン殿下が交渉して、免れることができたのだ」
やっぱり、彼女のおかげだったらしい。
「だが今、彼女がそう言うということは――」
リシャール様が言葉を切ると、キャロライン殿下が頷いた。
「『近衛騎士』の監視下にあったという演出につきあってほしい」
「ごめ……」
『ご迷惑をおかけして申し訳ありません』と謝ろうとして、慌ててやめる。以前リシャール様に、私は謝りすぎだと指摘された。
「ありがとうございます」と謝罪の代わりにお礼を伝える。
「ああ」とキャロライン殿下。「野次馬から好奇の目が向けられるだろうが、気にしてはならぬぞ」
「そのとおりだ」とリシャール様。「君は真実を告げるために、王宮へ来たのだ」
「はい」
リシャール様は陛下も社交界も嫌いなのに、私を助けるために仕事を休んでまで都に一緒に来てくれたのだもの。私がしっかりしなくて、どうする。
国王や大勢の人がいる場は正直怖いけれど、大丈夫。
彼がいるから、がんばれる。
◇◇
ほんの少し前までは、私が王宮内に入る日が来ると考えたことはなかった。ましてや犯罪者としてだなんて。
貴族社会は暇なひとが多いのか、多くの野次馬で溢れかえっていた。
両脇をキャロライン殿下と近衛騎士に固められ、更に私たちとリシャール様、ジスモンド様、セドリック殿下の周囲を近衛騎士たちが囲むというものものしさ。その輪の向こうには、こちらに好奇の目を向け、声高に噂話に興じるひとたち。
離れていても、
「あれがヴィルジニーの姉か」
「姉も性格が悪そうな顔をしているではないか」
「王命に背いた反逆者め」
「あれもまた男好きのようだな。後ろに三人も従えている」
そんな侮言が聞こえてくる。
『大丈夫、がんばれる』と思ったはずなのに、怖くて膝が震え、息がうまく吸えない。そんなとき、
「へえ。あれが妻殺しの『死神公爵』か。見るからに陰険だ」
との声が聞こえてきた。思わず、足が止まった。
「どうした、ヴィオレッタ。気分が悪いか」
キャロライン殿下が、私の顔をのぞきこむ。
規則正しいテンポを刻んでいた杖が床を叩く音が早くなり、リシャール様が前へまわってくる。自分も陰口を叩かれているのに、心配そうに私を見ている。
「手を繋ぐか」
リシャール様が小声で訊いてくれる。首を横に振って答える。
「私は公爵閣下のおかげで、入れ替わりを告白する勇気がもてたのだと、伝えます。なるたけ多くの人に、あなたの優しさが届くよう、しっかりと!」
「なんでだい?」
彼が不思議そうにまばたく。
「お前の悪口が聞こえたからだろう。ね、ヴィオレッタ」追いついてきたジスモンド様がそう言ったので、うなずいた。
もう大丈夫。野次馬や陰口に怯んだりしない。もちろん、国王にも。リシャール様が私を助けてくれるように、私も彼を助けるのよ。




