第66話 神です!(今度はマジで
キュベレーさんはセーレと共に転移魔法で上層へ飛ぶというので、私はフィオナとジガ君の3人で転送碑まで歩いた。
「フィオナ、どう? あの人にはあんまりビビってなさそうじゃない。あんな大きいのに」
フィオナはセーレにはかなりビビり散らかしていたし、ドッピーも魔物という認識らしいのだが、キュベレーさんはどうだろうか。セーレの母なのだとすると、まごうことなく魔神だし、見た目的にもだいぶ神っぽさあるけど(サイズ感的に)。
「うん。キュベレーさんは平気かも……。魔力の色は変は変だけど」
「変は変なんだ。ちなみに何色?」
「黄色というか……小麦色?」
それは金色なんじゃないか? 超サ〇ヤ人的なオーラがシュワシュワ出てんのだろうか。私も見てみたいなそれは。
「ジガ君は? なんか全然喋ってないけど、大丈夫?」
「い、いえ……俺は心底驚いています。セーレ殿はその……見るからに魔に連なる者でしたから、魔物と契約する延長のものだろうと、その……納得していたのです。しかし、ルクヌヴィス神は……本物の神です。それをあのように親しげに話せるとは。主殿はすごいですね」
「キュベレーさんね。ルクヌヴィスって呼ぶと、寺院の人たちにバレた時にうるさそうだから、気を付けてね。あと……ふ~む? ジガ君的には、とても神々しく見えるってことか」
「あのような魔力の輝きは、人や魔物にはありえないものです。彼女は紛うこと無く大神ルクヌヴィスそのもの。フィオナ殿にはわからないのですか?」
静かな声音だが、珍しくジガ君は震えているようだった。
フィオナはキュベレーさんが召喚されてきた時、明らかにホッとしていた。
「思ってたよりマトモだ」と考えていたことは明白である。
だが、ジガ君は逆に「本当に神様を呼び出しちゃったぞ、マジかよ!」となっていたというわけだ。
ダーマには獣人をたくさん呼び込むつもりだから、ガチの新ルクヌヴィス教ができてしまうかもな……。
「私はキュベレーさん、やさしそうで良かったな~って思ったかな。実際やさしそうだし」
わりとのんきにそんな感想を述べるフィオナ。
貴族の娘のくせに……いや、貴族の娘だからか、けっこう大らかな性格なんだよな。
でっかくて安心できちゃうママ味は感じるけれど、やさしそうか?
怒ったらめちゃ怖いタイプだろ、あれ。
「う~ん……。フィオナらしくて、それはそれで美徳ではあるけどさ、彼女、やさしそうでも神だからね。あんまり心は開かないほうがいいかもよ~? これは私の勘だけど、心を許すのはドッピーまでにしておいたほうがいいね。セーレはセーレでちょっと変だし。キュベレーさんはそれの母ってくらいだから。内心では人間なんて虫けらくらいに思ってると考えたほうがいいでしょ」
「マホって、そういう線引き凄いよね。なんで? 魔力見えないのに」
「逆に魔力が見えないからだろうね。それ以外の要素で判断する癖が付いてんのよ」
「私も業務的関係に徹するほうが良いと考えます。あれは正真正銘の神ですから。本来ならば、言葉を交わすことすら烏滸がましいほど絶対的な存在です」
「そういうことね。処置室もキュベレーさんの部屋は別室を作ったほうがいいわね。あんまり、無辜の民を近づけさせたくないわ」
っていうか、単純に色っぽすぎるんだよ。
身体は大きいけど、逆にそういうのが癖な男性が猛烈にアタックしてくると見たね。
となれば、用もないのに男たちが殺到することになるのは明白だわ。ホームセンターの作業着でも着せとくか? いや、あのサイズはホームセンターにもないか。
「ま、それはそれとしてセーレのビビり方はちょっと面白かったね。あいつのあんな顔初めて見たよ」
「花なんか持ってきてたもんね。ちょっとビックリ」
笑いながら転送碑から1層へと飛ぶ。
今は営業時間外だから、転送碑の前には誰もいない。
ルクヌヴィス神そのものを呼び出したのは、もしかすると波乱を呼ぶかもだが、ホームセンターもあるし、セーレもドッピーも、でっかくなったポチたちもいる。
もうすでに賽は投げられたのだ。
自重なんてしないで、行きつくとこまで行ってしまえ。
◇◆◆◆◇
次の日。
早速、ホームセンターのプレハブを持ち込んで、キュベレーさんのための処置室を作った。
普通のプレハブだと小さすぎるので二階ブチ抜き改造品である。キュベレーさん自身が大きい上にめちゃくちゃ力持ちだったので、てきぱきと改造が済んでしまった。
「窮屈でしょうけど、日中はここで重傷患者の処置をお願いします」
「暇な時には外に出てもいいでしょう?」
「え、う~ん。……大丈夫ですかね? キュベレーさんかなり目立ちますけど」
「認識阻害魔法でも使っておけば平気でしょう。私も久しぶりのこちらの世界ですから、みなとお話とかしてみたくて」
「まあ、そういうことなら」
ということで、普通に出歩くようになってしまったが、キュベレーさんは案外社交的なタイプで、認識阻害魔法とかいうのを使って、普通に街の人に紛れ込んでいる。フィオナに聞いてみたら、とにかく「違和感を覚えることができない」のだそうだ。私がセーレに違和感を覚えない事の逆バージョンみたいなものなのだろう。ただ、サイズはあんまり誤魔化せないのか、通りがかりの人「でかっ」とか言ってたりするのはご愛敬だろう。
まあ、神が下々の暮らしに混ざるってのは、古今東西よくある話ではある。人間に危害を加えるなと一応命令は下してあるから、悪さをすることもあるまい。
さて、肝心の怪我人の処置のほうはというと。
さすがに命に関係がないような軽い擦過傷なんかまでは面倒みないが、それ以上の怪我や毒、ヤケドなんかも対応することに決めた。もちろん、死者は優先して運び込むことになる。
あんまり大々的に死者蘇生をやるとは喧伝していないが、そのうち噂が噂を呼んで公然の秘密になっていくだろう。
「完全蘇生ができるって宣伝しないの? いつものマホならそういうのどんどんやるのに」
「ん~、まあ、ねぇ。少しは考えたけど、さすがにキュベレーさんは規格外というか……それをやっちゃったら、さすがにルクヌヴィス教も黙ってないでしょ。『どうせミスミランダの契約者か、野良のルクヌヴィス契約者を見つけてきて司祭に据えてんだろう』くらいに思われてる程度でいいんだよ。要するに、お目こぼしいただける範囲ってことだね」
「ふぅん……そっか。寺院ってそんなになんか言ってくるのかな」
「わかんないけど、動くと厄介そうなイメージはあるよね」
実際どうかといわれると、私はこっちの世界の人間でもないし「わからない」というのが本当のところだ。でも、彼らは蘇生は自分たちの専売特許にしているわけで、そこを侵す存在を許さないだろいうというのは、想像に難くない。
でも寺院にお金を払えず、その辺の僧侶を使って回復役にしてる程度なら、さすがにイチイチうるさく言ってこないだろう。それくらいなら、結局は迷宮探索者パーティーの僧侶が回復するのと大差ないのだから。実際、こないだまでアイネちゃんがそれをやっていたわけで。
まあ、闇営業的な気配は残るがいまさらである。
ちなみに、アイネちゃんは回復役をお役御免となって、奇声を発しながら迷宮に突撃していった。どうやら性分的に僧侶役は合っていなかったらしく、相当ストレスを溜めていたようだ。たった数日なのに……。
救護班のみんなは引き続き業務を継続してもらう。
キュベレーさんに処置を頼むかどうかの線引きもあるし、探索者たちに基本の応急処置を学ばせるためにも、彼女たちの役割は重要である。なにせ、水魔法を使えるのに傷口の洗浄すらしない程度には、みんな衛生の知識がないのだ。
うちは世界一安全なダンジョンであると同時に、世界一清潔なダンジョンを目指すぞ!




