第63話 喚んじゃうか!
迷宮の営業終了後、ホームセンターに集まり今後の運営方針についての緊急会議を開く。
メンバーは、私、フィオナ、セーレ、ドッピー、ジガ君の5人。
アイネちゃんは回復魔法の使いすぎで、すでに酒場で一杯やっていたので除外した。
「回復魔法……特に蘇生までできる人が必要です」
「俺のパーティーにルクヌヴィス神の契約者がいればよかったんですが……」
「僧侶ってどこでも引っ張りだこですからね。私が前に組んでた子も、今はどこにいるんだか……」
ジガ君によると、僧侶の数は魔法使い5人に一人かそれ以下の割合らしい。
だから、探索者も中級までは僧侶なしということが多く、それをカバーするのが斥候なのだという。ただし、斥候は誰よりも神経を使い、誰よりも迷宮に詳しくなければならず、さらにいざというときは最後の戦力として戦えることすら求められる、なかなか難儀なものらしかった。
「で、マホ。奥の手って?」
フィオナが促してくる。いや、奥の手を言うよりも、先にみんなの意見を聞きたかったが、まあいいか。
「そんな大げさなものでもないけどね。ドッピーに僧侶になってもらえばいいかなって」
「あー……なるほど。ルクヌヴィス様の使徒になってもらえば一応解決するのか」
「ドッピーには他にもやってもらいたいことあるし、アイデアとしては微妙だけどね」
不遜な言い方になるが、「私になれるドッピー」の価値は唯一無二だ。僧侶は逆にこの世界の人間を連れてこられれば良い。そういう意味では、ドッピーの使い道としては、少しもったいない気がする。
「マスターの言う通り、私もその案は微妙かと考えます。現状のダーマでは私は運営として常駐していたほうが良いでしょう。スタッフたちはまだ、マスターの考えているシステムを完全には理解できていませんから」
「やっぱり? でもそうすると、回復役がねぇ。このままだと、たぶん一週間以内に死人が出ると思うんだ。ゴブリンにも刃物持ってるやついるし、胴体とかグサーっとやられたら、どうにもならないでしょ」
脚とか腕とかだって危ない。動脈を斬られれば死ぬことは十分にある。
怪我人ならば許容できる。
迷宮を運営するのだから、それは仕方ないと割り切れる。
だけど、死んじゃうのはダメだ。
「……呼び出せばよろしいのでは?」
妙に小さな声でそう提案するドッピー。
『おい、やめろ』
「呼び出す?」
「ええ。ルクヌヴィス神を」
『やめろ。そんな提案はするな』
「ルクヌヴィスを? どういうこと?」
「あの召喚陣から呼び出せるはずです」
『無理だ。絶対にノー!』
「セーレうるさい」
ドッピーの提案は、想定していないものだった。
なるほど、魔法がこの世界の神によりもたらされるものならば、神そのものを呼び出してしまうというのは妙案だ。
通常ならば、そんなことできるはずがないのだが、私にはできてしまう。
セーレによるとあと一度使えば、あの召喚陣は使えなくなるということだったが、蘇生魔法が使える神を呼び出せるなら、使う価値がある。
っていうか、ルクヌヴィスって普通にドッピーの世界の住人なのか。
「いいね。供物はどうする。本当に来てくれるのかな。ドッピーより高位の存在なの?」
「高位の存在ですが、間違いなく召喚に応じるでしょう。こちらには……セーレ殿もおりますし」
『無理無理無理。レディマホ、後生ですから』
セーレが冷や汗をかいて普段見たことがない状態になっているが、しかし、突然解決策がでてしまったぞ。
「あ、あの~、マホ? これどういう流れ? ルクヌヴィス様を呼び出すとか本気で言ってる感じ?」
「もちろん、本気だけど」
「ルクヌヴィス様って、あのルクヌヴィス様のこと? 大神だよ? 一番えらい神様なんだよ?」
「そうなの? 神の序列とかって詳しくなくて。ドッピー?」
「いえ、ルクヌヴィスは神の一柱に過ぎません。セーレ殿と同格ではありますが」
「邪神ってこと?」
フィオナがセーレのことを邪神って言ってたけど、ルクヌヴィスも実は邪神なのか?
というと、セーレと契約して魔法使いになるというコースもあるということなのだろうか。いや、セーレは誰かと契約とかしなそうなタイプではあるけど。いや? 私がすでに契約しているとも言えるか? 今度聞いてみるか。
それはそれとして、セーレは確か「魔を司る神の一柱」とか言っていたはず。ルクヌヴィスもその仲間ってことか。まあ、どっちにしろセーレが大丈夫だったし、ルクヌヴィスも大丈夫だろう。なによりドッピーが大丈夫と言っているし。
「セーレ。なんか嫌がってるとこ悪いけど、決定で」
『おわああああ! レディマホの悪魔!』
「セーレが壊れたわ。普段みたいに澄ましてるより、そっちのほうがいいよ」
『血も涙もない!』
マジで嫌がってそうで申し訳ないけど、これは仕方がないことなんだ。
私は神遣いの荒い女だからね……。
「で、ルクヌヴィスってどういう感じなの。言うこと聞いてくれる?」
「慈愛に満ちた方ですから、快く協力してくれるはずです」
「良さそうじゃん!」
『嘘です! こいつは嘘をついている! 邪悪!』
「あっはは。ドッピーがそんな嘘つくわけないでしょ。さ、供物を用意しましょ」
セーレの時も、ドッピーの時も、電動工具とかで来てくれたけど、ルクヌヴィスはどうだろうな。
セーレと同格となれば、同じくらい用意すればいいのだろうが、まあ運ぶ手間だけだからね。
魔法陣もあと一度で使えなくなるという話だし、ガツンといってやろう。
セーレが馬の上でシオシオにへたり込んでいるのを横目に、私たちは供物をえっちらおっちら魔法陣のある階層まで運んだ。
セーレが転移で運んでくれれば楽だったのだが、完全に目がうつろで、到底頼める状態ではなかったのだ。どうやら、セーレはルクヌヴィスと知り合いらしいが、どういう関係なんだか……。
案外、見た目が特殊でセーレの美意識に反するとか、そういうことなのかも。ま、私は見た目で判断しないタイプだからね。問題ない。




