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異世界でゲームのシステムで最強を目指す  作者: 霧野夜星


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第七十九話 死霊の魔王グレーターリッチ

 西側から移動してくるグライン王国軍とラヴァ帝国の竜騎士団を見ながら、ランスロットが口を開く。


「あいつらが逃げてきてるのに、俺達が向って行っても人の波に飲み込まれそうだから、俺も逃げるのに賛成だ」

「じゃあ、東側に移動してメイル国騎士団と合流……」

「ちょっと待ってください! 兵士達の動きが止まりました!」


 望遠眼で西側の様子を見ているサキがそう報告する。


「むっ、反転して迎撃しようとしてるのか。ならあいつらは西側の城壁の防衛を諦めて、砦内で戦う選択をしたんだろう」

「まあ、魔族国軍の主力が空を飛んでいて城壁はあまり意味がないから、砦内の広い場所で戦ったほうがいいと判断したのかもね。ここには民間人もいないし」


 そんな会話をしているシャルロッテとランスロットのそばに、付近のサンドワームゾンビを討伐し終えたブレット神官長が近づいてくる。


「助太刀、感謝する。俺は聖王国の神官長ブレットだ。君達はもしかして覇竜の牙か?」

「はい。私はシャルロッテです」

「おお、やはり君が光の英雄か。噂は聞いてるぞ。色々活躍……いや、今はそれどころではなかったな。我々の次の行動を決めねばならん」

「そうですね。グライン王国軍とラヴァ帝国の竜騎士団が、魔族国軍の迎撃を始めたようなので、私達もどうするか話していたところです」

「うむ。なら我々と一緒に加勢に行くというのはどうだ? 君達が一緒に来てくれるなら心強い」

「兄さん、いいよね」

「ああ、俺達も行こう」

「おお! 感謝する。よし、全員、騎乗して西側に進軍する」

「はっ!」


 ブレット神官長とほかのテンプルナイト千五百が、西側に続く大通りで白い馬に乗って隊列を組み始める。


「私達も行きましょう」

「はい」


 シャルロッテ達と冬雅達も再び馬に乗って、テンプルナイトと共に西側へ向かおうとしたその時、


「むっ、馬に乗った誰か来るぞ!」

「伝令かな?」

「いや、あの装備は伝令の物じゃない。それに四人いる」


 ランスロットが望遠眼で西側から馬に乗って走ってくる四人を見ている。


「あ、あれは、浅井君達だ!」


 同じく望遠眼で見ていたサキが、その四人が浅井達、勇者パーティだということに気づいた。


「アサイ君? ああ、勇者アサイのことね」


 シャルロッテは昨日の会議でのアサイ達の様子を思い出している。


「宮本さん! 佐々木さん!」

「わかってる」

「正体がばれないようにでしょ」


 冬雅達は浅井達に素顔を見られないように、マフラーの位置を直したり、フードマントを深く被ったりしている。そして冬雅がシャルロッテに話しかける。


「シャルロッテさん。彼等の前では俺達は声を出せないので対応をお願いします。あと俺達の名前も言わないようにしてください」

「あー、彼等に正体をバレたくないのね。わかった。君達は私達の後方で待機してて」

「はい。ありがとうございます」


 冬雅達はシャルロッテ達から少し離れた場所に集まって待機する。そしてしばらくして、


「すみませーん!」


 浅井がシャルロッテのことを見つけて、前田、立花、黒田と共に、彼女のそばへ馬に乗って走ってきた。


「メイル国のシャルロッテさんですよね」

「はい。あなたは勇者アサイですね」

「はい。い、いえ、勇者とは名ばかりで、まだまだ未熟ですが」

「浅井、早く要件を」

「ああ、そうだった。実は魔王が現れたんです」

「魔王!」


 浅井の魔王という言葉を聞いて、この場にいる全員に緊張が走る。


「もしかして、死霊の魔王グレーターリッチですか?」

「はい」

「やはり。倒したモンスターがゾンビ化したのは、そのせいですか」

「そうみたいです。それでグレーターリッチは闇属性なので、光の英雄と共に魔王を倒せとゼル将軍に指示されました」

「わかりました。魔王相手にどこまで私達の力が通用するかわかりませんが、共に戦いましょう」

「ありがとうございます。では俺達についてきてください」


 浅井達とシャルロッテ達が西側へ馬を走らせていく。それに冬雅達とテンプルナイトも続いていく。



 場面はその西グライン砦の砦内の、グライン王国軍とラヴァ帝国の竜騎士団と、魔族国軍が戦ってる大通りに変わる。


「ゾンビには火と光が有効だ。せん滅しろ!」


 黄金の鎧を身に着けたゼル将軍がグライン王国軍を指揮し、ワーウルフゾンビ、バイコーンゾンビ、ドラゴニュートゾンビ、サンドワームゾンビなどと戦っている。


「ゾンビ共だけなら何とかなるが、グレーターリッチだけは俺達では倒せん。だが奴を倒さないとモンスターを倒しても、またゾンビ化して復活する。これではこちらが消耗するばかりだ」

「ゼル将軍! アサイ達が戻ってきました!」


 モアレ副団長のその言葉を聞いて、ゼル将軍が後方を見る。すると浅井達、シャルロッテ達、冬雅達、そしてテンプルナイトが接近してくるのが見えた。


「思ったより早かったな。それにテンプルナイトも一緒か。彼等は光系の攻撃が得意だ。ゾンビ相手に有利に戦えるだろう。あとは光の英雄の実力が噂通りかどうかだな」


 その後、浅井達がゼル将軍のいる場所に到着して馬から降りる。


「ゼル将軍! 光の英雄をお連れしました!」

「うむ。よくやった。お前達はグレーターリッチが現れるまで、この場で待機しててくれ」

「はい」

「ゼル将軍、我々も加勢します」

「ブレット神官長、よろしく頼む。あなた達は我々と共にゾンビモンスターと戦ってほしい」

「了解です。テンプルナイト達よ! 行くぞ!」

「おお!」


 ブレット神官長に指揮されたテンプルナイト千五百が加わり、グライン王国軍が、ゾンビ化したモンスターを次々と倒していく。


「ゼル将軍、こちらが優勢です」

「当然だろう。元々こちらの方が戦力が上なのだ。魔王のことを考えなければだが」

「あ、あれは!」

「来やがったな」


 ゼル将軍とモアレ副団長が、グレーターリッチがバイコーンゾンビに乗って、こちらへ向かって来てるのに気づく。


「兵達に攻撃を命じますか?」

「止めとけ。半端な攻撃は効かんだろ。グライン鉄騎兵団! 後退しながら道を開けろ!」


 ゼル将軍の指揮で砦内の大通りで戦っていた兵士達が、後退しながら魔王までの道を開ける。


「あれが魔王……」


 シャルロッテはグレーターリッチから感じる強大な魔力を感じ、冷や汗を流す。


「アサイ。お前達の出番だ」

「はい」

「私達も行きましょう」


 浅井、前田、立花、黒田、シャルロッテ、ランスロット、エミリ、カイトが前に出て、その後を冬雅、サキ、凛子とコロポックルが続く。


「ほう。何人かの強者の存在を感じる。面白い」


 グレーターリッチはバイコーンゾンビから降りて、全身から周囲の大地が震えるほどの強大な魔力を放出する。


「なっ!」

「なんて魔力だ!」

「これが魔王の力……」


 あまりに強大なグレーターリッチの魔力を感じとった一般の兵士達は、地面に膝をついたり、尻もちをついたりして震えている。一方、シャルロッテ達や浅井達は、倒れはしなかったが、恐怖を感じて、数歩、後ずさる。


「暗黒の呪い!」


 人間達が恐怖で混乱していると、グレーターリッチが右手をかざし、広範囲にまがまがしい闇を放つ。それを見たシャルロッテ達は魔法障壁を壁状に展開して防ごうとするが、その闇は魔法障壁をすり抜け、この場にいる多くの人間達がその闇に飲み込まれた。

 

「なっ、魔法障壁で防げてない!」

「ぐあっ、体が……重い……」

「ま、魔力の出力が上がらない……」


 闇に飲み込まれた者達が、自分の体の異変に気づく。グレーターリッチが使った暗黒の呪いは、すべての能力値を半減させてしまう効果を持ち、さらに魔法障壁をすり抜ける能力も持っていた。


「ふふふ。この呪いは、我が長い年月をかけて作り出した特別製だ。さあ、人間達よ! 闇に堕ちて、我が下僕となるがいい!」



 次回 神の手 に続く

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