第七十三話 魔族国軍 VS グライン王国軍
「あれが魔族国軍……」
西側の城壁の上にいる浅井が、バイコーンに乗って走ってくるワーウルフの軍団を見てそうつぶやく。その彼の少し離れた場所にいるグライン鉄騎兵団の副団長モアレが、近くにいるゼル将軍に話しかける。
「将軍。何で奴等はあれだけの兵力で攻めてきたんでしょうか? あれだけでは、とてもこの西グライン砦を落とせるとは思えないんですが」
「さあな。こちらの力をはかるための威力偵察か、功を焦った魔族が独断で行動してるのか。どちらにしろ、今回の戦いは負ける要素はない」
「なら、戦いの本番は魔族国軍の本隊の方ですか」
「うむ。その時のために……アサイ!」
「は、はい!」
ゼル将軍に呼ばれ、浅井が彼の元に走ってくる。
「今、レベルはいくつだ?」
「31です」
「ふむ。こちらで用意した装備とスキルで、そのレベル以上の戦いはできるだろうが、まだ魔王と戦えるレベルではないな」
浅井達四人は、グライン王国がダンジョンやオークションなどで集めた伝説の武器や防具を身に着け、強力なスキルをスキルブックで習得していた。
「は、はい」
「だから、この戦いでなるべくモンスターを倒して経験値を稼げ」
「わかりました」
「将軍! そろそろです!」
モアレがそう指摘し、ゼル将軍が西の街道を見ると、魔族国軍二千が西グライン砦の近くまで接近してきていた。
「よし! 攻撃準備!」
グライン王国の鉄騎兵団と歩兵部隊、魔法使い部隊、冒険者などの傭兵部隊が、弓や魔法での攻撃準備をして待ち構える。一方、魔族国軍のワーウルフとバイコーンは、西グライン砦の近くまで来て行軍を止め、ワーウルフはバイコーンから降りる。
「ウオオオオオオオオオンンンンンン!」
その雄たけびを合図に、ワーウルフ達が西グライン砦の東側の城壁に向かって走り始める。同時にバイコーンはその場で口を大きく開けて、城壁の上部に向けて五十センチくらいの瘴気の塊、瘴気弾を放つ。
「攻撃してきたぞ!」
「応戦しろ!」
「む、あれは何だ!?」
「あれは……ドラゴニュートだ!」
ワーウルフの群れの中から十体のドラゴニュートが現れて、空を飛んで城壁へ迫ってくる。ドラゴニュートは、頭がドラゴン、体が人間の姿で、背中にドラゴンの翼を持つBランクモンスターである。飛行能力を持ち、魔法耐性の高いうろこで全身が覆われていた。
「撃ち落とせ!」
空を飛んで迫ってくる十体のドラゴニュートを狙って、城壁の上の兵士達が弓や魔法で攻撃する。だがドラゴニュートは鋼鉄の胸当てと鋼鉄の盾を装備していたので弓では致命傷を与えづらく、魔法耐性の高いうろこのおかげで魔法攻撃も効果が低かった。
「グオオオオオオ!」
空を飛んでいる十体のドラゴニュートが、持っていたナイフの刃に魔力をまとわせて城壁のあちこちを狙って投げて、それが城壁に次々と突き刺さる。
「何だ? どこを狙ってる?」
ドラゴニュート達が兵士達ではなく城壁にナイフを次々と投げているのを見て、兵士達がその行動に疑問を持つ。すると、
「ウオオオオオオンンン!」
城壁のそばまで迫ってきていたワーウルフ達が、城壁に突き刺さっているナイフの柄を足場にしてジャンプしながら城壁を登っていく。
「しまった! ワーウルフのためのナイフか!」
「登ってくるワーウルフを狙え!」
「うおおおおお!」
一方のグライン王国軍も、魔族国軍のモンスターを狙って、弓や魔法で攻撃を続ける。
「瘴気には触れるな! 毒状態になるぞ!」
「毒対策してる奴は、構わず攻撃を続けろ!」
バイコーンが吐き出した瘴気弾が次々と城壁の上部に命中し、付近に瘴気が漂うが、毒を無効化する効果を持つ鎧や盾や指輪などを装備している兵士達は攻撃を続ける。
「ガアアアアア!」
「ウオオオオオン!」
「よし! そのまま攻撃を続けろ!」
数で勝っているグライン王国軍の方が優勢に戦いを進め、次々とワーウルフとバイコーンが倒れていく。そして浅井達、勇者パーティもその戦いに参加している。
「コールドストーム!」
魔法のスペシャリストである賢者の黒田が、氷系上級魔法を空を飛んでいるドラゴニュートを狙って放つ。この広範囲に放たれた極寒の冷気が嵐のように渦巻きながら拡散していき、ドラゴニュートの全身を飲み込む。
「ガアアアアアアアア!」
黒田の氷系上級魔法で倒されたドラゴニュートが地面に落下していく。魔法耐性の高いドラゴニュートだったが、氷系の攻撃が弱点だったので、魔力の高い賢者の魔法なら倒すことができた。その黒田の活躍を見た周囲の魔法使い達は、ドラゴニュートに氷系魔法で彼と共に攻撃する。
「ハイオーラブレード!」
「ギャアアアアア!」
さらに剣聖である前田が、城壁の上まで登ってきたワーウルフを魔力を込めた斬撃で倒す。同時に勇者である浅井も剣に雷をまとわせ、ワーウルフに雷の斬撃を放つ。
「雷迅剣!」
「グガアアアア!」
浅井も雷の魔法剣で次々とワーウルフを倒していく。そしてこの戦いで怪我をした兵士達を聖女である立花が魔法で治療する。
「エクストラエリアヒール!」
暖かい光が周囲に拡散し、彼女の周囲にいた怪我をした兵士達の傷が回復する。それらの様子をゼル将軍が見ている。
「初めての実戦なのに、なかなかやるじゃないか」
これまで浅井達は、ゼル将軍がモンスターをひん死しにて、彼等が止めを刺すというパワーレベリングでレベル上げを優先してきた。そのため、まともな実戦は今日が初めてだった。
「ドラゴニュートの出現は予想外だったが、もう勝敗は決まったな」
場面はグライン王国軍と魔族軍が戦ってる西側の城壁の反対側の、東側の城壁の上に変わる。そこには冬雅達と、シャルロッテ達と、リーナ達メイル国騎士団がいた。
「敵は城壁の上まで登ってきてるようだな」
「空を飛んでるモンスターもいるみたいですよ」
「あれはBランクのドラゴニュートだ。だが数は少ないようだ」
リーナとサキが、反対側の城壁の上を見ながらそう話す。
「私、全然見えないんだけど」
「俺も」
東側の城壁から西側の城壁まで遮蔽物はなかったが、かなりの距離が離れているので、冬雅と凛子は城壁の上の戦闘までは見えなかった。
「私は望遠眼のスキルを持ってるからな」
「私も持ってます」
「あー、スキルのおかげか」
「それで戦況は?」
「そりゃ、グライン王国軍が優勢だろ。数が違いすぎるし、城壁の上から攻撃してる方が有利だしな」
「じゃあ、俺達は今日は戦わないんですか?」
「空を飛んでる奴もこっちにまでは来なさそうだし、地上のモンスターも、わざわざここまで来ないだろ」
「リーナさん!」
その時、西グライン砦の東側にある街道の先を見ていたシャルロッテがリーナを呼ぶ。
「どうした?」
リーナや冬雅達が、城壁の上の外側まで走っていき、シャルロッテと一緒に街道の先の方を見る。
「あっ、骸骨のモンスターがこっちに来てる!」
「あれは……スケルトンソルジャーか!」
サキとリーナが望遠眼で見たのは、鉄の剣や鎧などを装備した骸骨のDランクモンスター、スケルトンソルジャーの集団だった。
「五百くらいいるな」
「スケルトンソルジャーってDランクですよね。それが五百くらいなら」
「ああ、こちらの戦力を考えれば、それほど脅威ではない」
次回 魔族国軍 VS メイル国騎士団 に続く




