第六十一話 ヒュドラ変異種戦
「ギルマス。猛毒のブレスって、毒無効の指輪でブレスのダメージも無効化できますか?」
「いや。猛毒のブレスは毒属性攻撃だから、ダメージは受けるぞ。指輪の効果で毒状態にはならないが」
「ああ、毒無効の指輪で無効化できるのは、毒状態だけなんですか」
「そうだ。猛毒のブレスのダメージを防ぎたいなら魔法障壁を使えばいい」
「なるほど……」
冬雅はギルドマスターやモンスター図鑑からの情報から作戦を考えている。
「じゃあ、私が魔法障壁を使う?」
「いや。佐々木さんは、入口近くで固定砲台になって欲しいんだ」
「固定砲台?」
「そう。入口の近くで動かないで、ヒュドラが倒れるまで魔力チャージしながら雷魔法で攻撃して」
「わかった。私は魔法で攻撃することに集中する」
「うん。あとは、最初に能力強化スキルを使って……」
冬雅はヒュドラ変異種を倒すための残りの作戦を二人に話す。
「わかった」
「今回は今までで一番ヤバい戦いになりそう」
「じゃあ、佐々木さん。お願い」
「うん。魔力高揚! からの魔力チャージ!」
凛子はヒュドラ変異種がいる部屋に入る前に戦いの準備を始める。そして彼女の魔力チャージが完了する。
「よし、いつでもいいよ」
「じゃあ、ドラゴンオーラ!」
「戦乙女の誓い!」
さらに冬雅とサキが全能力強化スキルを発動する。
「じゃあ、始めよう」
冬雅、サキ、凛子は、ヒュドラ変異種がいる部屋に入り、まず凛子が魔法を発動する。
「サンダーブレイズ!」
凛子が放った魔力チャージで強化された魂をも感電させる特殊な雷が、部屋の奥で眠っているヒュドラ変異種に命中し、その全身を感電させる。
「ガガガガガガ!」
眠っていたヒュドラ変異種はその電撃のショックで目を覚まし、九つの頭が起き上がって冬雅達を威嚇する。
「シャーーーー!」
その様子を部屋の入口の外から、ギルドマスターと二人の職員が見ている。
「でかい!」
「普通のヒュドラより二倍くらいありそうです」
「あの大きさは間違いなく変異種ね」
ギルドマスター達が見守るなか、光の盾を構えたサキと雷轟の剣を持った冬雅が、部屋の奥にいるヒュドラ変異種に向かって走り出す。それと同時に凛子はまた魔力チャージを発動する。
「ブフアアアアアアアアア!」
「ブフアアアアアアアアア!」
「ブフアアアアアアアアア!」
一方、ヒュドラ変異種は、九つの頭のうちの三つの頭が大きく口を開き、毒々しい紫色の猛毒のブレスを、走ってくるサキと冬雅を狙って吐き出す。それを見たサキは走るのを止めて、光の盾を構えて猛毒のブレスを防ぎ、彼女の後ろに冬雅が避難する。すると守りの盾のスキルの効果が発動し、彼女の防御力が30%上昇した。だがサキは猛毒のブレスのダメージを盾で軽減しながらもHPが減っていた。猛毒のブレスのダメージは、防御力ではなく魔力が関係するので、今の守りの盾の効果はあまり意味がなかった。
「このくらいならいける!」
サキはダメージを受けていたが、生命の指輪の効果で、減ったHPが徐々に回復していく。そしてヒュドラ変異種の猛毒のブレスが止まり、サキは再び走り出し、それに冬雅が続く。
「ブフアアアアアアアアア!」
「ブフアアアアアアアアア!」
「ブフアアアアアアアアア!」
するとヒュドラ変異種の九つの頭のうちの三つの頭の口が開き、また猛毒のブレスを吐き出した。
「癒しの盾!」
それに対しサキは防御時、HPを小回復させるスキルを発動し、HPを回復しながら猛毒のブレスを防御してしのぐ。そしてまた猛毒のブレスが止まる。
「よし、分身!」
そのタイミングでサキの後ろにいる冬雅が、分身のスキルで自分と同じ能力値の分身を作り出し、彼はその分身をヒュドラ変異種に突撃させる。
「ブフアアアアアアアアア!」
「ブフアアアアアアアアア!」
「ブフアアアアアアアアア!」
一方、ヒュドラ変異種は、九つの頭のうち三つの頭の口が開き、接近してきた分身を狙って、猛毒のブレスを吐き出す。
「逃げろ!」
冬雅は自分の分身を操作し、猛毒のブレスから離れるように高速で移動させる。スキルで作られた分身は、大まかな指示をするだけで自動的に動くことができるので、冬雅はすべての体の動きを操作する必要はなかった。今は彼の逃げろという命令で、猛毒のブレスから離れるように高速で走っていく。だが冬雅の分身は猛毒のブレスの一部をよけきれず、分身のHPが減り、さらに毒状態になってHPが徐々に減っていく。
「分身は能力値は同じだけど、スキルとか装備の効果とかは発動しないから毒状態になったのか。でも時間を稼ぐのが目的だから問題ない。そのままヒュドラを攻撃だ!」
冬雅に攻撃を指示された分身が、ヒュドラ変異種に高速で接近する。
「シャーーーー!」
するとヒュドラ変異種の頭のひとつが口を大きく開き、迫ってきた冬雅の分身を飲み込んだ。
「うおっ! 分身がやられた!」
冬雅は、飲み込まれた分身を目視できなかったが、ヒュドラ変異種の口の中で消滅したことがわかった。その時、凛子が大声で叫ぶ。
「チャージできたよ!」
「上泉君!」
「わかってる」
サキと冬雅は、凛子の射線から急いで走って離れる。そして、
「サンダーブレイズ!」
凛子が放った雷系最上級魔法の電撃が、再びヒュドラ変異種に命中した。彼女はその電撃が九つの頭のすべてに命中するように上手く操っている。
「ガガガガガガ!」
ヒュドラ変異種の全身に電撃が走り、その動きが鈍る。
「今だ!」
それを見た冬雅が、サキの後ろから急いでヒュドラ変異種に接近しジャンプして、雷轟の剣に雷をまとわせて必殺技を放つ。
「天羽々斬!!」
冬雅は九つの頭すべてを狙って無数の斬撃を放つ。その斬撃が命中した九つの頭部は大ダメージを受けた。
「シャギャーーーーー!」
だがそれでもヒュドラ変異種の頭部を倒せるほどのダメージにはなってなかった。そしてヒュドラ変異種の二つの頭が口を開いて鋭い牙を見せながら、近くにいる冬雅を飲み込もうと襲い掛かる。
「うおっ!」
それに対し冬雅は急いでヒュドラ変異種から逃げて、サキの後ろに戻る。するとヒュドラ変異種はサキと冬雅がいる方向に移動しつつ、三つの頭の口が開き、また猛毒のブレスを二人を狙って吐き出した。それをサキは光の盾で防御して自分と冬雅を守る。その後、冬雅はまた分身を作り出して、ヒュドラ変異種に向かって突撃させ、これまでと同じような攻防が始まった。
「上手い連携だな」
部屋の入口の外にいるギルドマスターと二人の職員が、冬雅達の戦いを見て感心している。
「そうですね。三人が自分の役割をよくわかっているみたいです」
「あの子たちって今、Bランクよね。あれはもうSランクって言ってもいいくらいでしょ」
「そうだな。やつらのランクアップのことも考えないと。いや、今はそれより、ヒュドラ変異種を倒せるかどうかだ」
冬雅達はサキが防御、冬雅が牽制、凛子が固定砲台の役割を担当し、ヒュドラ変異種の頭部にダメージを与えていく。
「シャーーーーー!」
するとヒュドラ変異種は攻撃パターンを変えて、サキと冬雅がいる場所にさらに接近し、九つの頭のうち二つが口を大きく開けて、サキを飲み込もうと襲い掛かる。
「ハイオーラブレード!」
「竜牙一閃!」
その二つの頭をサキと冬雅は、魔力をまとわせた光の剣と轟雷の剣で切り裂いてダメージを与える。ヒュドラ変異種の大きく開かれた口は、サキの光の盾よりかなり大きいので、彼女の盾で防御はできなかった。それで二人は、物理スキルで攻撃してヒュドラ変異種の攻撃を防いだのである。
「二つの頭の攻撃ならこれで防げるけど、三つ以上の頭で同時攻撃されたらどうするの?」
「その時は……」
「シャーーーーー!」
「シャーーーーー!」
「シャーーーーー!」
サキの心配通り、ヒュドラ変異種は九つの頭のうち、三つの頭が口を大きく開き、サキと冬雅を飲み込もうと襲い掛かってきた。
次回 ランクアップ に続く




