第六十〇話 ヒュドラ
「なるほど。だからセーフエリアを最短ルートで目指してるんですね」
「そうだ。それとセーフエリアの最後は、最下層の地下二十階だ。そこまで行って月下の華がいなかったら、最下層から捜索を始めて上へ進んでいくぞ」
「わかりました」
その後、休憩を終えた冬雅達は、地下十三階のセーフエリアから、さらに地下へ進んでいく。その途中、身長が三メートルくらいあり、上半身が牛で下半身が人間のミノタウロス、見た目は人の姿だが、眼が赤く、口に鋭い牙を持ち、人の血を吸うヴァンパイアなどのAランクモンスターが出現したが、冬雅達は問題なく倒し、その魔石を入手しながら進んでいく。
「あっ、宝箱だ!」
「しかも、二つある!」
冬雅達は銀の地下迷宮を最短ルートで進んでいるので宝箱はあまり発見できてなかったが、地下へ続く階段がある部屋でようやく初めての宝箱を発見した。
フルポーション×1
疾風の指輪×1
その後、地下十六階のセーフエリアを経由して、地下十八階セーフエリアに到着し、そこで一泊して三日目になり、さらに地下へ最下層を目指して進んでいく。その途中でも宝箱を二つ発見していた。
キュアポーション×1
大魔力の指輪×1
さらに冬雅達は戦闘を繰り返し、レベルが41、コロポックルが30になっていた。
「おじいちゃん。レベル30になったけど、転職はここを出るまで待ってね」
「うむ。転職ができることを、ほかの者に知られるのはまずいのじゃろ。わかっとる」
レベルが上がった時、凛子とコロポックルはそう小声で話していた。そして捜索隊はさらに銀の地下迷宮を進んでいき、とうとう最下層の地下二十階に到着した。
「ここが最下層か」
「ここのセーフエリアに月下の華がいればいいけど」
「早速、セーフエリアに行ってみましょ」
冬雅達を先頭にして、救助隊が地下二十階を進んでいく。すると、凛子が強大な魔力を持つ存在に気づく。
「ちょっと待って! この先の方から強い魔力を感じるよ!」
「ボス部屋はまだまだ先、ということは、ボスとは違う強いモンスターがいるのかもしれない」
「警戒しながら進みましょ」
冬雅は両手で雷轟の剣を持って構えながら歩き、サキは光の盾を構えながら通路を進んでいく。そして彼等が地下二十階の広い部屋に到着し、その入口から冬雅達が中を伺うと、奥のほうに巨大なモンスターの姿が見えた。
「あいつか!?」
「あれは……でかい蛇?」
「まさかヒュドラ!」
部屋の奥にいたのは、この銀の地下迷宮のボスのはずの巨大な多頭の蛇のモンスター、ヒュドラだった。
「何でここにヒュドラが? ボス部屋はまだ先なのに!」
「すぅーーー、すぅーーーー」
ヒュドラは部屋の奥の方で丸くなって眠っている。ヒュドラとは巨大な一匹の蛇の胴体に、九つの頭と首を持つ蛇型のAランク上位のモンスターで、その九つの口から猛毒の息を吐き出すことができた。さらに肉体の再生能力を持ち、首を斬り落としてもすぐに再生してしまうので、倒すのが難しいモンスターでもあった。
「ダンジョンのボスがボス部屋から出たということは……やつは変異種だ!」
「なっ! 変異種って、めったに現れないんですよね」
「ああ、それが同じダンジョンで二体も遭遇するとは……どうなってるんだ?」
「まずいですよ! あのヒュドラ変異種を倒さないと、魔王になってしまいます!」
「えっ? 魔王?」
男性職員の「魔王」という言葉を聞いて冬雅が驚く。
「そうです。ボス部屋から出てきて自由に移動できるボスの変異種は、ダンジョンのモンスターを引き連れ、地上に出てしまうんです」
「まさか魔族国の四体の魔王というのは」
「そうです。ダンジョンのボスの変異種を討伐せずに放置した結果、そのダンジョンがある国が滅んで魔族の国になったんです」
現在のグライン王国の西にある魔族国は、Aランク以上のダンジョンのボスが変異して魔王となってできた国だった。それ以来、ダンジョンボスの変異種が出現した場合、国の全戦力を投入してでも討伐することになっていた。
「お前達、あのヒュドラ変異種を倒せるか?」
「それは戦ってみないとわかりませんよ。普通のAランクモンスターなら倒せると思いますが、変異種は普通のより強いですし」
「そうだよな。ではどうするか」
ダンジョンボスの変異種は必ず倒さなければならないので、ギルドマスターはここにいる戦力だけで戦うか、地上に戻り、国へ報告してその戦力を投入して倒すべきか迷っている。
「この階の地図を見ると、この先にセーフエリアがあって、この部屋を通らないと行けないみたいです。つまり月下の華が先のセーフエリアにいる場合、あのヒュドラのせいで動けないのかもしれません」
男性職員が地下二十階の地図を見ながらそう推測する。
「ではあのヒュドラ変異種と戦わず、地上に戻ってしまうと月下の華の救出ができないということか」
「あくまで可能性の話です。月下の華が、ほかの階にいる可能性もありますし」
「これは簡単に判断できないわね」
「参ったな」
ギルドマスターと職員の二人は、この状況をどうすればいいか、色々意見を言い合っている。そこへ冬雅が提案する。
「ええと。一度あのヒュドラと戦ってみてもいいですか? もし勝てないときは、全力で逃げるので」
「ふむ。まあ、蛇のモンスターは移動速度は遅いから、お前達なら逃げられるか」
「はい」
「わかった。それで毒無効の指輪は持ってるんだったか」
「あっ、私だけです。ほかの二人の分はないです」
「わかった。では……」
サキの言葉を聞いて、ギルドマスターはウエストポーチタイプの魔法のかばんから、毒無効の指輪を二つ取り出す。
「こいつを装備しておけ。ヒュドラでいちばん厄介なのは猛毒のブレスだからな」
「はい。ありがとうございます」
「それは貸すだけだからな。戦いが終わったら返せよ」
冬雅と凛子は渡された毒無効の指輪を装備する。
冬雅
轟雷の剣 攻+80 雷魔法付与
精霊の胸当て 防+55 魔法耐性30%
破壊王の指輪 攻+15%
達人の籠手 防+15 会心率+10%
毒無効の指輪 毒状態を無効化
サキ
光の剣 攻+80 光魔法付与
光の鎧 防+65 闇無効
光の盾 防+40 魔法耐性30%
火竜の指輪 防+20 火無効
毒・麻痺無効の指輪 毒状態と麻痺状態を無効化
生命の指輪 HP自動回復
凛子
賢者の杖 攻+40 魔+40 魔法強化30%
賢者のマント 防+40 魔法耐性40%
大魔力の指輪 魔+10
魔導士の指輪 MP自動回復 魔+5
毒無効の指輪 毒状態を無効化
「俺達では、お前達と一緒に戦っても足手まといになるから、ここはまかせるぞ」
「はい。やってみます」
「上泉、作戦は?」
「ええと……」
冬雅はモンスター図鑑のヒュドラのページを開いて作戦を考える。
「ヒュドラは、九つの頭を全部倒さないと倒せなくて、ひとつの頭でも残ってるとすぐに再生してしまうのか。うーん。ゲームだったら、均等に九つの頭にダメージを与えといて、最後に広範囲攻撃でまとめて倒すんだけど、頭のHPがどのくらいあるのかわからないし、こっちの攻撃のダメージがどれくらいなのかもわからない」
冬雅は現実とゲームの違いに戸惑い、作戦を立てられずにいる。
「ギルマス。どうやってヒュドラの頭を同時に倒せばいいか、思いつかないんですが」
「いやいや、普通のヒュドラならともかく、変異種なんて誰も戦ったことないから、倒し方なんてわからないぞ」
「ですよね。はぁ」
(自分で作戦を立てるしかないか)
次回 ヒュドラ変異種戦 に続く




