表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オロカナルイキモノタチ  作者: 赤井"CRUX"錠之介


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/33

ジケン

 その日、浩市は店を開けなかった。

 もはや限界である。昨日は、高田の仲間らしき者たちが店にやって来た。あいつらは、簡単に引き下がらない。また、店に来るだろう。

 ならば、一刻も早くここを離れる。今のうちに荷物をまとめておくのだ。




 荷物を整理しつつ、浩市は改めて家の中を見渡した。

 様々な思いが、胸にこみ上げてくる。まさか、こんな形で家を離れることになるとは思わなかった。

 始まりは、父の死だった。さらに怪物が現れ、高田が死んだ。そして、ヤクザと駐在が怪物に殺された。

 全て、ここ一月以内に起きた出来事である。改めて振り返ってみれば、あまりにも現実離れしている。実際にあったこととは思えない。友人から、こんな話を聞かされたなら、嘘をつくなの一言で終わりだろう。

 だが、これは現実なのだ──


 それ以前に、この店の経営を続けていくこと自体に無理があった。工場が閉鎖され寮がなくなり、客足はバッタリ途絶えた。普通の人間なら、その時点で店を引き払っていただろう。

 にもかかわらず、父は店の存続にこだわっていた。店は続けろ、と言い張っていたのだ。浩市が無理やり店をたためば、健人は怒り狂うだろう。その矛先は、間違いなく理恵子に向けられていた。だからこそ、客も来ない店を続けていたのだ。

 本当に、生きている間は、家族みんなに迷惑をかけ続けていた男だった。

 今、ようやく店をたたむことができる。過程に問題はあるが、これで良かったのかもしれない。




 その夜、誠司はそっと家を抜け出した。

 スマホと懐中電灯を手に、国道沿いを歩いていく。時刻は既に零時近くなっており、光のない真っ暗闇だ。付近に民家はなく、店舗の類いも見当たらない。道路を外れると、木々が生い茂る森となっている。

 そんな中、誠司は歩いていく。顔は青白く、体は痩せ細っていた。Tシャツの袖から伸びた腕は、棒きれのように細くなっている。

 前から、一台の車が走ってきた。どこにでもある国産の乗用車である。

 車は、誠司の数メートル手前で停まった。誠司はというと、構わずに歩いていく。

 誠司が車の横に来た時、後部座席の窓が開く。中から、男が声をかけてきた。


「お兄さん、これ」


 言いながら、手を伸ばしてきた。誠司は頷き、その手を握る。

 だが、すぐに手を放した。握手の瞬間、男が手渡して来た()()がある。その()()を、手を広げ確認した。

 切手くらいの大きさのビニール袋だ。中には、砕いたハッカ飴のようなものが入っている。

 誠司は頷き、ポケットに手を入れる。中から、折りたたんだ紙幣を取り出し男に渡した。

 男は紙幣を確認し、ペコリと頭を下げる。


「ありがとうございます。また、お願いします」


 言った後、車はUターンし去っていった。誠司もまた、来た道を戻っていく。

 今、誠司が受け取ったのは覚醒剤だ。かつて少年刑務所にいた時、薬物の売人と知り合った。その売人は、隣の市に住んでいる。金を払えば、車でわざわざ来てくれるのだ。

 誠司は、完全に覚醒剤に溺れていた。初めは、死体の処理はシラフでは出来ない……という思いから薬を買ったのだ。しかし、今の誠司は違う。薬物のもたらす偽りの幸福感を得るため、覚醒剤を買うようになっていた。

 やがて家に到着すると、そっとドアを開け中に入っていった。

 

 その時、浩市は熟睡していた。したがって、誠司の動きには全く気づいていなかった。

 しかし、起きていた者もいた。理恵子である。彼女は、誠司が家を抜け出した事実を把握していたのだ。


 ・・・


 同じ頃、一台のトラックが国道を走っていた。

 ドライバーにとって、いつもと同じ一日である。物流倉庫に行き、トラックに積まれた荷物を届ける。時刻は既に翌日となっていたが、これまたいつものことである。

 だが、いつもとは違う事態が待ち受けていた。


 始まりは、偶然の出来事だった。

 ドライバーの目線が、前方からフッと逸れた。彼には悪い癖があり、運転中によくスマホをいじっていたのである。今もまた、スマホの方に視線が移ってしまった。

 その時、弾みでクラクションを鳴らしてしまったのだ。

 マズいと思い、前を見た。こういう時、下手をすると煽り運転とみなされ他のドライバーと揉めることもあるのだ。

 幸いなことに、他の車は走っていなかった。ホッとした瞬間、とんでもないことが起きる。

 トラックが、いきなり横倒しになったのだ──




 その時、怪物は陸地に上がっていた。地面を歩き、周辺をじっくりと観察している。彼の行動範囲は、さらに広がっていた。今では、森の中を歩き回るくらいになっていたのだ。

 トラックが走っていくのが見えた。大きい。自分よりも、遥かに大きな体をしている。前から思っていたが、奴は強いのだろうか。

 もっとも、怪物はトラックと戦おうなどという気持ちはなかった。通り過ぎるトラックを、離れた位置から眺めるだけのつもりだった。

 ところが、そこでクラクションが鳴る。その音は、怪物を不快にさせた。

 次の瞬間、体が動いていた。怪物は、トラックめがけて走り出す。その走るスピードは、どの生物よりも速い。陸上最速といわれているチーターですら、今の怪物には追いつけないだろう。

 凄まじい速さでトラックに追いつくと、両手で思い切り押した。

 途端に、トラックは横転する。爆発でもしたかのような轟音とともに、車は横に倒れた。

 怪物はというと、あまりにも簡単に倒れてしまったことに戸惑いを感じていた。以前より、トラックが奇怪な音を鳴らしながら通る姿を、遠くから見ていたのだ。

 昔は、こんな巨大なものには勝てないだろうと思っていた。今でも、絶対に勝てるという自信があったわけではない。ただ、間近で聞いたクラクションの音はあまりにも不快だった。そのため、反射的に飛びかかってしまったのである。

 ところが、あまりにも呆気なく倒れてしまった。しかも、起き上がる気配がない。

 こいつは、倒れたら起き上がれないのか。


 なんと弱い生き物なのだろうか。

 今までは、その体の大きさゆえに遠くから見ているだけだった。勝てるとなど、思っていなかった。

 しかし、このザマはなんだ。まるで陸に上がった魚のように、地面でジタバタもがいているだけだ。

 今まで、こんな奴を恐れていたのか。


 怪物の裡に、奇妙な感情が湧き上がってくる。その感情の赴くままに、腕を叩きつけた。

 硬い。石や岩よりも硬い外皮をしている。だが、怪物は攻撃を止めなかった。硬い鉄板を、力まかせに引き剥がす。鉄片を軽々とぶん投げ、さらに破壊を繰り返す。

 と、中から美味そうな匂いが漂ってきた。あいつが前にくれた、小さいが美味しかったもの。それと似た匂いがする。

 実のところ、トラックには大量の菓子が積まれていたのだ。もちろん、怪物はそんな事情など知るはずもない。

 彼にあるのは、ここに大量の食べ物があるということだけだ。怪物は手を伸ばし、ダンボール箱を引き裂きビニールを剥がした。中身を取り出し、むさぼり食らう。

 積んであった大量の菓子は、全て怪物の胃袋へと消えてしまった。同時に、怪物の怒りの感情も少しずつ引いていく。

 満ち足りた気分で、怪物はその場を離れていく。その様子を、じっと見ていた人間がいたこともわかっていたが、今さらどうでも良かった。菓子の方が、人間より美味い。しかも、今は満腹している。もはや、人間を殺す理由などなかった。




 トラックが倒された時、運転していたドライバーは、運良く無傷で済んでいた。彼は、そっと運転席から這い出る。

 僅か数メートル先には、信じられない光景があった。見たこともない生物が、トラックを力まかせに破壊しているのだ。

 気がつくと、ドライバーはスマホを手にしていた。震える手で、怪物の動向を撮影する。見つかったら、一撃で殺されることはわかっていた。にもかかわらず、スマホをかざし続けたのだ。


 数分後、怪物の存在は、大勢の人間の知るところとなった。トラックを破壊している映像が、ネットにて流されたのである。

 怪物が暴れる映像だけならば「フェイク」の一言で済ませることも出来ただろう。しかし、トラック横転事故の映像は他のメディアでも放送していた。初めは単なる事故の扱いだったが、トラックの状態が普通ではないのだ。まさに、怪獣に壊されたような様である。

 しかも、ネットでは怪物が暴れている映像が流れていた。ドライバーが撮ったものだという。疑り深いマスコミも、これは本物だと判断せざるを得なかった。



 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ