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オロカナルイキモノタチ  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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18/33

シマツ

 翌日、浩市は普段と同じように店を開けた。

 本当ならば、今日は何もせず家で寝ていたい。しかし、そういうわけにもいかなかった。常連である田山や、用もないのに毎日顔を出す駐在の中里は、店が開いていなければ怪しむだろう。下手をすると、家まで押しかけて来るかもしれないのだ。

 高田の死体は、昨日のうちに冷凍庫へと運んでおいた。彼の乗っていたバイクもまた、森の中に隠してある。あとは、誠司が死体を始末するだけだ。

 その誠司は、部屋で眠り続けている。あいつが死体を始末してくれればいいのだが、それは期待できそうもない。


(もし誠司くんが死体を始末できないようなら、その時は三人でやるしかないよ)


 理恵子の言葉を思い出す。誠司には、今週中に始末しろと伝えた。もっとも今週は、あと二日で終わりである。その間に、弟が片付けてくれるだろうか。

 もし、誠司がやれなかったら……その時は、三人で父と高田の死体を始末するしかないのだ。厨房にて、浩市と理恵子と誠司が肉切り包丁やノコギリなどを用いて、ふたりの死体をバラバラにしていく……。

 映像を想像しただけで、頭が痛くなってきた。




 昼過ぎ、いつも通りに田山が現れた。カウンター席に座るなり、浩市にそっと聞いてきた。


「旅行者は来てないな?」


「いえ、見てないですね」


「そうか」


 言った後、田山は浩市の顔を見つめる。いつもなら、ミックスフライ定食を頼むところだ。

 しかし、田山の口から出たのほ想定外の言葉だった。


「何かあったのか?」


 ドキリとなったが、平静を装い答える。


「へっ? いえ、何もありませんよ」


「嘘つくな。お前の顔見ればわかるよ」


 そんなことを言いながら、田山はスマホを取り出した。操作しつつ、なおも語り続ける。


「なあ、何があったんだろ? 言ってみろよ。言えば、楽になるかもしれねえぞ」


「いえ、大丈夫です。あなたに迷惑かかるようなことにはなりませんから」


 そう答えると、田山はスマホから視線を外した。浩市の顔を、じろりと睨む。

 だが、それは一瞬だった。


「そうか。そういうことならいい。とりあえず、ミックスフライ定食を頼む」


 田山は、急に興味をなくしたらしい。普段通りに注文すると、再びスマホへと視線を移す。浩市はというと、ホッとした表情で厨房へと入って行った。


「大丈夫? 何だったら、あたしが相手するよ」


 厨房にいた理恵子が、心配そうな顔で聞いてきた。だが、浩市はかぶりを振る。


「はっきり言って大丈夫じゃないが、あいつの相手くらいは出来るよ。理恵子さんは、しばらく休んでてくれ。誠司の相手を、丸二日もしてくれたんだから」


 その言葉に、理恵子は苦笑しつつ頷いた。

 

「わかった。じゃあ、任せるよ」


 ・・・


 誠司は、むっくりと起きた。

 時計を見れば、午前二時だ。異様な目つきで立ち上がると、暗い家の中を音も立てず進んでいった。

 そっと扉を開け、ジャージのまま外に出ていく。浩市も理恵子は、連日の疲れにより熟睡していた。そのため、弟の動きには全く気づいていなかった。




 外は、完全な暗闇である。一寸先すら、よく見えない状態だ。

 そんな中を、誠司は進んでいく。店に到着すると、勝手口から厨房へと入っていった。業務用の冷凍庫を開けると、ふたりの死体が入っている。父の健人、そして旧友の高田だ。大きな袋に入れられ、どんな状態なのか全く見えない。しかし、彼らの死体が入っているのは間違いなかった。

 冷凍庫から、両方の死体を引きずり出した。痩せこけており、しかも昨日まで覚醒剤を打ち続けてボロボロの体だ。非常にキツい。これだけで、もう限界を迎えていた。厨房の床に座り込み、汗を拭く。

 しかし、これで終わりではない。ここからが本番なのだ。今から、死体を始末しなくてはならない。覚醒剤をやったのも、元はといえば死体を始末するためだった。これからすることは、シラフでは出来る自信がない。

 

 田山は言っていた。死体は、出来るだけ細かく切り刻んで湖に捨てろ……と。浩市も、誠司にそう伝えた。

 誠司も、初めはそうするつもりだった。しかし、今の彼は疲れている。疲労のため、脳も上手く働かない。覚醒剤のダメージは、未だ体と頭の両方に残されていた。

 もとより、この男は世の中全般を舐めている。厄介なことや面倒くさいことは、放っておけば誰かが何とかしてくれるだろう……そんな考えで、これまで生きてきた。しかし、今は誰もいない。自分ひとりで、何とかするしかないのだ。

 しばらく休んでいたが、誠司は意を決して立ち上がった。解体のため、まずは袋を剥ぎ取る。

 だが、あらわになった父の顔を見た瞬間、誠司は我慢できなくなった。再び床に這いつくばり、胃の中のものを吐いてしまう。死体となった父の顔は、あまりにも異様だ。しかも、これから切り刻んで湖に捨てなくてはならない。

 兄の指示を思い出した。出来るだけ細かく切り刻み、湖に捨てろと言われた。しかし、そんな恐ろしいことなど出来ない。想像しただけで吐いてしまった。

 かといって、このままにもしておけない。兄と約束したのだ。死体を、必ず始末すると……。


 誠司は、どうすればいいのか悩んだ。その場にうずくまったまま必死で考えたが、当然ながら何も浮かばない。

 その間にも、死体は徐々に溶けていく。夏の暑さは、容赦なく彼らを襲う。床には、いつの間にか水たまりが出来ていた。言うまでもなく、死体から流れ出た水と体液によるものだ。あと数分もすれば、我慢できない匂いを発するだろう。

 やがて、誠司は立ち上がった。こうなったら、今やれることをやるしかない。死体の足首を掴み、無理やり引きずって行く。

 目指すは、厨房から十メートルほど離れた位置にあるボート乗り場だ。桟橋は木の板によって作られており、ボートがロープで繋がれている。幼い頃は、そこからボートに乗ったこともある。

 苦労しながらも、ようやくボート乗り場に到着した。桟橋から、死体を蹴飛ばす。すると、ドボーンという音とともに湖の底へと沈んで行った。

 もう、これでいい。高田の方も、こうすればいいだろう。誠司はそんなことを考えながら、再び厨房に戻る。父の死体を湖に蹴り落としたことに対しては、何の感情も湧いていなかった。ただただ、早く終わらせたいという思いしかなかった。

 次は、高田の番だ。厨房から運び、ボート乗り場へと引きずっていく。桟橋にて、荒い息を吐きながら奴の顔を見下ろした。

 高田和夫……同じ小学校に通い、中学校も同じだった。中学生の時は仲が良く、一緒に悪さをした記憶もある。だが中学を出てからは、ほとんど会わなくなっていた。最後に会ったのがいつなのか、それすら覚えていない。そんな奴が、自分に何の用があったのだろう。

 いや、そんなことはどうでもいい。この男は、結局のところ疫病神でしかなかった。呼びもしないのに現れ、不安な状態にある家族をさらにかき乱していった。

 そう、高田のせいで自分はこんなことをしなくてはならなくなったのだ。


「ざけんじゃねえぞ!」


 喚きながら、湖に蹴り落とす。これまた、ドボーンという音とともに沈んでいった。

 大丈夫だ。これで何とかなる。後は、汚した厨房を掃除すれば終わりだ。誠司は自身に言い聞かせ、よろよろしながら歩いていく。

 厨房の床を掃除した後、誠司には動く気力が残っていなかった。そのまま、床に倒れてしまう。いびきをかいて眠っていた。




 誠司の、この行動は間違っていた。

 ふたりの死体は、一度は湖に沈むだろう。運が良ければ、そのまま魚や蟹などの水棲生物に、欠片も残さず食べられてしまう。だが、その前に死体が浮かんでくるかもしれない。体の一部が、浮かんできてしまう可能性も低くない。それを、誰かに発見されたら終わりである。

 だからこそ、念には念を入れる必要があるのだ。死体は細かく切り刻み、原型を残さずに湖へ捨てる。裏社会で生きてきた田山の指示は、完璧なものだった。ところが、誠司は死体をそのまま捨ててしまった。


 この行動は、後に全く想定外の事態をもたらしてしまう。それは、まさに天災としかいいようのないものであった。彼にとっては、死体の一部が浮かんできた挙げ句に逮捕されていた方が、よっぽどマシであっただろう。

 

 









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