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オロカナルイキモノタチ  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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ダイソウドウ

 家の中には、異様な空気が漂っていた。

 居間にて、浩市が畳の上に座っている。彼の前には、高田がいた。同じく畳の上に、あぐらをかき座っている。

 両者は、ちゃぶ台を挟み対峙していた。高田の顔には、いつもと違う表情が浮かんでいる。新しい玩具を見つけた子供のごとき目で、浩市を見つめていた。

 浩市の方はというと、苦虫を噛み潰したような顔で座っている。彼の横には、理恵子と誠司が座っていた。理恵子は冷静な目で成り行きを見守るスタンスのようだ。しかし、誠司は違う。血走った目で、高田を睨みつけている。誠司と高田は幼なじみのはずなのだが、ふたりとも先ほどから一言も交わしていない。


 


 口火を切ったのは、高田からだった。


「お兄さん、あれ何なんですか?」


「何って言われても……俺だって、わからねえよ」


 浩市には、そうとしか言えなかった。実際、あれが何なのか彼にわかるはずもない。

 普段は湖の中にいて、力は凄まじく強く知能も高い。しかも、意外とおとなしくコミュニケーション能力もあるということだ。

 そして、これまで発見されたことのない生物ということ──


「あれは、世紀の大発見ですよ! 動画に撮りましょう!」


 叫ぶ高田に向かい、浩市はかぶりを振った。


「駄目だ」


「はあ? 何で駄目なんですか!?」


「いいか、世間の人があいつの存在を知ったらどうなる? いろんな連中が、ここに押し寄せてくるんだ。そしたら、あいつは捕らえられちまう。挙げ句、体のあちこちを切り刻まれたり、おかしな実験の材料にされるかもしれないんだ」


 浩市は、咄嗟に思い付いたことをペラペラと喋る。言うまでもなく、彼はそんなことを心配しているわけではない。

 しかし、本当の理由をこの男に言うことは出来ないのだ。


「いや、そんなこと関係ないですよ! あれをネットで公表したら、バズるなんてもんじゃないですから! 俺らみんな、あっという間に有名人ですよ! インフルエンサーの仲間入り出来るんですから!」


 対する高田の目には、異様な輝きがある。この男にとって、怪物の発見は一世一代のチャンスらしい。

 しかし、浩市の態度は変わらなかった。


「俺は、そんなもんになりたくねえ。ここで静かに暮らしてえんだ」


「冗談じゃないっスよ! 俺は、こんな村で終わりたくないですから! せっかくのチャンスを無駄に出来ないっスから! 一緒にやりましょうよ! 協力してくれる人間もいるんですから!」


 なおも熱く語る高田だったが、ここで立ち上がった者がいた。


「てめえ、いい加減にしろ!」


 誠司だ。怒鳴った後、いきなり飛び上がった。ちゃぶ台を飛び越え、高田に蹴りを食らわす──

 完全に不意を突かれた高田は、その飛び蹴りをまともに食らった。顔面に足が当たり、座った体勢から仰向けに倒れる。しかし、誠司の暴走は止まらない。倒れた高田の顔面を踏みつけた──


「何なんだ何なんだ何なんだよう! てめえはクソ忙しい時にやって来て、ベラベラベラベラ勝手なことばかり言いやがって! てめえのせいで、こっちがどれだけ迷惑してるかわかんねえのか!」


 喚きながら、高田の体を滅茶苦茶に踏みつける。先ほどまでは、おとなしく呆けたような表情で座っていたのに、いきなりテンションが変わったのだ。今では、ホラー映画の殺人鬼のごとき勢いで暴れている……。

 予想外の凶行に、さすがの浩市も呆然となっていた。いったい何が起きているのか。誠司は何を考えているんだ。

 こいつは、悪魔にでも取り憑かれちまったのか……。


「浩市! 止めて!」


 理恵子の声に、浩市はハッとなる。このままでは、本当に殺してしまう。


「誠司! いい加減にしろ!」


 声と同時に、体ごとぶつかっていった。痩せている誠司は、浩市の体当たりに耐えられず転倒する。

 浩市は、そのまま馬乗りの体勢で押さえ込んだ。その時、衝撃的な言葉が飛び込んでくる──


「ヤバいよ……死んでるかもしれない」


 言ったのは理恵子だ。彼女はしゃがみ込むと、高田の胸に耳を当てている。


「う、嘘だろ」


 浩市の声は震えていた。間違いであって欲しい。この状況で、二人目の死人が出たら……本当に悪魔に取り憑かれているとしか思えない。なんという人生だろうか。浩市は、心の中で神に祈った。頼むから、高田を死なせないでくれ……。

 しかし、神は彼のために奇跡を起こす気はなかったようだ。理恵子は顔を上げ、かぶりを振った。


「心臓が停まってる。脈もない。死んでるよ……」


 聞いた瞬間、浩市は顔を動かした。誠司を睨みつける。この男は、どこまで周囲に迷惑をかけるのだろうか。

 その迷惑な弟はというと、虚ろな表情を浮かべていた。心なしか、眠そうにも見える。先ほどの凶行が嘘のようだ。

 浩市の体が震えだした。無論、怒りによるものだ。弟は、自分のしでかしたことの重大さをわかっていないらしい。


「クソがぁ! てめえ何考えてんだ! これで二人目だぞ! てめえは、ふたりも殺しちまったんだ!」


 馬乗りの体勢のまま怒鳴りつけると、誠司は目を逸らし口を開いた。


「そ、そんなあ……」


 弱々しい声だ。その声は、浩市の怒りをさらに増幅させる──


「そんなあ、じゃねえんだよ! どうすんだコラ!」


 喚きながら、拳を振り上げる。だが、理恵子にその腕を掴まれた。直後に彼女は、今にも泣きそうな顔で怒鳴りつける。


「んなこと言い合ってる場合じゃないでしょ! これからどうすんの!?」


 その言葉で、浩市の動きは止まった。荒い息を吐きながら、誠司の顔を見下ろす。ようやく頭が冷静に働き出した。理恵子の言う通りだ。今、弟を殴っても何もならない。

 浩市は立ち上がった。誠司に向かい口を開く。


「仕方ねえ。誠司、ふたりの死体を始末しろ」


「えっ、俺がやるの?」


 聞き返す誠司の口調は、寝ぼけているかのようだった。

 浩市の中に、再び怒りが湧き上ってきた。だが、その怒りを抑え冷静な口調で答える。


「当たり前だろうが。他に誰がいるんだよ」


「で、でも……」


 言いながら、誠司は顔をしかめる。まるで、子供がお使いを渋っているかのような態度だ。

 その様子に、浩市は怒りを抑えられなくなった。


「いいか! お前は、ふたりの人間を殺しちまったんだぞ! 死体を始末するしかねえだろうが! 死体を始末するか、警察に自首するか、好きな方を選べ!」


「わ、わかった。死体を始末するよ」


「いいか、今週中に片付けろ!」


 なおも怒鳴りつけた時、浩市は異変に気づいた。誠司の目が、いつの間にか閉じているのだ。


「おい、聞いてんのか?」


 聞いたが、誠司は答えない。完全に無視し目を閉じている。何を考えているのか。

 その時、理恵子が口を開く。


「無駄だよ。誠司くんは、切れ目を迎えた」


「切れ目? どういう意味だ?」


「シャブの切れ目。誠司くんは、シャブをやってた。その効果で、二日くらい寝てないと思う。しかも、さっきは無茶苦茶に暴れて……もろもろの疲れが、今になって出たんだよ。仕方ないから、寝かせておこう」


 理恵子の話を聞いていて、浩市は思わずその場に座り込んでいた。

 この話が本当だとするなら、誠司は丸二日の間、寝ないで部屋に閉じこもっていたことになる。いったい、部屋で何をやっていたのか。

 しかも、部屋から出てきたと思ったら、高田を殺してしまったのだ。


「何をやってんだ、このバカは……」


「さっきの異常な凶暴さも、シャブが原因。シャブやってる奴は、感情がいきなりレッドゾーンに達しちゃうんだよ。何気ない一言で、ブチギレて人を刺したりするんだ」


 静かな口調で、説明する理恵子。この状況で、彼女だけは冷静だった。


「クソ! こんな時にシャブやるなんてよ! 何でこうなるんだ!? 俺が何をしたって言うんだよ!?」 

 

 浩市の方は、喚きながら立ち上がる。喚きながら、壁に思い切り蹴りを入れた。なぜ、こんなことになっているのだろう。

 想定外の事態が、次から次へと起きている。それらが重なっていき、手のつけられない大きさになってしまった。

 しかも、それをやらかした当の本人は、シャブをやった挙げ句に目の前で眠っている。あまりにも理不尽だ。

 感情のほとばしるまま、今度は誠司を見下ろす。呑気に寝ていやがって……と、さらなる怒りが湧いてきた時だった。理恵子が、そっと浩市の背中に触れる。


「ひどい状況だけどさ、ヤケになっても始まらないよ。まずは、誠司くんに任せてみよう。もし誠司くんが死体を始末できないようなら、その時は三人でやるしかないよ」


 静かな声だった。お陰で、浩市は冷静さを取り戻す。

 理恵子の言う通りだ。ここで誠司を殴っても、何にもならない。まずは、この状況を何とかしなくては……。


「まったく、理恵子さんのお陰で本当に助かった。理恵子さんがいてくれなかったら、俺たち今頃パクられてたか、殺し合ってたよ」


 そんなことを言いながら、彼女の方を向く。その時、あることに気づき愕然となった。

 理恵子は、こんな異常な状態の誠司と二日間、同じ屋根の下で暮らしていたのだ。ずっと部屋に籠もり、何をしているかわからない男がすぐ近くにいる状態で生活をしていた。

 しかも、理恵子にはシャブの怖さを知っている。誠司がシャブをやっていることにも気づいていた。気分次第で、いきなり襲いかかってくるかもしれない……その恐怖は、いかほどのものだっただろう。

 浩市ならば、襲われても腕力でねじ伏せる自信がある。しかし、理恵子は違うのだ。

 思わず、理恵子を抱きしめていた──


「ごめんよ。あんなイカレ野郎と、二日も同じ家にいたんだよな。本当にごめん。クソ、俺は大バカだ。何にもわかってなかった」


「大変だったんだからね……」


 そっと囁く理恵子に、浩市は頷く。


「もう、あいつの世話はしなくていい。俺も、この件が片付いたら誠司とは縁を切る。ふたりで、もう少しマシな暮らしをしよう」 







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