063 天使が向かう先
翌朝になり、僕は飛行竜の乗合場がある港へと向かった。そこで受付を済ませ、初めての竜に搭乗した。
飛行機じゃないから搭乗って言い方が合ってるのかは分からないけど。
受付のお姉さんの話だと、ガイアまでは飛行竜でも二日は掛かるらしい。
確かにかなり遠くの街まで来たし、無理もないけど。
それに、思ったよりもお高い。僕、毎回ギルドのフリークエストやって日銭を稼ぎながら旅してたから、そんなに持ってないんだよね。大きなお金って持ってるだけでちょっと怖いし。
僕、まだ中学生だからバイトも出来ないし、お年玉とかじゃないと諭吉さんを手にする機会はないし。
途中の街で降りて、そこからまたクエストで稼ぐかシルフで行くか。どうしようかな。
そこまで急ぎではないけど、出来れば早く行きたい。さすがに二日は長いし、今日は飛行竜。明日はシルフで飛んでいくってのも有りかな。さすがに二日も掛かるような距離をシルフで飛ぶと僕の魔力が保つかどうか。
「あ、そろそろ飛ぶのかな」
「みゅっ!」
アナウンスが流れ、飛行竜が翼をゆっくりと動かした。
飛行竜は想像以上に大きくて、本当に飛行機みたいだ。人が落ちないように魔法で結界が張ってあるみたいで、不安定に見える竜の背中でも快適なんだとか。
ゆっくり、ゆっくりとドラゴンは宙を浮いていく。
その結界のおかげなのか、ゲームの中だからなのか飛行機みたいに耳が痛くなったりはしない。
「う、わぁ!! 凄い、空の上だー!」
「みゅう!」
空からこの世界を見るのは初めてだ。
四年もいるのに、まだまだ初めてのことがいっぱいある。
楽しいこと、きっとたくさんあるんだろうな。
「ねぇ、ミヤ。マナさんに会ったら何話そうか」
「みゅ、みゅう!」
「そうだね。ラウダ・ドーラの街は確かに面白かったね」
「みゅう」
「港であったフェザーさん、カッコ良かったよね。ああいうのが、海の男ってやつなのかな」
「みゅみゅう! みゅ、みゅっ!」
「うん。途中でシグさんにも会えたよね。旅のことや魔法のことも色々教えてもらったね」
ステータスのこととかよく分からないけど、四年前より少しはレベルも上がってるのかな。
数字とか何をどう見ればいいのか分からないから、全然見てないけど。
「マナさん……僕のこと、覚えてるかな」
もしかしたら、忘れられてるかな。
マナさん。一緒にいた期間は短かったけど、この世界で初めて会ったプレイヤーさん。
かっこよくて、強くて、優しい人。
「……みゅっ」
「ん? どうしたの、ミヤ」
「みゅう!! みゅ、みゅみゅう!!」
「――え?」
ミヤの言葉に、僕の心臓が大きく跳ねた。
「ミヤ、どこから感じる?」
「みゅぅ!」
ミヤの指差す方向。
それは、飛行竜の向かう方向と同じ。
それって、つまり。
ガイアに、帰ってる。
「――来よ。我と契約を結びし精霊、大いなる風で僕を導いて! シルフ!!」
飛行竜の上だということも忘れ、僕は召喚魔法でシルフを喚び出した。
シルフは僕とミヤの体を包み込み、結界を貫いて一気に空を飛んだ。
早く。早く、速く。
疾風の如く。
ガイアへ。
ううん、マナさんの元へ……!
余談であるが、このとき飛行竜に乗っていた乗客は皆、口を揃えってこう言った。
天使が、飛んでいったと。
USER NAME/片岡春臣
LOGIN NAME/ハル
SEX/女?
PARTNER/ミヤ
LOGIN TIME/35103:48:12




