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無気力姫エルフィリアは敵国で快適に暮らしたい  作者: 如月あい


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12/14

11.お披露目パーティの準備は大変です

 朝日が差し込む時間になると、エルフィリアは自然と目が覚める。

 今日寝ているのは、ソファではなく、ベッドだ。


 アレンの圧力のおかげか、思ったより早く寝室の暖炉は修繕されて、寝室で眠れることになったのだ。ただし、正直にいって、ベッドのほうが暖炉には遠いので、ちょっと寒い。


 だから毎朝、エルフィリアは日の光が差し込むと、眩しさと寒さで目が覚めるのが日課になっていた。


「おはようございます。エルフィリア様」


 聞き心地のよい声で挨拶されてわかった。今日の夜番担当だったのは、マルナだ。

 エルフィリアが起き上がると、すぐにローブを差し出してくれた。生地は厚めだが夜着だけではやはり寒い。

 ありがたくローブを羽織り、エルフィリアはメインの居室に移動することにした。部屋を出る前に、ついでに寝室をさくっと浄化しておくことも忘れない。


「お見事な浄化ですが、人数も増えましたから、エルフィリア様が浄化をなさる必要はないのでは?」

「いずれにせよ人員は少ないんだから、効率化できるところは効率化したほうがいいわ。大した手間じゃないしね」


 歩きながら小言を言われるが、エルフィリアはさらりとそれを流して、通った廊下と空いていた衣装室の浄化もついでに行った。

 マルナは咎めるような視線をよこしてきたが、それに気づかないふりをして、メインの居室の暖炉前のロッキングチェアに腰掛けた。


 この部屋は冷めないように、夜通し火をつけているので、日中に火が絶えている寝室よりも暖かい。 

 

「こちらをどうぞ」


 エルフィリアが起きる前にお湯を沸かしていたのか、流れるように差し出された熱々の紅茶を、ありがたく受け取った。


 舌を火傷しないように、息を吐いて冷ましながら、カップを傾ける。

 熱い紅茶が口内と喉をつたって体の奥に流れ込んでいくと、体全体に熱が伝わっていくような気持ちになれた。


「御髪を梳かしても?」

「いいけど……ミラの代替教師が見つかってないんじゃ、今日も引きこもり生活よ?」

「いついかなるときも準備しておかねば」

「真面目ね」



 禁書庫の閉じ込め事件から3日経った。

 結局、部屋に戻ってもミラが本当はどんな計画を立てていたかは、リオネッタもミーナも教えてくれなかった。

 彼女たちは尋問の場に居合わせたように見えたが、口止めされているのだろう。


 そしてエルフィリアは、ここぞとばかりに引きこもることにした。

 やることを与えられていないのに精力的に動くのは目立ってしまう。


 目立たないことこそ、波風立たないので細々と生きていくコツだ。

 

 だから正直に言ってマルナが身支度をしてくれたとしても、これを活かせる機会はないと思っている。

 どうせ部屋でゴロゴロするだけなのだから。


 しかしそんな気持ちとは裏腹に、マルナが手際良く髪をすき、編み込んでまとめていく。

 

 おおよそ髪を編み込み終わって、髪飾りをつけるかどうかぐらいのところまで終わったところで、リオネッタとミーナが朝食のワゴンと共にやってきた。

 セリアはまだやってきていないが、そのうち来るだろう。


「「おはようございます。エルフィリア様」」


 2人の声が揃った。


「おはよう。リオネッタ、ミーナ」


 挨拶もそこそこに、朝食がテーブルに並べられていく。エルフィリアはギリギリまで暖炉の前で暖まったあと、テーブルに移動した。


 アレンに釘を刺されたからなのか、アレンと会った後から全ての食事がやたらと豪華になった。

 こんなに食べきれないから減らしていいと伝えたのだが、痩せすぎだから食べろというのがアレンの言葉らしい。


 それに、初日にエルフィリアがそれなりに身を切って食事を下げ渡したことで、感銘を受けたらしい料理人たちが、エルフィリアのためにあれやこれやとはりきって、作ってくれているのだというのも聞いた。


 エルフィリアの下心ありきの懐柔策は、思ったより効果があったようだ。

 エルフィリアとしては、少しでもこの国で快適に暮らそうと思ってやっただけなので、あまり良くしてもらいすぎると申し訳ない気持ちになってしまう。


 手の込んだ朝食をありがたくいただきながら、リオネッタに念のため今日の予定を尋ねた。


「今日は何か予定はあるの?」

「本日は、王妃陛下と王太子殿下とともにお披露目用のドレスを選ぶご予定が入っています」

「お披露目? ドレス?」


 どちらも身に覚えのない話で驚いていると、リオネッタが続けた。


「エルフィリア様を正式に王太子殿下の婚約者だと知らしめるために、お披露目の夜会を開くそうです。エルフィリア様のお立場を知らしめて、不届きものを減らそうという、お二人の配慮かと」

「お披露目……その、夜会って、ダンスもするの?」

「はい。おそらくエルフィリア様は王太子殿下と、この前お会いしたカイゼル殿下とのみ踊ることになると思われます」


 国内の統制が取れていないから、エルフィリアを誰とでも躍らせるわけにはいかないということだろうか。

 しかしそんなことよりも、エルフィリアには困ったことがあった。


 ーーーお母さまが亡くなって以来、ダンスは授業すら受けてないのよね……。8年まえの知識でなんとかなるかしら。


 ダンスに不安があるので、踊る人数が少ないのは良い。しかし、アレンに練習相手になってもらうのは難しいであろうし、だからといってカイゼルを呼び出すわけにもいかない。

 かといって、自力で練習するのは限度がありそうだ。

 そもそも母から教わったダンスが、ヴァルデンでも同じ形式のものなのかすら怪しいのだ。

 

 ーーー誰か運動神経のよさそうな人なら、練習相手になってくれるかしら……。セリアなら背も高いし、彼女が男性パートを踊れたら練習相手にはよさそうだけれど……。


「何かお困りのことがおありですか?」


 エルフィリアの表情が曇ったのを見て、リオネッタがすかさず問いかけてきた。お困りのことはあるが、ダンスも踊れない王女だなんて、なんと思われるだろうか。

 誰かに練習を頼むのであれば、どうせ露見してしまうことだ。今、この場で言ってもよいかもしれない。

 あるいは、一人でぎりぎりまで練習してから言った方がよいだろうか。


 そんな風に悩んでいると、リオネッタが、すっと顔を近づけてきた。相変わらず無表情だが、その表情から圧が感じられる。

 つまり、抱え込むな、ということだろうか。


「私……あまりダンスに自信がないの。練習したいから、先生をつけてもらえないかしら? ミラのことがあった後で、難しいかもしれないけれど……」

「承知いたしました。ダンスの練習ぐらいでしたら、問題ございません」


 思ったよりも簡単に承諾されて、拍子抜けした。

 しかし、よく考えてみると、ダンスを教えられる人間は、未来の王太子妃に教養を教えられる人間よりも数が多いだろうから、一人ぐらいは適任がいるのかもしれない。


「えっと……それで、王妃陛下と王太子殿下とドレスを選ぶというのは?」

「エルフィリア様のドレス選びにお二人も参加されるとのことです。もう少し正確に申し上げれば、エルフィリア様のドレスを軸にして、両陛下と王太子殿下の装いを作らせるのだとか。王家の庇護を明確にする、という意図でございましょう」


 思っていたよりもヴァルデン王家は人が良いようだ。

 わざわざエルフィリアの立場を固めずとも、王家に困ることはないだろうに、そこまでしてくれるとは。

 ただ、アレンは氷の王太子と言われているが、思ったよりも面倒見がよさそうだったし、王妃もドレスをくれたりと親切な印象がある。


 嫌がらせをする人間は完全には減らせないものの、ヴァルデン王家としては、一応、和平の証でもあるこの婚姻を尊重する姿勢を見せるべきというスタンスなのかもしれない。


「マルナに髪をまとめてもらってよかったわ。あとは着替えてちょっとアクセサリーをつければなんとかなるわね」

「はい。ですからいつ何時でも準備は重要なのです」


 さきほどの忠告が活きたのがうれしかったのか、マルナは少しだけ得意げな様子で胸を張ってそういったのだった。



 そうして朝食を食べ終わったエルフィリアは、着替えとメイクをして、手持ちのアクセサリー2つを総動員させて、なんとか王女としての体面を保つことに成功した。

 前回、王妃とのお茶会をした時と同じ髪飾りとイヤリングだが、ない袖は振れない。

 

 準備の終わったエルフィリアは、迎えに来てくれたセリアとリオネッタに案内され、広い城を歩いて目的地に向かった。


 案内された部屋は、ダンスができそうな広さのある大部屋だった。自分の顔が映りそうなほどピカピカに磨かれた大理石の床が輝いている。

 そして広い大部屋には、ずらりとドレスを着せられたトルソーが並べられ、試着の時に使うのか、布の張られた背の高い衝立が端に並べてあった。


 ドレスのそばにはデザイナーなのかお針子なのか商人なのかわからないが、5人ぐらいがそろって何かを確認していて、エルフィリアの入室とともに挨拶をしてくれたので、エルフィリアも挨拶を返しておく。


 部屋の奥には豪華な3人ぐらい座れそうなソファが半円を描くようにして3つ並べてある。

 まだ王妃と王太子は来ていないようなので、エルフィリアはソファの端に座らせてもらうことにした。

 

 ソファに座るまでの間に並べられているものを観察していたが、ワゴンにはアクセサリーも大量に並べられていたので、どうやら今日の衣装選びでは、アクセサリーも一緒に選ぶことになりそうだ。

 王妃にプレゼントしたことで、髪飾りとイヤリングしかまともにつけられそうないエルフィリアとしては、助かった。


 そうして、エルフィリアがソファに腰かけたところで、さきほど簡単にあいさつしたうちの一人が、スケッチブックを片手にそばにやってきて、改めて自己紹介をした。


「お初にお目にかかります、エルフィリア王女殿下。王室専門デザイナーのマルグレーテと申します」


 デザイナーらしいと言ってよいかわからないが、マルグレーテのドレスはデザインが斬新だった。華美というわけではないものシンプルですっきりしながらも、深く入ったスリットで歩くと動きがでるデザインだ。


「初めまして。エルフィリアよ。私はあまりヴァルデンの流行りに詳しくないから、アドバイスをもらえると嬉しいわ」

「おまかせくださいませ。エルフィリア殿下のお美しい姿を見ていたら、わたくし、インスピレーションが沸いてきましたの!」


 彼女はスケッチブックを開くと、何やらすごい勢いでスケッチを始めた。ドレスのラフ案だろうか。あまりそういう現場をみたことがなかったエルフィリアは、興味津々で彼女の手元を観察してしまう。


「殿下はお好みのデザインがおありですか?」

 

 彼女はスケッチの手を止めて一度振り返ると、彼女の助手らしき女性が小走りでやってきて、分厚いノートを何冊も目の前で広げてくれた。

 どうやらこれがデザイン案のラフがたくさん載っているもののようだ。


「場にふさわしく、私にそれなりに似合えばなんでも……」

「まああ! なんて欲のないお方なんでしょう! ですが、淑女たるもの、受け身ではいけませんわ! これから王妃陛下と王太子殿下もいらっしゃるのですよ! エルフィリア殿下の意思がなければお二人の言いなりになってしまわれるでしょう!」


 エルフィリアとしては、二人の言いなりになってもまったくもって構わなかったが、そういうことは言える雰囲気ではない。

 マルグレーテは仕事熱心なタイプで、あまり差別意識もないのだろう。

 エルフィリアが着るものなのだから、エルフィリア自身の意見を反映させるべき、という見事なサービス精神を持っているようだ。


「ええっと……そうね……強いて言うなら、寒がりだから寒くないドレスの方が……」

「それはもちろんでございます。美しさだけで機能性が失われてはいけませんからね。大事な御身を冷やしてはいけませんから」

「そ、そうなの」


 レオナールのドレスは美しさもそこそこなくせに、機能性は皆無に等しかったので、何を選んでもあのドレスより劣ることはないだろう。

 しかし、機能的な要望ではダメということは、やはりデザインで選ぶ必要があるだろうか。


「ダンスの時に、機能性と美しさを損なわないのはどんなデザインなの?」

「こちらのドレスの前がくるぶし丈で、後ろが長めのデザインのものは、足捌きがよく、ダンスの時に美しく裾が広がって優雅に見えます」


 確かにドレスの前の丈が少し短ければ足捌きはよさそうだ。

 それにデザイン画のドレスはどれも美しい形だ。おすすめに従っておけば優雅に見えるに違いない。


「ではこの形がいいわ。あと、あまり露出しないような形がいいの。あまり肉付きもないから」


 エルフィリアは栄養失調気味で育ったので、全体的に薄い体だ。露出の高いドレスなど、重みでずれて落ちてくるに違いない。


「細身でいらっしゃいますから、軽い印象のドレスで軽やかな動きを表現するのもお似合いになりそうですわ!」


 印象だけでなく、物理的に軽いほうが助かるが、軽すぎると薄くて寒いかもしれない。

 

「ですが、先ほどから機能性ばかり気にしておられますわね……! もっと心が踊るような惹かれたデザインはございませんか?」


 心が踊るようなデザインと言われてデザイン画を見直すが、どれも素敵だなと思うが、それ以上の感想はない。ドレス選びを楽しめるような感性を養う機会がなかった。


 何を選んだら正解なのかは気になるが、自分の意思で選ぶということは、久しくやっていないから難しい。エルフィリアからしたら、どのドレスも素敵で、どれを着ても自分は満足できるだろう。


 どうしようかと思ってリオネッタに視線を送ると、リオネッタがすっと近づいてきた。

 

「お気に召すのがありませんか?」

「そ、そんなことないわ! どれも素敵よ。素敵だから選べないの」

「……なるほど。ではーーー」


 リオネッタが何かを言いかけたと同時に、部屋の扉が開かれて、王妃とアレンが2人で揃って入ってきた。

 2人は髪や目の色こそ違うが、こうして並んで入ってくると顔立ちが似ているし、2人とも高貴な雰囲気があるので場の空気が引き締まるようだ。


「「帝国の月と王太子殿下にご挨拶申し上げます」」


 エルフィリアもマルグレーテも立ち上がり揃って挨拶をした。

 2人は気にするなとばかりに頷くと、それぞれソファに陣取った。

 王妃陛下が真ん中に座り、意外なことに王太子はエルフィリアと同じソファに腰掛けた。相変わらず、王太子のまとう魔力が伝わってきて、ひんやりと冷たい。


 今日は暖かいドレスを着ているのでまだマシだが、ダンスのときは何か対策を考えた方が良さそうだ。


「本日は王太子殿下まで来ていただけるとは! ちょうど今、エルフィリア様のドレスの案をスケッチしていたのです!」

「希望は伝えたのか?」


 アレンに問われて、頷こうとしたエルフィリアだったが、マルグレーテとリオネッタが口々に言った。


「いえいえ! 奥ゆかしい方ですから、まだ機能面でのご要望しかいただけていないのですよ!」

「デザインに迷われているようですので、どうせなら一通り作らせてはどうかと提案しようと思っていました」


 マルグレーテの発言はともかくリオネッタはとんでもないことを言っていないだろうか。ここにある大量のデザインの一通りなど、考えたくもない量になってしまう。

 否定しなければと思ったら、王妃がリオネッタの言葉に同意した。


「良いわね。リオネッタからあなたの手持ちのドレスやアクセサリーについて聞いたけれど、ほとんど手持ちがないそうね? 王太子妃にふさわしいドレスの数を揃えるなら、一通りのドレスの形はあってもいいわ。アクセサリーも、私にこの瞳の色石のペンダントを贈ってくれたことで、いま身につけているものしかないとか?」

「まあ! それは由々しき自体ですわ! ドレスに会いそうな宝石もお持ちしましたが、専門店をお呼びになったほうがよいですわね」

「マルグレーテさんのお勧めを教えていただいたら、私の方で宝石は手配いたします」


 エルフィリアが口を挟む暇もなく、ドレスとアクセサリーの大量発注が決まってしまう。盛り上がる女性陣を止めてくれないかと隣のアレンをみると、アレンはじっとこちらを見つめた後、首を傾げて問いかけてきた。


「ドレスや宝石選びはそこまで得意ではないのか?」

「はい。お恥ずかしながら自国で引きこもっていたため、あまり機会がなく……」

「では、ある程度は私や母上、リオネッタが決めても?」


 それは願ったり叶ったりだ。どうせエルフィリアに適切なドレス選びなどできようもない。エルフィリアはこくこくと頷いた。


「決めていただけるなら、お願いしたいです。ただ、私はそこまで外出する訳でもありませんから、今回はとりあえずお披露目のものだけでも……」

「いや、無いのであれば作る必要はあるな。君の持ち物は足りなすぎる」


 アレンは味方してくれるかと思ったのに、スッパリと宣言されてしまった。女のドレスにお金をかけるなんて無駄だと思うタイプなのかと思ったが、そうでもないようだ。


「お、王太子殿下の心遣いだけで大丈夫です。デザイン一通りなんて作ったら、いったいどれだけの費用がかかるか……」

「王太子妃の予算は潤沢だ。君は率先して使う気がないようだからな」

「私はまだ厳密には王太子妃ではないのでは?」

「この国に足を踏み入れた瞬間から婚約者であり、王太子妃も同然だ」


 もっと、王太子妃としては認めない、というような感じなのかと思いきや、案外そうでもないようだ。もはや自国であるはずのレオナールにいるときより、よほど尊重され大切にされている。

 しかしこのまま言い負けてしまうと、エルフィリアが着こなしきれない量のドレスを作るハメになる。

 なんとかしなければ、と思っていると、隣にあるソファに座る王妃と目があった。

 そして王妃は唐突に言った。


「あなたたち……お披露目までに名前で呼び合うようにしなさい」

「お名前で……ですか?」

「お披露目するのは2人の関係が良好であることを知らしめるためよ」


 つまり、親しげに振る舞うひとつとして、名前で呼び合う必要があるということか。

 エルフィリアはアレンをちらりと見た。彼は自分の名前を覚えているだろうか。

 そう思っていると、王族の証である澄んだ青い瞳がまっすぐにこちらを見て、名を呼んだ。


「エルフィリア」


 思いの外、優しい声色で呼ばれて、エルフィリアはぼうっとしてしまう。


「エルフィリア?」

「あ……アレンディス殿下」


 その様子を不振に思ったアレンにもう一度話しかけられて、慌てて名前を呼びかえした。

 しかし、次の瞬間、王妃とアレンは揃って渋い顔をした。顔立ちが似ているから、似たような表情をするとそっくりだ。


「アレンで良い」

「アレン殿下?」


 まだ不満そうな表情をしている。何が不満なのか困っていると、アレンは小さく息をついて言った。


「……呼び捨てで構わない」

「アレン?」

「ああ」


 本当に良いのかと王妃とリオネッタの表情を伺ったが、2人とも満足そうな表情をしている。エルフィリアとアレンが親しいアピールをするのであれば、呼び捨てで呼び合うぐらいでないといけないということだったのかもしれない。


「では、ドレスとアクセサリーを選ばないと」


 名前を呼び合う準備も終えたところで、王妃がパンっと手を叩いていった。

 それにあわせてマルグレーテがデザイン画をずらりと並べて説明をしていく。

 王太子も女物のドレスに興味がないかと思いきや、案外ドレスを選ぶ目はあるようで、エルフィリアに似合いそうなデザインで、機能性を損なわないものをどんどん選んでくれた。


 結果、冬のドレスを20着も作ることになり、アクセサリーもドレス一つ一つに合わせることになったので、エルフィリアが震えるほどの予算が動くハメになったのだった。


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