11.色々な初対面をしました
「誰?」
黒髪に青い瞳の少年は、明らかにアレンの弟だと分かる容姿だった。
何せアレンを黒髪にして幼くしたらこんな感じになりそうだというぐらい似ているし、王妃にもそっくりだ。
「私はーーー」
【名前は?】
エルフィリアが名乗る前に、精神干渉魔法の自白魔法をかけられた。
しかしもちろん、エルフィリアには効かない。
「申し訳ありません。私には精神干渉魔法は効かないんです」
素直に申告すると、王子の目が大きく見開かれた。そして、イライラした様子で言った。
「! 僕は精神干渉魔法は自信があるのに!」
「そうですね。ノルディア卿よりお上手です」
「セルヴィンの魔法を見たことが?」
反射的に王子の魔法の腕前を褒めたことで、セルヴィンに精神干渉魔法をかけられたことが露呈してしまった。
「申し遅れましたが、私の名前はエルフィリア・レオナールと申します。ノルディア卿も私に聞きたいことがあったようですが、効きませんでした。その時の魔法と比べると、ノルディア卿より洗練されているなと」
「エルフィリア王女殿下? ……あなたは何故こんなところに?」
名前を聞いて王子は訝しむようにこちらを見た。顔を知らないので、エルフィリア本人か判断に悩んでいるという顔だ。
「その男に連れてこられまして、というか、精神干渉魔法は効かないので連れてこられたふりをして、返り討ちにしたのですが、扉が閉まってしまって出られなくなりました」
王子はまだ、エルフィリアを信じるかどうか考えているようだった。
状況としてはエルフィリアがこの男を脅して入ったようにも見えなくはない。
彼が信じてくれれば、一緒に出ることができるが、信じてくれなければ、ミラに発見されるより状況は悪い。
判断を待つ間も、開け放った窓から冷気が漂ってくる。
とりあえず、脱出の必要がなくなったので、振り向いて、窓を閉めることにした。
窓をパタリと閉めて、後ろを振り返ると、王子がこちらを見つめていた。
「寒いので閉めさせていただきました」
言い訳するように言うと、王子は少し目を細めた後、地面で伸びている男を見た。そして魔法をかけた。
【起きろ。立ち上がるな】
エルフィリアのかけた眠れという指示は時間を指定していなかったので、王子の魔法に上書きされて、男は目を覚ました。
しかし立ち上がるなと言われたため、男は寝そべった状態で虚ろな目を開けた。
【彼女はエルフィリア王女か?】
「はい」
【お前が連れてきたのか?】
「はい」
【理由は?】
「仕事のミスをごまかすため」
【誰かに指示されたのか?】
「ミラ・フェルステン」
王子が精神干渉魔法が得意で助かった。エルフィリアとほぼ同じ情報を聞き出せている。
とにかく、ここまでの回答で、王子がエルフィリアを信用してくれたのは分かった。最後のミラの名前が出てきた時の表情は気になるが、少なくとも故意に閲覧室に侵入したという疑いは晴れたはずだ。
【禁書庫を開けたはお前か?】
「はい」
【禁書庫をあける権利を正当に持っているのか】
「はい」
【名前と所属は?】
「トルヴィン。所属は王立魔法兵団の支援魔法部」
【僕が起きろというまで眠れ】
最後の王子の指示で、男は再び目を閉じた。
そして王子は男をおいてエルフィリアがいる中2階へと上がってくる。
「疑って申し訳ありませんでした、義姉上。私の名前はカイゼル・ヴァルデンと申します。アレン兄上の弟です」
「ご紹介ありがとうございます。そして、謝らないでください。この状況ではお疑いになって当然です」
容疑者から外れたからなのか、突然呼ばれた義姉上という単語に驚いて、瞬きしてしまった。
自国の本当の兄弟にも呼ばれたことのない、“あねうえ”という響きがむず痒いが、親しみを込めて呼んでくれていそうなので、指摘はしないでおく。
「ところで、フェルステン女史は義姉上の教師を務めているのでは?」
「はい。歴史を教えていただいておりました。今日も彼女に図書館に呼び出されたのですが……」
「自分がいない間に義姉上が禁書庫に押し入ろうとした、と言い張るつもりのようですね」
頭の回転が早くて話が早い。ミラがエルフィリアをどう陥れようとしているか予想がついたのだろう。
「義姉上の侍女はどうしたのですか?」
「精神干渉魔法をかけられました。指示の内容は侍女長であるリオネッタの元へ行けという内容ですから、彼女は無事かと」
「義姉上は、お一人でこの男についてきたのですか? 精神干渉魔法はかからないのですよね?」
鋭い指摘にエルフィリアは思わず視線を泳がせた。
カイゼルの言っていることは正しい。エルフィリアは自らここに足を運んだのだ。
「どうせなら悪事の首謀者を割り出したかったのです」
「ミラがいるかと思っていたということですか?」
「そうですね」
どちらかというとこの部屋に誰かいるとは最初から思っていなかったし、エルフィリアが精神干渉魔法を使いたかっただけなのだが、ここでカイゼルの心証を下げる必要はない。
嘘も方便だ。
「その…… 義姉上に嫌がらせしているのは他にも?」
「首謀者がわかったら、その時点で追及していますので、お気になさらず」
「追及したい気持ちはわかりますが、お一人で立ち向かうのは危険です」
カイゼルは人が良いタイプなのだろう。
純粋に心配してくれているようだ。ヴァルデン王家の人間は無愛想だと思っていたが、カイゼルは人当たりも良く、先ほどから表情もわかりやすい。
「申し訳ありません。気をつけるようにいたします」
「では、ここから出ましょう」
カイゼルが、エルフィリアに手を差し出した。
社交に不慣れなエルフィリアは、一瞬何かわからなかったが、階段があるからエスコートしてくれるのだろう。
エルフィリアが躊躇いがちにその手を取り、階段を降りきった時だった。
「エルフィリア様! ご無事ですか?」
禁書庫の扉が慌ただしく開き、リオネッタ、ミーナ、セルヴィンが勢揃いで雪崩れ込んできた。
3人はまずエルフィリアとカイゼルの姿を見て、安堵と驚きの様子を見せた後、足元で伸びている男を見て眉を顰めた。
セルヴィンが拘束の魔法を使って男を縛り上げ、リオネッタとミーナはエルフィリアの方へ駆け寄ってきた。
エルフィリアはエスコートされるために掴んでいたカイゼルの腕からすっと手を引く。
カイゼルもまた、気まずかったのか、エルフィリアから一歩離れた。
「エルフィリア様!ご無事ですか?」
「大丈夫よ」
リオネッタが珍しく慌てているので、落ち着いてもらえるように笑みを作る。
しかし彼女は落ち着かないようで、エルフィリアの頭の上からつま先まであちこち見て怪我がないかを確かめている。
「私、魔法で操られてしまって、おそばに入れず申し訳ありませんでした!」
その隣にいたミーナに、続いて謝罪されたので、微笑みながら言った。
「大丈夫よ。ミーナが操られたのはわかったから」
「でも……!」
「私こそ、あの場で魔法を解けなくてごめんなさい。私が下手に解除して、影響があっても困るから」
「いえ! 抗えなかった私が悪いんです」
ミーナの肩をポンとたたいて、首を横に振った。これ以上気にしなくていい、という意味だ。ミーナはまだ何か言いたげな表情をしていたが、エルフィリアの気持ちを汲んだリオネッタもまた、ミーナに向かって首を横に振った。
「カイゼル殿下はどうしてこちらに?」
そんな話をしている間に、男を拘束し終えたセルヴィンが、いつのまにかカイゼルの隣に立っていた。問われたカイゼルは兄とは違い愛想よく答えた。
「たまたま禁書庫に立ち寄ったら、義姉上が閉じ込められていて、状況が掴めなかったのでそこの男を尋問したんだ」
「すでに尋問されたんですね。この男はなぜエルフィリア王女殿下を?」
「ミラ・フェルステンに仕事のミスをごまかしてもらう代わりに、王女をここに連れてくる役目を引き受けたようだ」
カイゼルの返答に、セルヴィンは何かを考え込むようにして手を顎に当てた。しかし少しだけ考えるそぶりを見せた後、はっと我に返って言った。
「殿下が心配されていますから、ひとまず執務室に向かっていただけますか?」
殿下、と言われて、それがあの王太子アレンのことだと気づくのに数秒要した。アレンが自分のことを心配しているなんてことがあり得るだろうか。
しかし、特に拒否する理由もない。
エルフィリアが頷くと、リオネッタとミーナが両隣に並びエルフィリアを支えるように寄り添った。
「私もこの男の処理をしたら向かいます。カイゼル殿下は禁書庫に御用でしたら、このままご利用していただいてかまいません」
「分かった。ではそうさせてもらう」
セルヴィンは続いてカイゼルにそういうと、男に向き直った。おそらく魔法でさらに尋問するか、ひとまず牢にでも収容するのだろう。
「エルフィリア様、行きましょう」
リオネッタに促され、エルフィリアは禁書庫を後にした。
そして行きと逆の道を戻って元の建物に戻り、王太子の執務室へと歩いて行く。
リオネッタとミーナは、先ほどのこともあるためか、廊下を歩く時はミーナが左斜め後ろに、リオネッタが右斜め前に付き、周囲を警戒しながら歩いている。
その配置自体は珍しくないが、警戒しているためか距離が近い。
エルフィリアの歩くテンポが乱れたら、2人ともすぐにぶつかりそうな距離で歩いている。
守ってくれようという気持ちはありがたいが、これだと本当に襲撃があった場合に身動きが取りづらい。
ーーーまあ、護衛騎士ではないから、主人に近い位置の方が守りやすいという発想なのかしら。
エルフィリアは母が死んでから、自国でも敵が多かった。嫌がらせだけでなく、命を狙われることもあった。
決して強いわけではないが、簡単にやられるほど弱くもない。
だからこんなに警戒してもらう必要はないのだ。
エルフィリアは精神干渉魔法を始めとして、反撃の手段はいくつか持っている。
エルフィリアを守ってくれる人はいなかったので、自分でなんとかしないと生きていけなかったのだ。
無気力姫を装ってからは、命まで狙われることは減ったが、0ではなかった。
皮肉なことに、レオナールにいる時よりも、かつて敵国であったはずのヴァルデンにいる方が、身の安全を感じているぐらいなのだ。
考え事をしながら歩いていると、いつのまにか目的地に着いたようだ。
リオネッタが扉をノックした。
「リオネッタです。エルフィリア様をお連れしました」
扉は中から開かれた。
扉を開いたのはアレンの護衛だ。彼に扉を押さえてもらいながら、部屋に入る。
執務室は、かなり広々としていて、横に長い長方形の形の部屋だった。アレンの座る黒檀の机が部屋の中央奥にあり、その後ろには暖炉が備え付けられている。
そのアレンの座る席に向かって机が中央の通路を開けるように並べられていて、執政官たちが執務をしていた。
アレンの席の前に立てるようにか、アレンの席の前にはドレスでも通れそうなぐらい通路が確保されていて、1番前の席でもアレンとそこまで近いと言う感じではない。
執政官たちはエルフィリアの訪問を知っていたようで、エルフィリアが入室すると同時に立ち上がった。
そして礼をすると全員部屋から出ていった。
エルフィリアはどこに立つべきか悩んでいたが、リオネッタの視線に誘導されて、机と机の間を抜けて、アレンの目の前に立った。
アレンの目の前にはかなりスペースにゆとりがあり、前後に並べば10人ぐらいは並んで報告できそうなスペースがある。
するとアレンが顔を上げてすっと目を細めて言った。明らかに苛立っている様子だ。
エルフィリアは鋭い眼光を向けられて、体が震えるのを感じた。
この震えは恐れか、それとも目の前の王太子が物理的に部屋の気温を下げているのか。
「くだらない嫌がらせは報告しろと言ったのを忘れたのか?」
どうやら、報告を怠ったということがお気に召さないらしい。整っている顔立ちだからこそ、苛立っている無表情な表情の鋭さに凄みがある。
「……嫌がらせかどうかの見極めをしていたのです」
エルフィリアが言い返すと、アレンは机に右手で頬杖をつき、左手で机をトントンと叩く。
「見極め……フェルステンの授業が、嫌がらせではないと思う一端があったのか?」
「要求レベルの高い先生であれば、ありえなくはない程度でした」
「百歩譲ってそうだとしよう。ではどうして、侍女と引き離された時点で、逃げようとしない? セルヴィンの精神干渉魔法をはねのける能力があって、他の者の魔法にかかるとは思えないが……?」
誰がどう報告したのか、あるいはすでにミラを尋問した後なのか、アレンはなぜ、こんなに図書館で起きたことを正確に把握しているのだろうか。
エルフィリアがついて行ったことまで何故かバレている。
リオネッタとマリアは一緒に部屋に入ってきて一言も発していないし、セルヴィンはまだ戻ってきていないのだから、トルヴィンの証言はまだ耳に入っていないはずだ。
「どうして知っているのかという表情だな。フェルステンはすでに簡単にだが尋問した。あの女が城勤めの魔法師をそそのかして、君を禁書庫に閉じ込めようとしたことも分かっている。君に精神干渉魔法がかからないなどの不測の事態があれば、計画を撤回する気だったということもな」
つまりミラの証言を元に考えると、エルフィリアが自分でついていって計画が続行されたようにしか見えないということだろう。それはその通りなので何も言えない。
「自分の意思でついて行ったのか?」
「……はい」
さきほどカイゼルにも同じことを問われて、素直に答えてしまったので、ここで嘘を着くのは意味がない。エルフィリアが肯定すると、アレンの周囲の空気がまた一段と冷えた気がした。
「なぜだ?」
「何故? ……首謀者を割り出しておいた方が、対応が楽だから、でしょうか。敵を把握しないと対応策も打てません」
「男相手に1人でなんとかできると?」
「1人でなんとかしなくてどうしますか? あの場から逃げても、違う手段で襲われては面倒です。図書館は閉鎖的な分、ゴロツキを配置するのも難しい。せいぜい閉じ込められて終わりだろうと思っていました」
「……はあ。相談しろと言った意味が伝わっていないらしい。1人で解決しようとするな。誰かを頼れ」
アレンの口調は高圧的ではあるが、言っている内容はエルフィリアを心配しているとも取れる内容だ。兄弟だからなのか、カイゼルも同じことを言っていた。
しかし、なんでも1人で解決せざるをえなかったエルフィリアからすると、頼れと言われても、いざというときにその発想が出てこないのだ。
あの男に着いて行っている時も、禁書庫に閉じ込められたと気づいた時も、誰かになんとかしてもらおうという発想はなかった。
「返事は?」
「善処いたします」
返事を催促されたので渋々そういうと、アレンは深いため息をついた。
「まあいい。君の警備が手薄なのはこちらに落ち度がある。君は侍女は増やしたくないようだが、女性の護衛を2人、本日付けでつける。その2人はリオネッタが実力も加味して選定したので、クビにした侍女のようにはならないはずだ」
夜の火の番がリオネッタとミーナの2人では限界があると思っていたので、護衛についてはちょうどいい。
「ありがとうございます。本日付けということは、後で部屋に来てもらえるのでしょうか?」
「いや、もう少しでここに来る予定だ」
「ここにですか?」
「部屋に送り込む途中で護衛がすりかわったりしていても、リオネッタとミーナでは制圧されてしまうからな」
確かにエルフィリアは顔を知らないので、護衛だと名乗られたら素直に受け入れるだろう。最初の顔合わせのタイミングで顔を知るリオネッタがいなければ、露見するまでに時間がかかるし、リオネッタがいたとしても、手練れであれば返討ちにするのは難しい。
噂をすれば影、とはよく言ったものだが、護衛の話をしていると部屋の扉がノックされた。
アレンの護衛が扉を開けると、2人の女性騎士が部屋に入ってきた。
1人は金髪の長い髪を高い位置で一つくくりにしていて、女性にしては背が高い。腰には長剣を帯びていて、服装も騎士団の制服といかにも護衛騎士らしい姿をしている。
もう1人は赤銅色のセミロングの髪を三つ編みにして背中にまとめている女性で、服装はリオネッタやミーナと同じ侍女が着る服装をしている。
2人はエルフィリアの前に向かい合うようにして整列すると、美しい敬礼を見せてくれた。
「セリアとマルナだ。マルナは護衛と侍女を兼ねる。護衛任務が主務だが、君には侍女も少ないので、細々とした業務を任せればいい」
エルフィリアが2人に気を取られている間に、アレンがいつの間にかエルフィリアの隣に立ち、エルフィリアに2人を紹介した。驚いて声を挙げそうになるのを必死にこらえ、頷いた。
続いてアレンは、2人に向かってエルフィリアを紹介した。
「彼女はエルフィリアだ。私の婚約者であり、君たちが命を賭して守るべき相手でもある」
厳かな声で告げられたその言葉に、エルフィリアは驚いてアレンの方を見てしまった。彼女たちが命を賭す相手が自分ということに驚いたのだ。
確かに護衛の対象にはなるだろうが、彼女たちはヴァルデン王家に剣を捧げた者たちのはずで、エルフィリアを守るのは職務上のことであるはずだ。それなのに、まるで剣を捧げろという圧すら感じる物言いだ。
しかし驚いていたのはエルフィリアだけのようで、彼女たちは素直にその言葉を受け止めているように見えた。
まずは金髪の女性が一歩前に進み出た。
「お初にお目にかかります、エルフィリア殿下。セリアと申します」
彼女は良く通る声で名乗った後、膝をつき、腰に下げていた剣を鞘ごと持つと、エルフィリアの前に捧げた。
「この剣をエルフィリア様に捧げます」
生まれて初めて剣を捧げられたエルフィリアは、この後の動きがわからずに困った。おそらく剣を受け取ればいいのだろうが、受け取った後どうするのだろうか。
「あなたの剣を受け取ります」
エルフィリアはためらいながらもそっとセリアに近づき、その剣を両手で受け取ろうとした。
ずしりとした重みが手にかかり全体の重心が前に傾いた。
想像以上の重さに、エルフィリアは慌てて身体強化をかけて持ちこたえる。儀礼で落としたら、どう考えても忠誠はいらないと拒否している図になってしまう。
エルフィリアはなんとか体制を整えて受け取ると、この後どうすればいいのか困って、隣にいたアレンを見た。
アレンは不思議そうな表情をしていたが、エルフィリアの困惑の理由に思い当たったようだ。
「剣を受け取ったら、儀礼としては以上で問題ない。重いだろうから、返せばいい」
返して良いと許可が出たので、エルフィリアは彼女に返すことにした。
エルフィリアを守る職務につく彼女が、怪我をしないように祈りながら剣を彼女に渡す。
セリアが剣を受け取り腰にその剣を下げなおしたところで、エルフィリアは微笑んで言った。
「これからどうぞよろしくお願いね、セリア」
「よろしくお願いいたします」
セリアは微笑み返した後、一歩後ろに下がる。
次に進み出てきたのは、赤銅色の髪の女性だ。
彼女は片膝を着くと、両手を胸に重ねて頭を垂れた。
「お初にお目にかかります、エルフィリア殿下。マルナと申します。私は騎士ではないので剣は捧げられませんが、忠誠を捧げることをここに誓います」
彼女の声は落ち着いていて、聞きごこちの良い声だ。小柄な見た目に反して、大人びた声質である。
「あなたの忠誠を受け取ります」
マルナはエルフィリアの言葉をうけ、すっと静かに立ち上がった。彼女の動きは洗練されていて、侍女が主業ではないことはすぐにわかった。
「これからどうぞよろしくお願いね、マルナ」
「どうぞよろしくお願い申し上げます」
護衛の2人を紹介するのが、呼び出した1番の目的だったようで、ミラの尋問内容などはそれ以上話してくれることはなく、その場は解散となったのだった。




