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【完結】隣の悪魔と徹底的で破滅的な復讐をする事になった件  作者: そらちあき


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30/42

30:糸を辿る

 結城 香織。

 彼女は真紅の事を気に入らないと言って、転校してきたばかりの彼女に強烈な虐めを繰り返した張本人だった。エスカレートしていく真紅へのいじめ、けれどそれはぱったりと止んだ。


 結城 香織が何処か遠い場所へと引っ越す事になり、彼女が転校した後に真紅がいじめられる事はなくなった。そして同時に真紅は周囲の生徒達から『悪魔』と呼ばれて恐れられるようになる。


 全ては繋がっている、そしてその糸を辿っていけば結城 香織にたどり着くはずだ――そう聖斗は確信していた。


 その糸の先にいるはずの人物がこうして突然姿を現した。聖斗と真紅が甘楽達の不正の証拠を手に入れたその直後なのだ。これはきっと偶然などではない、絶対に裏がある。

 

 結城が突然現れて聖斗に声をかけてきた理由は一体何なのか。そしてまるで変装していたかのような格好をして近づいてきたのも、何から何まで怪しすぎる。聖斗は警戒心を露わにしながら、目の前の少女に問いかけた。


「甘楽に頼まれたのか? 俺達を陥れる為に遠くはるばる故郷に戻ってきたってか? 何が目的だ?」

「か、甘楽は関係ないです……。あの、とにかく私の話を聞いて下さい。お願いします、緋根さん。信じてもらえるか分からないけど、本当に私はもう関係ないんです……」


「……」

「緋根さんと話がしたいだけなんです、だからどうか話を……。あ、あの……ダメですか?」


 聖斗は黙り込んだ。信用出来るわけがない、何より真紅の事を散々虐めておいて何を言っているんだと思ったからだ。それにもしこの少女の言葉を鵜呑みにしてしまえば、聖斗と真紅が今までやってきた事が全て無駄になってしまう可能性だってある。それだけは避けたかったのだ。聖斗は今たくさんの想いを背負っている、復讐を成し遂げなくてはならない。


 けれど同時に思うのだ――いくら何でも怪しすぎないか、と。


 聖斗を騙して連れ込もうとするにしても、もっとやりようはいくらでもあったはずだ。今まで甘楽は姑息な手段を用いて人を陥れようとしてきた。あの甘楽が計画した事にしては、人選から服装から何から何まで間違っている。聖斗の警戒心を生み出すようなやり方ばかりだった。


 聖斗は目の前の少女の事をじっと見つめた。

 するとその視線に耐えかねたのか、結城は困ったような表情を浮かべる。


 結城はしばらく無言のまま考え込むような仕草を見せて大きくため息を吐いた。


「ですよね……信用なんてしてもらえるわけないですよね。だって私、真紅さんをいじめてたから……。じゃああの……一つだけ良いですか?」

「一つだけ?」


「はい……私、真紅さんに合わせる顔がなくて……だからせめて、仲の良い緋根さんだけには言いたくて。私、真紅さんに助けてもらったんです……。ずっといじめていた私に……手を差し伸べてくれて……だから、本当はお礼が言いたくて。だから代わりにお礼を言ってもらえないかって」


「黒曜さんから助けられた……?」


「私が悪いんです……弱いから、甘楽に従う事しか出来なかった。怖くて怖くて仕方なくて……だから真紅さんを酷い目にあわせてしまった。それなのに……真紅さんは私の本心に気付いて、私をあの()()()()()()()()()から救い出してくれたんです。だから……私は……」

「……っ」


 ヘドロの溜まった底、それは真紅が口にする言葉だ。


 聖斗達のいるクラスの悲惨な状況を嘆き、それをヘドロの溜まった底と呼ぶ。聖斗にも全く同じ事を言って、そして真紅は手を差し伸べた。


『あなたが望むならいくらでも力を貸すつもりです。あなたをヘドロの溜まった底から救い出してあげましょう』


 その言葉が聖斗の頭の中に反響する。

 まさか本当に結城も同じ事を言われたのか。でなければその言葉が結城の口から出てくるはずがない。


 聖斗の感じる直感――結城が嘘をついているようには見えない。彼女は真実を述べているのではないかとそう思えたのだ。


 結城が本当に真紅から助けられたというのならば、聖斗が結城の言葉を聞いてみる価値があるのではないか、と。


 聖斗は結城の目を見据えながら、問いかける。


「話を聞くだけだ……もし怪しい素振りを見せた、その時は……」

「はい、分かってます……。ありがとうございます……。あの……このスーパー、フードコートがあるので……もし良かったらそこで」

「ああ分かった。むしろ外に連れ出されるとかじゃない方が俺にとっても都合が良い」

「では……一緒に行きましょう」


 聖斗は結城と共にフードコートへと向かった。


 そして結城は語り始める。


 それは聖斗が想像していたよりも遥かに壮大で、それでいて聖斗の予想を遥かに超えた内容だった――。


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