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異世界白刃録 ~転生先で至高の斬撃を目指す~  作者: U字
第九章 神の奇跡の残骸
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第七話 ~届かぬのならば――~

 目が覚めて最初に見えたものは、こちらへ駆け寄ってくるよく見知った少女の姿だった。


「だ、大丈夫……?」

「ええ。ルーテリッツさんのお蔭で」


 ルーテリッツさんを安全圏に突き飛ばした代償に、回避不能な体勢で黒スライムの一撃を受けるはずだった僕。

 だがしかし、目の前の魔女がとっさに放ったであろう風に吹き飛ばされることで、黒スライムの魔の手からは逃れることが出来た。

 一時的に意識が飛んでいたようだが、まともに攻撃を受けていたらその程度では済まなかっただろう以上、感謝以外に言葉はない。


 ルーテリッツさんが心配そうに見ている中で立ち上がり状況を見れば、少し離れたところでエルフたちと黒スライムが戦っていた。


「ルーテリッツさん。精霊砲、もう一度お願い」

「え? で、でも……」

「確認だよ。今度はちゃんと備えるから」


 そう言うと、渋々ながらルーテリッツさんがもう一度精霊砲の準備に入る。

 そうしてチャージが始まったころ、こちらを気にも留めてなかった黒スライムの粘体がまた波立ち、こちらに飛びかかってきた。


「きゃっ!?」

「よっと――やっぱりか」


 ルーテリッツさんを余裕を持って抱えて飛び退き、確信する。


 偶然じゃない。

 ヤバいと分かるのか、単に大量の魔力なり精霊なりに反応してるのかは分からないが、精霊砲を使うと、黒スライムが突っ込んでくる。

 こうして相手の動きを限定すれば罠にも使えそうだが、精霊砲以外に敵に通る火力がない以上、エルフたちの危機に囮になるくらいしかないだろう。


「って訳で、ちょっとアレ斬るために打ち合わせしてるからよろしく」


「いや、いきなり何ごと!?」

「斬るって、さっき刃が届かなかったでしょ!?」

「うわ、来たっ! とにかく応戦、応戦!」


 そうして三バカ娘たちの脇を抜けてルーテリッツさんを戦闘区域から少し離れたところで下ろし、早速本題から入る。


「僕をルーテリッツさんの風であの黒スライムに叩き込んで。出来る?」

「え? え?」


 困惑するルーテリッツさんにもう少し詳しく説明すると、少し考えてから次の答えが返ってきた。


「やったことがないからどうなるか分からないけど、で、出来るとは思う……」

「じゃあ、早速始めて!」


 そうして、僕はルーテリッツさんと黒スライムの間に立つ。

 次の瞬間、ふわりと体が宙に浮いた。


「撃てぇっ!」

「えい……!」


 そのまま風に乗り、高速で敵に向かって突っ込んでいく。

 戦うエルフたちの脇を一瞬で通過し、あっという間に黒スライムへとたどり着いた。


 貫通力重視で紡錘ぼうすい形となっている僕を覆う風の弾丸とも言うべきものが黒スライムの鎧である粘体部分をぶち抜いていくが、半ばに届く前に大きく勢いが落ちる。

 これは風の刃が通りきらなかった時点で予想の範囲内だ。

 だから――


「届けぇぇぇぇえええええ! ――ゲフッ」


 風に後押しされて勢いのまったく死んでいない僕が、刀を突きだして、風の槍で穿うがたれた穴をさらに広げる。

 すると確かな手ごたえを感じるとともに、全身に息が詰まるほどの衝撃が走る。


 高速で突っ込み、敵の体に正面からぶつかったのだ。当然そのダメージは受ける。

 受けるのは計算のうちだけど、ちょっとばかり想像よりも痛すぎて、意識が飛びかける。


 それでも半ば無意識に核に刺さったと思われる刀を振り抜くと同時、粘体に殴り飛ばされるような形でふっ飛ばされた。


「なんて無茶するの!?」

「何で生きてるのか謎すぎるんだけど!?」

「てか、あんな高速で見るからに姿勢が安定しない中、どうやってやり抜いたの!?」


「ア、アイツは……アイツはどうなった?」


 心配そうに真っ先に駆け寄ってきた三バカ娘を軽く押しのけるように上半身を起こせば、移動するでもなく無意味に粘体を激しく変形させる黒スライムと、遠巻きに見守るエルフたち。あと、ちょっと遅れてこっちに駆け寄ってきたルーテリッツさん。


 少しばかり見ていると粘体部分がけて崩壊を始め、そのまま僕が斬った跡の大きく残る核だけを残して消滅してしまった。


「勝った! 勝ったぞ!」

「生きて帰れるの!?」


 そんなこんなでエルフたちが喜ぶ中、急速に痛みがぶり返してくる。

 致命傷ではなさそうだが、衝突のダメージは小さくなかったようだ。


 この後も、黒スライムの残党探しやらで森の中を見回ったりと安全確保まではやることが山積みなんだけど、ゲームで言えばエリアボスに違いないだろう大物を討ち取ったんだし、客人としては破格の働きしたよな?

 もう、後は任せて良いよな?


 そんなことを考えつつ、必死に何かをこっちに語り掛けてる様子の三バカ娘やルーテリッツさんを見ながら意識が闇に沈んでいった。





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