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異世界白刃録 ~転生先で至高の斬撃を目指す~  作者: U字
第九章 神の奇跡の残骸
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第四話 ~異変の始まり~

 手掛かりかも知れない石板を持ち帰り、二日が経った。

 普段使いでもなく教養でかじった程度の言葉だからか、書庫にこもったルーテリッツさんによる翻訳作業は難航しているようだ。

 前世で英語に四苦八苦してた僕としては、その大変さは大いに共感できる。


 で、本の管理は交代でしても中身が読めないエルフたちの手伝いはなく、一人で黙々と作業しつつ、たまに本を探して書庫内をうろつくルーテリッツさん。

 ひたすらに自分とだけ向き合ってればいいからか、普段の少し不安げな様子と違い、頼りがいのありそうなきりっとした表情である。

 そして、生活があるので立ち会えないエルフたちに代わり、やることのない僕がルーテリッツさんに張り付いて何かあったときに対処する役だ。彼女にとっては初めての場所であり、外にちょっと出て迷子に、なんてことを防ぐためにも重要な役目だろう。


 ただ、とてつもなくヒマなのはどうしようもない。


 ルーテリッツさんはいつ寝てるのかも分からないくらいにずっと書庫に籠ってるし、食事は持ってきてもらってさっさと書庫内の外れにある本の置いてない区画で済ませるし、基本的に僕の仕事が回ってこないのだ。

 そういう訳で、思考の斬撃へ至る方法とかないかなぁ、と八割方が未知の文字で書かれた本だらけのそれなりに大きな書庫内を歩いている時のことだ。


「あ、あの……!」

「どうしたんです、ルーテリッツさん?」


 慌てて駆けて来たので声を掛ければ、そこには真っ青な顔でこっちの袖を必死に引っ張るルーテリッツさんが。

 聞いてみても慌てすぎてて何が言いたいのか伝わらず、とりあえずは引っ張られるままに彼女の作業スペースへ。

 すると、そこには虫食い状態の翻訳済み文書がある。

 これは、損傷が激しくて読めなかったか、まだ翻訳できてないけど大体中身が分かったか。

 どっちかは知らないが、翻訳文に軽く目を通す。


「えっと……神の力、利用、失敗、災厄、封印……」


 ざっと見るだけでも、ロクでもない語句が並ぶ。

 てか、封印って――


「もしかして、この石板があった奥のヒビが入った壁って?」

「た、たぶん、それが『封印』――」


 ルーテリッツさんの言葉を遮るように、響き渡る鐘の音。


「ルーテリッツさん! 村長の家に行くから、ついてきて!」


 村中に異常を知らせる鐘の音の理由を知るため、彼女の手を取って村の中を走り出す。

 いざとなれば指揮所兼防衛拠点となる村長の家に行くのが、一番確実に状況を把握できる。


「村長!」

「やっぱり来たか! 面倒なことになった。悪いが力を貸してくれ」


 中に入れば、避難してきたのだろう村の子どもたちや、対策を会議してたのだろう長老格達。

 そして、最初に声を掛けて来た村長だ。


「仮に出た連中からの連絡によると、森で異常なスライムが大量発生したらしい。詳しいことは分からんが、とにかく早く駆除しないとマズいから援軍を出せとせっついてきている。伝令も血まみれで何とかたどり着いて、今は気絶してしまってこれ以上は聞けん」

「最低でも、その奥地で残ってる連中と合流して撤退。出来るなら、対処してほしいと」

「だからこそ、この場で最高戦力である君たち・・・に行ってほしい。ルーテリッツ嬢も、詠唱しているふりなんかで誤魔化さなくていい。全力で頼む」


 俺と、隣のルーテリッツさんが思わず固まる。

 村長が何か感じたのは分かったけど、ルーテリッツさんの精霊との感応は彼女のトラウマの元でもあるのだ。多数の村人が居る場で当然のようにバラされれば、どう反応すれば良いのか分からなくなる。


「エルフが精霊関係について、口外したりはしないから安心しろ。それ・・が何かは分からないが、我々にも多少の感応能力はある。本能で、部外者が口を挟むのは厄介事だと分かるからな」


 それでも、使えるものは使うべし。

 状況が分からなすぎて、そう言う結論に他の長老格含めて至ったらしい。


 状況が分からないからこそ、すぐに動かせる最強の剣士と最強の魔法使いを遊ばせる余裕はない。

 こうして、連絡を受けてすぐに出た即応部隊を追いかける形で、僕たち二人も森の中に足を踏み入れるのだった。


「場所はこの前行った禁域辺りだって言うから行けるけど、ルーテリッツさんは何か感じないの?」

「あ、あの、ずっと嫌な感じがしてて、前も今も変わらないの……」


 アルクスの町で特異個体に率いられた魔物の群れの中で、特異個体の位置を感知して見せた彼女ならと思ったが、今回の状況把握は出来ないようだ。


 ならば現地に行くしかなく、たどり着いてみれば、そこはとんでもない騒ぎになっていた。


「どうなってんだ……?」


 ツノネズミやらスライムやら、普通の子どもがエサをやったりするような温厚な魔物たちが、群れになってエルフたちと激闘を繰り広げていた。

 魔物側は単体戦闘能力は低いが、個体数が尋常ではなく、戦いは互角。ただし、時間が経てば先にスタミナが切れるエルフ側が押し切られるだろう。


「お、剣鬼様だ!」

「うお、マジ剣鬼!」

「皆殺しの剣鬼様キター!」


「おいそこの余裕しかなさそうな三バカども! 簡潔に状況を教えろ!」


「数がヤバい!」

「黒いスライムがヤバい!」

「何がどうなってるのか全く分からないのがヤバい!」


 間に大量の温厚なはずの魔物たちを挟み、向こうは向こうで迎撃し、こっちもこっちで僕ら二人に襲い掛かる魔物たちを僕が片っ端から斬り捨てながらの会話だ。


「ルーテリッツさん、道作って! 火はマズいし、風の刃とかで!」

「わ、分かった! ――お願い!」


 そのルーテリッツさんに答えるように暴風が吹き荒れ、木々に無数の傷跡を残しつつ、周囲の魔物を細切れにしていく。


「みんな走れ! 一度村に戻ろう!」


 僕の声に答え、三十人ほどのエルフたちが一斉にこっちへと駆け出した。

 ほぼ全員が傷を負う中、三バカだけは少し息が乱れるくらいで無傷な辺り、若手最強チームの名は伊達ではないらしい。


 そのまま、まだ余裕のある僕が先頭になって村へと駆け出す。

 そこにスライムが襲い掛かってきたので斬り捨て――られなかった。


「斬れないだと!?」


 核を覆うジェル状の部分に多少刃は入るが、そこで止まり、核に届かぬままにスライムが剣を振った勢いを受けて飛ばされていく。


 みれば、普通は透明なはずのジェル部分が、薄く黒く色づいている。

 これが、さっきヤバいと言ってた『黒いスライム』。大量発生しているという、異常なスライムだろう。


「ルーテリッツさん、もう一回!」

「わ、分かった!」


 もう一度暴風が吹き荒れる。

 しかし、こちらに向いている面のジェル部分は風に押されるように薄くなっていくが、核に届かないうちに風に飛ばされて上手く逃げてしまう。


 スライムって、本来は、防御力なんて無きに等しい存在だ。だから、ここでも黒くない通常の個体は一撃で斬り捨てている。

 エサだって魔物の死体がメインで、掃除屋の異名もある。実際、この辺でゴブリンやらの危険な魔物を狩りまくっていたころは、死体処理にお世話になっていたものだ。


「倒すならそれじゃダメ!」

「お姉さんたちの動きを見てなさい!」

「いっくよー!」


 三バカたちはそう言うと、まずは最後に口を開いたエルマが矢を放つ。光を放つ矢は、エルフたちの使う魔力を込められる特殊な矢だ。

 それを受け、近くにいた黒いスライムのジェル部分の中間あたりまで矢が突き刺さる。


「畳みかけるよ!」


 次に、二番目に口を開いたパルヴィが、魔法を放つ。

 詠唱の短い低ランクのものだが、正確に矢の刺さった場所を打ち抜き、矢を起点に周囲のジェル部分を吹き飛ばす。


「とどめ!」


 最後は、最初に口を開いたアリナだ。

 吹き飛んでも戻りつつあるジェル部分が戻りきる前に一気に踏み込み、両手に持った剣で核を突き刺す。


 すると、黒いスライムの体が崩壊を始めた。


「どんなもんよ。こいつら、厄介なの。核以外は魔力の籠った攻撃じゃないとまともに通らなくて――」


 囲まれる前に後退しつつ何か言っているアリナとすれ違うように踏み込み、今度は特異個体を相手にした時のような『本気の斬撃』で黒いスライムの核を斬り捨てる。


「なるほど。数が多いのに一々集中しなきゃ核まで攻撃が届かないのは、厄介だな」

「「「いや、そうじゃない」」」


 にしても、特異個体を思い出させる通常とは違って黒い個体。

 特異個体に率いられた群を思い出す、温厚で普通ならばこっちを襲ってくるはずのないのに攻撃的な魔物たち。


 そして、特異個体と同じように、漫然としていては攻撃も通らない強敵。

 しかも、今度は無数にいるときた。

 その上、ルーテリッツさんが森の中全体から感じる嫌な感じに紛れて場所の特定が出来ないなら、逆に森中にこいつらが居るかもしれない。


 加えて、ヤバそうなのに封印するしかなかった森の禁域の何かと、同じヤバさに紛れる以上は多分無関係じゃないと言うほどに厄介で恐ろしい存在。


 ああ、見えて来た。

 これはつまり――


「斬って斬って斬りまくれという、神様の与えたもうたボーナスタイムか!」

「「「んな訳あるか、この斬撃馬鹿が!」」」





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