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第四話 ~決断の時へ~

~間が空きすぎたので、本章のここまでのあらすじ~


ある日、ダーイッシュと名乗るおじさんを筆頭にする集団が、主人公ミゼル君の所属する冒険者パーティのブレイブハートの本拠地へやってくる。

彼らはリディを『クロエ姫』と呼び、リディの本当の両親について知っている様子。


しかし、親代わりにリディを育ててきたイサミは、彼らはリディの実母が謀略で殺されるのを喜んでみていた連中で、自分たちが押していた候補がリディの実家の伯爵家の後継者争いに敗れたので、リディを神輿に載せて利用するつもりと看破。


皇帝相談役であるハーミットにも相談したものの、法制度上、存在がばれたからには現地で相続放棄を宣言する以外にはないと言われ、ダーイッシュたちと共に伯爵領へ。


しかし、伯爵領に入ったところで首謀者も規模も不明の襲撃を受け、ダーイッシュが連れてきた人員の半分以上を失いながらも、何とか道なき山中へと逃れることに成功するのだった。


(主人公側の人員についてなど、前章末までの人物紹介なども参照してください)

「ああ、見えました! かつて、クロエさまの一族の勢力圏にあった村の一つです」


 襲撃からそう時間は経っていないものの、道なき道を駆け抜けていると、道案内のために途中から先頭を走っていたダーイッシュさんが先を指差しながらそう言った。

 その先には中規模な村。


 僕とリディ、師匠を囲むように走っていたダーイッシュさんの生き残った仲間三人も変な動きはないし、とりあえずは村に入ってみよう。


 そうは決めたけどさ。


「なにこれ……」


 リディのつぶやきは、僕や、ずっと難しい顔をしている師匠の感想でもあったと思う。


 昼間から、あまりにも活気かなさすぎる。

 この時間なら、普通はどこかで遊んでるだろう子どもたちの声なんて全く聞こえない。

 村の周囲の畑や村の中で村人らしい何人かの獣人は見たものの、誰もがやせ細り、異様にぎらついた目で見てくる。


 控えめに言って、この村はさびれていた。


「では、クロエさま。一緒に来ていただけますか? 村長のところへと挨拶に行こうと思います」

「ちょっと待て。俺たちは連れて行かないって聞こえたが?」

「クロエさまの一族が失脚して以降、その勢力下にあった町や村はどこもこの様ですからな。あまり『よそ者』が大挙して押しかけても怪しまれるばかり。もちろん、私もそのよそ者ですが。――何より、私たちに向けられたその殺気を少しでも出されれば、台無しですので」


 師匠とダーイッシュさんはそのまましばらく睨み合い、「変な気は起こすなよ」とつぶやいた師匠が引くことで決着した。

 僕が付いていこうかとも思ったが、その間に明らかに平静でない師匠がやらかすかもしれないと考えてしまい、その間に二人が行ってしまった。


 仕方ないので、そのまま周囲の家よりも少し大きい村長の家を遠目に見つつ、村の広場のようになってる場所で二人を待つんだけど、当然空気は最悪だ。

 リディを利用したい連中と、リディを利用させたくない僕たちが仲良くする理由なんてない。ただ、リディを伯爵家の継承争いに参加させるにも、辞退させるにも制度上現地に行かねばならないから一時的に協力してるだけ。

 主に師匠と他の三人の間のピリピリした空気を見るに、交渉に師匠を連れて行かなかった判断は、確かに正しかったようにも思える。


「おい、そう来るか……」


 最初に異変に気付いてそう言ったのは、師匠だった。

 つられて視線の先を見れば、村長宅の前に集まる小さな人だかりに、遠くからそっちをじっと見る人影たち。


 慌てて師匠と共に村長宅へと駆け出せば、思っていた通りの流れになっていた。


「伯爵家の血筋のあかしの銀髪。間違いない。伯爵さまのところへ嫁いだ、あの姫様の娘が帰ってきた!」

「ああ……どうか、どうか私たちをお救い下さい!」


 興奮するもの戸惑うものなど色々な感情を表す村人たちに囲まれ、困惑して何も言えないリディ。

 師匠の判断は迅速だった。


「下がれ! 彼女は、相続を放棄しに来たんだ!」


 そう言いながら村人たちを追い散らす。

 あまりの剣幕に村人たちは簡単逃げ、その背を追いもせず、震える村長らしきおじいさんにも興味を示さず、にこやかなダーイッシュさんを壁際にまで下がらせ、その顔の横にある壁に右手を叩きつけた。


「おい、テメェ。どういうつもりだ?」

「どうも何も、今夜の宿を提供していただけるよう、頼んだだけのこと。その際、向こうに少しでも心を許してもらおうと、クロエさまの血筋について説明しただけですよ」


 殺気を出しながらもまずは言葉を交わし、抜刀したり魔法を放たなかったのは、最低限の理性が残ってくれてたんだと思う。

 居なくても何とかなるだろうが、現在の伯爵領を知る案内人が居なければ苦労が増えるのも事実だろうからだ。


 三十路手前の男とおじさんの壁ドンなんて誰得な光景にツッコミを入れるような空気ではない中、真偽を確かめようとの意図で向けられたんだろう視線に、リディが慌てて激しく首を縦に振る。


「次から、最低でもミゼル君を付ける。いいな?」


 それだけ言って、師匠はどこかへ去っていった。





 襲撃をやり過ごして獣人たちの村へとやってきた日の夜。

 姿の見えなくなったリディを探しに、師匠と手分けして村の周囲を探していた。


「リディ、こんなところに居たのか」

「うん……」


 見つけたのは、村のすぐ近くの森の中。

 大きな石に腰掛け、彼女は月を見上げていた。


 単なる襲撃なら、心配しなくとも何とかなるだろう。

 ブレイブハート最速にして、種族特性上耳や鼻が利くリディなら、逃げに徹するならどうとでもなる。


 問題は、昼間のことだ。


「この村は、リディとは何の関係もない。何でもかんでも背負えるなんて、傲慢ごうまんだと思わないか?」

「……」


 ダーイッシュさんたちがどこまで見通してたのかは分からない。

 ただ、結果として、その場で否定すれば済む程度の話は、リディを惑わせている。


 この程度でリディの気を変えられるなんて思いもしてなかったろうし、策略があるならば本命は別にもっと確実なものがあるだろう。


「……分かってる。分かってるけど、みんなあんなに辛そうで、もしかしたら私に何とかできるかもしれなくて、それで……それで、どうすりゃ良いってのよ!」


 ただ、彼女はあまりにも正義感が強くて、あまりにも寛容で、出来ることなら困っている人を助けてやりたいと思う程度には情が深かっただけのこと。


 僕の斬撃狂いな本性に悩んでいても深くは聞かずに受け入れてくれた優しさが、ここでは面倒な方に働いたんだ。


「まあ、一つ策があると言えばある」

「……え、あるの!?」


 目を輝かせてるところ悪いけど、本当に解決策って言えるかは確信を持てないんだけどね。


 でも、それを提示する前に、やるべきことがある。


「この先の動きを考えるためにも、そろそろリディの因縁について、きちんと教えていただけますか? 師匠」


 そう問えば、正面の木の上から師匠が飛び降りた。


「え!? 先生!?」


 僕が来たくらいからだいぶ隠れる気がなくなってたんだけど、それでも気付かなかったのか。

 ここまで索敵力が落ちてるほどに集中できてないなら、自力での防衛には期待しすぎない方が良いかもしれない。


「教えるも何も、大体は分かるくらいには情報が出てるだろう?」

「これからリディは、彼女にとって縁もゆかりもないとも言える人たちの命運まで好きこのんで背負って大きな決断をするんです。そのために、知るべきことはしっかり知るべきだと思います」


 特に返事はなかった。

 ただ、その場に腰を下ろした師匠は、ぽつぽつと語り始めた。





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