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第八章第一話 ~血の因縁~

「うぅ……だるい……」


 パーティーホームの玄関前で、さわやかに降り注ぐ朝日を恨めしく思いながら睨みつけるが、もちろん何が変わるでもない。

 むしろ、疲労感が増えた様な気がする。


 原因は昨日のことだ。

 師匠の冤罪事件をきっかけに帝都の冒険者が減った影響から始まった、帝都近郊での魔物の増殖。そのとりあえずの対策ってことで有力パーティが持ち回りで普段は手出ししない雑魚を狩ってるんだけど、以前のマトイ・ヤクサとの出会いのきっかけになったキラービーに続き、昨日またその当番が回ってきた。


 その内容が、駆け出し冒険者向けの獲物であるゴブリンが異常繁殖して狩場に近付けないから、とにかく狩りまくれ。


 その森の奥に足を踏み入れれば、後から後から無尽蔵に湧いて出るゴブリンたち。

 浅いところでは何体か殺せばビビったのか襲ってこなくなったけど、奴らの縄張りに入ってしまった以上、向こうには後がないのだ。

 師匠やルーテリッツさん、メアリーが火事や大きすぎる自然破壊にならない程度に気を遣いながら魔法火力で薙ぎ払い、僕とリディが前衛に出て斬り捨てる。

 百匹までは数えていたけど、その先は覚えてないし、思い出したくもない。

 弱すぎて何の足しにもならない連中を、何が悲しくて斬り続けねばならないのか。

 魔法的処理があるから武器は問題なくとも、体力や精神力の面ではもちろん限界がある。

 ギルドはボーナスを奮発してくれたけど、別にお金に困ってない僕らにとって、慰めにもならない。


 それでも、『至高の斬撃』のためには一日たりともサボれない、との一心だけで頑張って起きたのだ。

 ただ、同じく疲れ果てていた師匠やリディが起きてくるかは未知数だけど……。


 とにかく、僕は僕にできることをやるしかない。

 だから、近所を散歩でもして気分転換をしようと玄関前に居たわけだ。


「失礼。ここは、ブレイブハートのパーティホームで間違いないですかな?」


 そうでなければ、声を掛けてきた細身の中年男性を筆頭とする、朝も早くから尋ねてきた非常識な一行の相手をするのは、家のことを任されているニーナだっただろう。


 ……いや、話しかけてきたおじさんを始め、他の八人の疲労や汚れ具合を見る限り、夜通し移動してここまで来たのか?


「えっと、そうですけど」


 そう答えれば、にわかに湧き立つ。


 そこまで差し迫った用事でもあるのだろうか。

 いやでも、冒険者が必要な事態なら、近くのギルドに駆け込めば相応のパーティを紹介してもらえるはず。

 なら、メンバーの誰かの個人的知り合いか?


「もう一つお尋ねしたいのだが、『銀狼』さまは――」


「朝っぱらから玄関先で何やってんのよ」


 さっきのおじさんが口を開いたところで、眠たげな目をこすりながら出てきたのはリディだ。


「あ、ちょうど良かった。リディ、この人達、ウチに用事があるみたいなんだけど――」


「く、クロエさま! お久しゅうございます、クロエさま!」


 僕よりもずっと長くブレイブハートに居るリディに相談しようとすれば、そのリディに揃ってひざまずく来客一行。

 ……なんかこう、訳が分からなすぎて、ただでさえ疲れている頭を使うのが馬鹿らしくなってくるんだけど。


「何よあんたたち、朝っぱらから。そもそも、あたしはリディエラ・ヤクサであって、クロエなんて名前じゃないわ。人違いよ、人違い」

「ヤクサ……今はそう名乗られているのですね」

「今はも何も、あたしは昔から、『リディエラ・ヤクサ』よ」


 呆れたようなリディの言葉に、おじさんが返したのは笑顔。

 ただし、それは温かみを感じるようなものじゃない。

 本能的な気味の悪さを感じさせる、そんな歪んだもの。


「いいえ、姫様。その銀色の髪は、間違いなく父君の、伯爵さまの血統のあかし。そして、そのお顔立ちは、まさに母君の生き写しです。間違いなく、あなたはクロエさまです」

「お父さんと、お母さん?」


 リディが息を飲む。

 彼女には、心当たりのある話なのか?

 でも、困惑してるようにも見えるけど……。


「本当に、あんたたちは、あたしのことを知ってるの?」

「ええ。もう十年以上前、母君と共にクロエさまもお亡くなりになられたとばかり……。お迎えが遅くなってしまい、申し訳ありません。我々は、先日亡くなられた父君にお仕えしていた者どもです。このたびは――」


「さっさと家に入りなさいリディ。ミゼル君も」


「あ、せんせ……い?」


 玄関に現れ、僕らの後ろから声を掛けてきたのは、師匠。

 その表情は獰猛どうもうなまでの興奮を隠す気もない笑顔だと言うのに、なぜか声だけは冷え切っている状態。リディの言葉が不自然に途切れたのも仕方のないことだろう。

 自然、この場に居る師匠以外の全員が、誰に言われるでもなく背筋を伸ばしている。


「あの、でも、先生。この人たち、あたしのお父さんとお母さんのことを知ってるって言ってるし……」

「リディのご両親のことが知りたいなら、あとで俺が教えてあげよう。だから、そこのクズどもから早く離れるんだ」

「剣術指南役殿、久しぶりの元同僚に手厳しい限りですな。我らはただ、クロエさまに、しかるべき場所に帰っていただこうというだけのことです」


 師匠は、答えない。

 笑みを浮かべたままにを進め、その右手で腰のものを引き抜いて……。


「待って! 待って師匠! 斬るのはマズいです! ちゃんと隠ぺいの準備をしてからじゃないと、今度は冤罪じゃなくぶち込まれますよ!? てか、リディも手伝って! 僕一人じゃ、動きを止めきれないんだけど!」

「放せ! 俺の弟子なら、放せ! 彼女・・が死ぬのを大喜びで見てただけの連中が、今度はリディまで死地に追いやるつもりか! 昨日の今日でこっちも疲れてるところに、良い度胸だ! ぶっ殺してやる!」

「パパ……えっと、その……」


 誰か、朝一番の住宅街の玄関先で九人ほど斬り殺して、完全に隠ぺいする方法を知りませんか!?





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