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異世界白刃録 ~転生先で至高の斬撃を目指す~  作者: U字
第一章 そして白刃に魅入られる
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第七話 ~帝都騒乱~

「『ソウルイーター』、ですか?」

「そそ。古代の遺物にして、最悪の魔剣。ただの一本で国一つを滅ぼしたこともある超兵器。その中の一振りで間違いないと思うわ」


 日が落ちゆく帝都。

 僕たちは、パーティホームである武家屋敷の屋根の上にいた。

 真ん中にアイラさんで、右に僕、左にリディエラさんが、夕陽を右手に座っている。


 夕方、黒のローブに金属製の杖を持って現れたアイラさんの、「騒ぎがあったとき、ここの方が分かりやすいもの」との一言で、早めの夕食を済ませて屋根の上ここにいる。


「こんなところにずっといたら、それだけで体調を崩すじゃない!」

「大丈夫よ。今まで敵が出るときは、日が暮れてそう遅くない時間には動き始めていたもの。適当な時間になったら引き上げれば問題ないわ。――それに、おねーさんは、じっとしてる性分じゃないの。少しでも状況を早く掴めるところにいないと、落ち着かないのよねぇ」


 この会話が決め手となって、作戦会議中というわけである。


「倒した敵の魂を喰らって、力を増すんだっけ? あたしには、どう考えても軍を動かすような事案に聞こえるんだけど?」

「そんなこと、みんな分かってるわよ。でも、流石さすがに確証がない状況じゃ、警察省もそう簡単には帝都警備隊の領分に軍を入れないわ。今回簡単に認めて変な先例になったら、次に軍が介入を言い出した時に、断れなくなるもの」


 前世のニュースを見ていても思ったことがあるが、本当に、政治ってものは面倒くさいらしい。僕としては、出来れば一生関わり合いになりたくないものである。


「それじゃあ、話を続けるわね。昨日の戦いを皇帝陛下の相談役殿に報告して聞いてきたんだけど、あのソウルイーターは、特に厄介な上位の部類らしいわ。本体のソウルイーターと特殊な繋がりを持たせた剣を『子』として、魂を喰らいつくした死体に持たせるらしいの。で、その『子』を経由して、死体に魔力を送ったり、『子』が殺した敵の魂を本体が吸い上げるの」

「あの、それってまずくないですか? 少なくとも帝都で殺人を繰り返してきた半年間、時間と共に魔力収集の効率が上がり続けてるってことですよね?」


 ああ、僕の言葉を聞いたアイラさんの笑顔が痛い。


「本当に、政治って面倒よね。まあ、だからこそ、警察省がギリギリ見逃せる程度の戦力で、おねーさんたちが動くのよ。『たまたま』完全武装で歩いていた近衛騎士たちが、『たまたま』完全武装で歩いていた冒険者たちと共闘して、『たまたま』ちまたを騒がせる殺人犯一味を捕えるの」

「で、その建前に民間人を巻き込むって? 本当に、公務員ってのはバカばっかなのかしら」

「こういう話は、別に公務員には限らないわよ? ただ、規模が大きいし、民間団体の内部事情に比べて一般人にも関係することが多いから目立つだけよ。――そういうわけで、民間人な上に、どこの役所とも繋がってない。しかも、並みの近衛騎士よりも腕の立つあなたたちには期待してるから、よろしくね」


 状況は何となく分かった。

 とにかく、出来るだけ関わらないようにして、師匠の救出はアイラさんたちに任せよう。僕たちが首を突っ込んでも、どうにか出来る気がしない。

 やるべきことだけを果たすのだ。


「それで、アイラさん。その不死身の敵を打ち倒す策って、どんなものか聞かせてもらえますか?」

「そうそう、それね。やることは単純よ。私を含めた後衛がデリグの魔力を闇魔法で一時的に吸い尽くすから、あなたたちが回復する間もなく斬り殺して、ソウルイーターを持ち主と引き離してちょうだい」

「それだけで何とかなるの? 昨日の戦いを見てる限り、それくらいだと、次の瞬間には普通に立ち上がりそうなんだけど」

「いくら古代の超兵器でも、所詮は剣だもの。流石さすがに、回復する間もなく使い手の息の根を止めて引き離せば、なんとかなると思うわ。と言うより、それでダメなら打つ手なし、ってところは相談役殿も同意見だったわ」


 引き離すしかない?

 いや、そうではないと思うんだが。


「アイラさん。引き離してダメでも、剣を破壊すれば良いんじゃないんですか?」


 そんな問いかけに、困ったような表情と共に答えが返ってきた。


「おねーさんもそれが一番だと思うんだけどねぇ。相談役殿いわく、ただ多量の魔力を溜めこむだけで、それが一つの防御層として機能するらしいの。殺された人数からの見立てだと、戦闘での消耗分を考慮しても、破壊にはまず確実に国家事業クラスの手間と時間と費用が必要らしいわ」


 確かに、それでは引き離しても立ち上がられたらどうしようもないわけだ。


「って、そんな厳しい戦いに、作戦を聞く限りは、前衛が僕ら二人みたいに聞こえたんですけど?」

「いやぁ、おねーさんも申し訳ないとは思うんだけどね。あなたたちよりも強い前衛なんて、黒竜騎士団どころか近衛軍全体で見ても主力級になっちゃうの。で、私も含めて二人も主力級が出ると話をまとめにくいのよ。だからって私がいないと、そもそもソウルイーターの魔力を吸い出して一時的にデリグの回復を止めるために、とんでもない数の魔法使いを用意しないといけないのよね」

「……ねぇ、ストーカー女。あんたたち、勝つ気あんの?」

「リディちゃん。大人になるって、こういうことよ」


 キリッとした顔で、なかなか悲しくなる発言である。

 色々と不安になってきたが、師匠のためにも降りるわけにはいかない。


 そんな風に覚悟を決めなおしていたときのことだった。


「ミゼル、ストーカー女。火の手が上がったわ」

「ふうん。今回は随分と派手ね」

「とりあえず、他の方々と合流する準備をしておきましょうか」


 そうして全員が立ち上がったときだった。


「……ねえ。あたしには、追加で三か所ばかり燃え出したように見えるんだけど」

「そうね。さらに四か所足しておいて」

「残念ですけど、もう二か所追加です」


 思わず三人で顔を見合わせた。

 いくらなんでも、これは派手すぎではないだろうか、なんて思いを引きつった笑顔で共有しているときだった。


「小隊長、ご報告に参りました」


 その言葉と同時にリディエラさんが抜刀し、切っ先を突きつける。


「ちょっと待って! 彼女はウチの騎士団の斥候だから! 気配を消してたのも、風下からきたのも、職業病だから!」


 リディエラさんの殺気を浴びても平然と立っているその人物は、若い小人族の女性だった。

 おそらくは街に溶け込むための普段着がべっとりと濡れて……。


「って、この臭いは血ですよね!? 大丈夫ですか!?」

「こんな格好で失礼します。急ぎだったもので。――ああ。すべて返り血ですから、ご心配なく」


 斥候は、どう考えても積極的に戦闘をする仕事ではない。

 それが返り血を浴びると言うのは、かなりマズいのではなかろうか。


 リディエラさんが刃を下ろしたのを確認して、アイラさんがさっそく口を開いた。


「とにかく、報告をしてちょうだい。この大騒動は何ごとなの?」

「帝都内の目ぼしい軍・警備隊の駐屯地に、同時襲撃です。私が報告のために出たときにはどこも防衛線を維持していましたが、火の手まで上がるとなると、劣勢の戦線も少なくないようです。敵を避けようと遠回りする間に、かなり戦況が悪化したようですね」


 それを聞いたアイラさんは黙り込み、斥候の女性は無表情に立ち続けている。


 そして、見るからに忍耐の限界が近づいているリディエラさんが、目のつり上がり具合を二段階ほど上げたころ。


「こっちは軍務省に行く。あなたは、部下を使って引き続きデリグの居場所を探して。これからの報告は、軍務省まで来て」

「了解しました、小隊長」


 それだけの言葉を交わすと、女性は駆け出して行った。


「あの、アイラさん。時間がない中で聞くのもアレですけど、近衛騎士なら、宮殿とか近衛騎士団の駐屯地じゃないんですか? 軍務省に行っても、部外者が相手にしてもらえるのでしょうか?」

「中央官庁街は帝都の中央部にあるからどこにでも動きやすいし、警察の領分を超える事態には軍務省に情報が集められるのよ。そして、近衛騎士は宮内省の管轄かんかつだけど、全員が軍務省からの出向だからね。身内なら、そう悪い扱いはされないわ」


 その返事を聞き、アイラさんを先頭に軍務省へと駆け出した。

 閑静な住宅街を駆け抜ける間も、すっかり日が沈みきったはずの空に赤い光が映し出されるのを見ながら、気ばかりが焦る。


「前方に敵! 数は七! まともに相手してもキリがないわ。一気に駆け抜けて! 『闇よ、我が敵をむさぼり尽くせ「吸収アブゾープション」』」


 そうして崩れ落ちた敵に脇目も振らず、駆け続ける。

 すでに死んでいるもの相手に戦っても、こっちが消耗するだけ。

 おそらく、劣勢になっている戦線も、その終わりの見えない戦いの前に耐えきれなかったのだろう。


 そうして駆け続けて周囲の建物が随分と大きくなってきたころのことだ。

 目の前の状況を前に、自然と三人分の足が止まった。


「どうすんの? これを迂回するなら、かなり遠回りになるわよ」


 大通りの全域を使った乱戦。

 帝都警備隊とデリグの放った『子』らとの戦いは、双方合わせて数百規模であることは分かるものの、入り乱れすぎて戦況がまったく分からない。

 でも、時間が経てば帝都警備隊の持久力が先に切れるのは明白。

 数百人分の魔力が吸われ、数百の兵力が自由になる。どう考えても悪夢だ。


「迂回? その必要はないわ」


 そんなアイラさんの言葉に、あの乱戦に突っ込む気かと正気を疑ったときだった。


「おう、昨日の連中じゃねぇか。奇遇だな」


 後ろから現れたのは、僕たちが何よりも探し求めていた存在だった。


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