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異世界白刃録 ~転生先で至高の斬撃を目指す~  作者: U字
第七章 帝都での日々Ⅱ
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第七章第一話 ~風邪っぴきのリディさん・上~

 平和である。

 実に平和である。


 僕が空回って勝手にちょっとした騒動にしてからしばらくの良く晴れたとある朝。

 師匠やメアリーとちゃぶ台を囲み、のんびりと朝食を待っていた。


 ルーテリッツさんは、昨日の夜から居ない。

 何でも、共同で書いてる論文が大詰めらしく、母校の魔法学院にしばらく泊まり込むらしい。

 あの引きこもりが本当に来てくれるのかって、ウチにそのルーテリッツさんの論文仲間の女性たちが来たりもした。それだけ驚かれるくらい、ルーテリッツさんも頑張って変わったんだなって。

 ただし、驚いてウチに来た人たちに、当のルーテリッツさんが一番過剰に反応してたのが心配だけど……まあ、彼女たちも魔法学院入学から引きこもり時代を通じての付き合いらしいし、何とかなるだろう。


 てか、リディのやつは何をやってるんだか。

 朝練の後、いつまでってもやってこないのだ。

 ニーナが呼びに行ったんだけど、わざわざ手間をかけさせるなってんだ。


「たたたた、大変!」


 そんなところに、我が妹メイドことニーナが居間に駆け込んでくる。


「どうしたんだよ、朝から騒がしい」

「たた、大変なんだよ、お兄ちゃん! リ、リディお姉ちゃんが倒れてる!」


 緊張が走る。


 そりゃそうだ。思いもよらない大事件じゃないか!


「ニ、ニーナ! な、何があったんだ!?」

「熱がすごくて、風邪だと思うんだけど……」

「「いや、バカは風邪なんかひかないから」」

「お義姉ちゃんの頭が飾りなこととぉ~、風邪をひくかってぇ~、何か関係あるのぉ~?」


 猫被りメアリーさんの結構失礼とも思えなくもない突っ込みにでなく、こっちを見て驚く師匠。


「久しぶりに確認するんだけどさ、ミゼル君って、帝国生まれの帝国育ちなんだよね? 実はヤマト育ちですとか、ヤマトの人と暮らしてたとかないんだよね?」

「え? あ、はい」


 危ねぇ……。

 『バカは風邪をひかない』って、帝国の言い回しじゃなかったね。

 まあ、どれだけ調べても僕の経歴はきれいなもんだから、好きなだけかぎ回ってくれてもいいんだけど。


「とりあえず、リディの様子を確認しないと」


 そんな師匠の当然の意見を受けて、一同でぞろぞろとリディの部屋へ。


「うぅ~ん……」

「これは確かに……。さっきの鍛錬で、最後の力を使い果たしたかな?」


 師匠がそう見立てるのは、自室で布団に寝かされるリディ。

 本当に部屋の真ん中でぶっ倒れてて、最初はもう焦ったものさ。


 それにしても、これだけ酷い状態で僕にも師匠にも不調を気付かれなかったリディの気力は、称賛に値すると思う。


「で、メアリー。どうなんだ?」

「えっとぉ~、わたしにはどうしようもないんだぁ~」


 『水の癒し手』なんて呼ばれるブレイブハートの回復役さんは、申し訳なさそうにそう言った。


「水属性の回復ってぇ~、傷を塞ぐ方面に特化してるんだぁ~。病気とか体調不良なんかはぁ~、光属性の分野なんだよねぇ~。普通に看病するしかないんじゃなかなぁ~」


 だから、分からない。

 自分が役立たずなことが一番悔しいのは、メアリー自身だろう。

 お義姉ちゃん大好きっ子なのに、苦しむ義姉に何もしてあげられないんだから。


「とりあえず、おでこを冷やして、薬を飲ませて、安静かな。今日、俺は外せないギルドの会合があるから、何かあったらいけないし誰かに見ててもらわなきゃいけないんだけど――」

「あ。じゃあ、私が看病します」


 そう言って名乗りでたのはニーナだ。


「でも、ニーナ。お前、今日はお休み貰って出かけるって言ってたよな?」

「あー、そうだよ、お兄ちゃん。牢友のみんなとね」


 てへへ、なんて気まずように笑ってるのは一度置いておこう。

 何か、訳の分からないフレーズが混じってるんだけど。


「牢、友……?」

「うん。ほら、私が誘拐されたとき、同じ牢屋に居たたち。牢屋で出来た友達だから、牢友!」


 楽しそうに語る様子を見て思う。


 ああ、年上から幼女まで十人ちょっと居た、みんながニーナを『ニーナさん』とか言ってた危ない集団ですね。

 お兄ちゃんとしては引き剥がしてやりたいとも思うけど、楽しそうに語る友達と遊ぶのまで干渉するのはなぁ……。


「よし、分かった。お兄ちゃんに任せなさい!」

「え?」

「僕たち・・が、リディの看病をする!」


 てっきり喜んでくれると思えば、妹から帰ってくるのは、なぜか不安げな目。


「お、お兄ちゃん? おじいちゃんが風邪ひいた時も、おばあちゃんの時も、お父さんの時も、お母さんの時も、「修行だ!」とか言って剣振ってたお兄ちゃんに、看病とかできるの?」

「まあ、任せとけ。寝込むことにはちょいと詳しいんだ。それに、うちのパーティの回復役も今日は用事がなかったし」

「え? ……そうだねぇ~。魔法は役に立たなくてもぉ~、看病は頑張っちゃうよぉ~」


 メアリーのやつだって、家族大好きっ子だ。

 適当に話をふってやれば、やる気十分な返事をしてくれる。


 で、師匠とニーナを見送り、メアリーと二人で居間で向かい合う。


「で、自信満々な二番弟子様。看病って、どうするの?」

「ふっ。僕に任せておけ」


 なんせ、前世では駆け回ることもできない虚弱体質。

 ぶっ倒れて寝込むなんて、日常茶飯事だったからな。


「で、具体的には?」

「そうだな……」


 あれ?

 え?

 何か記憶をあさっても、病院に叩き込まれてた記憶しかない……?


「えっと、……まず救急車を呼ぼうか」

「救急車ってなに?」


 くっそ!

 え? 倒れたら即病院!? 冷静に思い返してみれば、そこまで弱かったのか、僕! 一度くらい、家で看病されろよ!

 まさか、虚弱体質が故に足をすくわれるとは……。


「話が違うじゃない! 使えないな!」

「うるせえ! 風邪の治療一つできない回復役が何を偉そうに! 文句があるなら、智恵の一つでも見せつけてみやがれ! 女子力的なサムシングを見せてみろよ!」

「え? ……あー、うー、そのー……あ、あれでしょ? まずは、食糧の分配を止めて――」

「家なし孤児だったころの、野生の孤児力とか求めてねぇよ! 義姉の生存に早々に見切りをつけて、周りだけで生き残りを図るんじゃねえよ!」


 役立たず二人が残ってしまった現実を共有したところで、とりあえず二人で頭を抱える。


「あれだ。僕たちの頭は飾りじゃない。考えよう。考えるんだ」

「うん」


 そうして、二人してうんうん考え続ける。


 そう時間が経つ前のことだ。


「……そうだ」

「何か思いついたの!?」


 ヤバい。

 何がヤバいって、僕、天才かも知れない。


「宴会芸をやろう」





今回の敗因→「お兄ちゃんとして、何かやって・・・・・良いところを見せなきゃ!」とかいう邪念

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