表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界白刃録 ~転生先で至高の斬撃を目指す~  作者: U字
第一章 そして白刃に魅入られる
7/104

第六話 ~決戦はすぐそこに~

 構えは中段。

 眼前に立つはデリグ。

 敵の巨体は、向こうの武器である大剣の間合いの一歩外。

 攻めあぐねる僕と、笑みを浮かべて悠然ゆうぜんとしているデリグのにらみ合いは、どれほど続いただろうか。


 状況を動かしたのは、僕だった。

 間合いに踏み込み、一気に駆け抜ける。

 そこに放たれるのは一閃。右手の大剣が、右から左にするどく振りぬかれる。

 それに対して、間合いは取らない。先の戦いをなぞるように、死線の下をくぐり抜ける。

 そのまま一撃――と思ったところで、みぞおちに蹴りが叩き込まれた。


 地面を転がり、すぐに立ち上がる。

 流石に、同じ手は二度も通じないか。

 追撃をかけられたら敗北。すきを見せるわけにはいかないと、とにかく立ち上がって、敵がいると思った方向に構える。


「――ル」


 構えは上段。

 状況を変えて流れをつかもうと、攻撃的にいくことにする。


「――ル!」


 そして顔を上げると、そこにはニヤりと笑うデリグの顔。

 そうだ。今回は、振りぬいた手を使わずに僕を迎撃したから、すぐに攻撃に移れるんだ。

 そのまま、無防備な脇腹に、振り切ったところからの切り返しの横薙よこなぎが吸い込まれ――


「さっさと返事しなさい! ミゼル!」


 目の前に星が飛んだ。


 幼き日に師匠から受けた脳天への見事な一撃を思い出させる拳に何事かと周囲を見れば、そこには、背後に悪鬼でも背負ってそうな恐ろしい形相のリディエラさんが。


「いきなり、なんですか? 僕、イメージトレーニング中だったんですけど」


 朝日差し込む縁側。

 アイラさんと話がついてから、一夜が明けている。

 僕は、刀を脇に置き、あぐらを組んでイメトレにはげんでいた。


「あのねぇ、さっきから何回も呼んだわよ。億単位の借金背負ったパーティにタダ飯を要求するバカじゃないんだったら、朝ごはんの準備を手伝ってもらおうと思ってね」


 ジト目で見下ろすリディエラさんを見ながら、そういえばそのあたりにまったく気が回らなかったことにようやく気付いた。


「申し訳ありません。それで、何を手伝えば良いですか?」

「台所でナベに水をくんで、かしておいて。ナベは出してあるし、水は八割くらい入れてくれればいいわ」


 「了解しました」と元気よく歩き出したのだが、一歩目から肩を引っ張られて出鼻をくじかれる。


「待て待て待て待て!」

「ちょっと、なんですか?」

「ちょっと、じゃないわよ! あんた、どこに行こうとしてるのよ?」

「え? お借りしてる客間ですけど?」

「いや、なに当たり前みたいな顔してとんでもないこと言ってんのよ! さっさと台所に行って、お湯かしなさいよ!」

「だから、かしますってば」

「だったら、何で部屋に戻ろうとするのよ!」


 ……ああ。リディエラさんは、師匠から聞いていないのか。


「僕、魔法がまったく使えないので、火打石を使わないと火の魔石に着火できないんです」

「……は?」

「僕の魔法適正を計測してくれた司祭さまも、おんなじ顔でしたよ。何でも、魔力そのものは人並みよりもとてつもなく多いそうなんですが、精霊愛され度が『測定不能』レベルの低さらしいんです。なので、どれだけ魔力を込めても、まったく反応しないんですよ」


 思った通り、リディエラさんは頭を抱えている。

 司祭さまによると、生活魔法すら使えないなんて前代未聞らしいし、家族や故郷の村人なんかで何度も見慣れた光景だ。

 僕だって、剣に生きると決めてなければ、絶望して引きこもっていたかもしれない。

 なにせ、ファンタジー世界でただ一人だけ魔法が使えないのだ。本来なら、その衝撃は想像を絶するものだっただろう。


「本当に、生活魔法すら使えずによく今まで生きてきたわね」

「いやいや。火の魔石は火打石で無理矢理使えますし、他の魔石や生活魔術なんて、なくても何とかなりますよ。水の生活魔法は効率が悪すぎて水の魔石の起動くらいにしか使えませんし、その水の魔石は高価すぎて個人で使うものじゃありませんからね。他だと、光の生活魔術はあれば便利ですけど、火で代用できますし。光の魔石は大都市の街灯か金持ちのお屋敷の照明くらいで、一般人には縁がありませんから――他も、なくてもちょっと不便なくらいですよ」


 一般人が使っているのなんて、比較的安価な火の魔石くらい。

 深い水底みなぞこでしか採れない水の魔石は、採掘が難しく、国主導で掘り出して大都市の水道への給水用でもないと採算が取れない。個人利用なんてもってのほかで、旅では水筒に水を入れて持ち歩くのが普通だ。

 光の魔石は単純に採掘量が少なく、金持ちの道楽か、国家主導の事業でもないととても使えない。


 結局、少々の不便を我慢すれば、普通に生きるくらいはできるのだ。


「まったく、あんたって本当にとんでもないやつね。恐ろしく剣術が強いかと思えば、生活魔法すら使えないって。生活魔法しか使えない適正Fって、『魔法が使えない』なんて表現されるのよ? あんたのことは、何て呼べばいいのよ……」


 呆れているリディエラさんだが、彼女はどれくらい魔法を使えるのだろうか。

 師匠は、平然とどの属性もD~C相当の中級魔法を使っていたし、リディエラさんも思いのほか使えるのかもしれない。


「リディエラさんの魔法適性って、どれくらいなんですか?」


 なぜか固まる目の前の少女。


「な、なんで、い、言わなきゃなんないのよ!」

「いや、一緒に戦うんですから、味方の戦力はできるだけ把握するべきでしょう? ですから、威力と使える魔法等級の限界の目安の適正だけじゃなくて、実際にどのレベルまで覚えているかもお願いしますね」


 視線が彷徨さまよい、しっぽが激しく上下し、大きく息をいて。

 それだけやって、ようやく口が開かれた。


「ひ、火が両方E……」

「ほうほう。それで?」

「……」

「えっと、良く聞こえないんですが?」

「水も風も土も雷も光も闇も、他は全部Fよ! 何か文句ある!?」


 ウガーッなんて叫び声が聞こえてきそうなリディエラさんをなだめながら考える。

 人族の平均では、二、三属性がEランクで残りがFあたりだそうだ。

 でも、獣人族は一般に魔法は苦手と言われているから、平均値も低いのかもしれない。

 ……にしても、反応を見る限りは、それでも低いのかもしれない。


 それから少しして、何とかリディエラさんを落ち着けて、朝食の準備にかかることにした。

 その時だった。


「あんた、本当に戦うの?」


 立ち去ろうとする僕の背に、そんな言葉が投げられる。


「あのストーカー女がどんな策を使う気か知らないけど、『不死身』の相手なんてロクなものじゃないわ。部外者が気軽に首を突っ込まないで。半端な覚悟しか持たずに物見遊山ものみゆざん気分で来られても、迷惑なの。これは『ブレイブハート』の問題であって――」

「ああ、本当に師匠の言うとおりでした」

「え?」

義娘むすめが随分と捻くれて育ったって、嘆いていましたよ。今のも、分の悪い戦いに巻き込まないようにって、優しさなんでしょう?」

「なっ……!?」


 振り向いてそんな言葉を返せば、しっぽが逆立って真っ赤になった少女が、あわあわとしている。

 本当に、あんなきつい言い方をして優しさは分かりにくいのに、他の感情は随分と分かりやすいものだ。

 確かに、義父親ちちおやとしては、嘆きたくもなるだろう。


「僕だって、師匠の弟子です。無駄死にする気はありませんが、最後まで戦いますよ。――まあ、リディエラさんの気持ちだけはありがたくいただいておきますね」


 まだ真っ赤なリディエラさんを置いて、再び歩き出す。


 夕方にはアイラさんが来て、うまく敵を見つけられるなら今夜には決戦だ。

 少なくとも、決着がつくのはそう遠くないはず。


 両頬を叩き、改めて気合を入れなおした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ