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第五話 ~それでも、この道を進むから~

活動報告に書いていたアレコレが続き、すっかり遅くなってしまいました。

トラブルで先に予告した日よりも投稿が遅れ、申し訳ありません。

 朝である。

 さわやかな朝である。


 タリアさんを救うための根回しを昨日無事に終えた僕は、今日からどう動くべきかを考えながら、中庭へいつものように朝の鍛錬たんれんにやってきていた。


「で、なんでメアリーが居るんだ? てか、師匠が居ないんだけど」

「あたしが頼んだのよ。あんたとサシでやり合うためにね」


 縁側でメアリーがお茶をすすり、鎧を着ずに木刀を二本持つリディと、言われるままに丸腰で羽織袴に身を包む僕が近距離で向き合っている。


「なんだ? ついにどっちが強いか決めたくなったのか?」

「そんなことする気はないわよ。普通の手合せなら・・・・・・・・、私が六割方勝つし。今日は、言葉じゃどうにもならないバカの体に教えに来たの」


 そう言うや、木刀を一本投げてよこされ、思わず受け取ってしまう。

 何がなんやら分からずにメアリーを見れば、いつもの『仮面』の笑顔と共に、親指を立てるとの力強いお答えが。


 「治療は任せろ!」ってことか。

 間違っても、「骨くらいは拾ってやる、安心して討ち取られてこい!」ではないだろう……たぶん。


 そうして戸惑っていると、木刀を中段に構えたリディが口を開く。


「一応聞いとくわ。あんた、最近何をコソコソしてるの?」

「それは、僕が解決するべきことだから」


 この質問が飛ぶってことは、ゴンベエさんは本当に僕のやろうとしてることを報告しなかったのか。

 もしくは、報告したけどアイラさんか師匠で止まってるか。

 リディが嘘をついてて実は知ってるってことはないだろう。メアリーならともかく、リディは色々と分かりやすいから。


 そんなことを考えながらの返答半ばで、リディが不意に突っ込んでくる。


 持ち前の圧倒的なスピードと加速性を生かし、たった一歩でほとんど最高速度に乗ると、そのまま右手に木刀を持って地をうような姿勢のままに間合いが詰まる。


 数歩で届くくらいしか間合いがないような近距離で、スピード型のリディに先手を取られたら、考えていては対応できない。

 気付いた時には、リディの右手から放たれる下からの斬り上げに対して、握りも適当なままにとにかく木刀をぶつけていた。

 このまま鍔迫つばぜり合いにはならず、リディはすぐに木刀を引っ込めると僕の左側を駆け抜け、互いに中段に構えて向き合うことに。


「あんた! 精神がボロボロのクセに、なんでさっきのに対応できるのよ!」

「知るか! そもそも、ボロボロじゃねぇよ!」

「ふん。マトイ・ヤクサに同類だって言われたの、気にしてるくせに」


 ……なんだって?


「気にしてない! 僕は、強さのために親すら殺したあの女とは違う!」

「いいえ。あの女の言ったことは、あたしも間違ってないと思う。けど、根本が同じでも――」

「だから、違うって言ってるだろ!」


 気付いた時には、上段に振りかぶった木刀を振り下ろしていた。


「あたしでも気付けることに気付かないなんて、あんたも落ちたものね! そもそも、あたしがあんたに口だけでどうこう出来るはずがなかったのよ。もう十分我慢したんだから、文句言わないでね? まずは、話を聞かせるためにぶっ潰してあげるわ!」


 とっさの一撃は地をり、飛び下がったリディがさっきまでいた場所に土煙が立った。


 今ので少し頭が冷えたけど、時すでに遅し。

 殺気まで放つ少女剣士は、完全に最後までやり合うつもりみたいだ。


「ここまでされたら、遠慮はいらないわよね? ――死なないように、頑張りなさいよ」


 そのまま一気に駆け出して僕を間合いに捉えると、勢いのままに突きの一撃。

 こっちも戦闘用に切り替わった意識で状況を把握し、刀身を横から斬りつけることでその剣先を横にらす。

 そのまま姿勢を崩した体に一撃叩き込んで戦いを終わらせようとして――慌てて後ろに距離を取ろうとした僕の眼前を、剣圧がでた。


「突きを払われて、強引に剣を戻して横薙ぎか……凄いな」

「完全に前のめりの攻撃態勢になってから気付いて後ろにかわして、姿勢の一つも崩さなかったバケモノに言われると複雑ね」


 これ以上の言葉は必要ない。

 リディがまた動き、僕は待ちに徹する。


 そもそも、リディの得意なスピード勝負に乗ってやる必要はない。

 どれだけ早くても、剣の間合いに入らなければ攻撃は当たらないのだから。


 そうして、真っ向から突っ込んでくる銀髪犬耳娘を、こっちも真っ向から迎え撃つ。

 だからって、馬鹿正直に大きく振りかぶってやったりはしない。


 狙うは、右手。

 中段の構えから小さな振りで打ち、斬りつけようと振りかぶっていたところで木刀を弾き飛ばす。


「何を終わった気になってんの?」

「え?」

「これは、手合せじゃないの。あんたに話を聞かせるために、あんたをぶっ潰すための戦いなのよ!」


 言いながらリディはもう一歩踏み込んで僕を徒手空拳の間合いに捉えている。

 拳が来るのかと警戒しようとすると、なぜか頭の両側を掴まれ、段々とリディの顔が近づいてきて――


「ぎゃあ!?」

「ハッハー! どう、動けないんじゃない? あたし渾身こんしんの頭突きをまともに受けたんだからね!」


 視界が揺れ、木刀を杖代わりにしても片膝をつく。

 頭を強く打ったし、後でメアリーにてもらわないと……。


「どう? お話してくれる気になった?」

「却下。それは、僕の問題だから」


 何より、転生云々を言えないだけでなく、むやみに言ってほしくないってタリアさんの『思い』もあるから。


「……ふん」


 胸ぐらへと伸ばされる手に、これは死んだかもって覚悟を決めていた時だった。


「何?」

「えっと……その……」


 ルーテリッツさんが、リディの手を両手でつかんで止めている。


「放して。別に殺したりしないし、そろそろこいつはここで助けてやらないとダメなの」

「だ、大丈夫……大丈夫、だから……」


 視界が揺れて確認しにくいけど、ルーテリッツさんの言葉に、リディは難しい顔で不思議そうに首をかしげている。


「彼、は、そんなに弱くない……と、思う……」

「だからってねぇ……」

「それに、これ、は、私でも感じる・・・くらい、迷う、こと、みたい、だから。彼自身が、答えを見つけないとダメ、なの……きっと……」


 しばらく沈黙が続き、リディとルーテリッツさんが離れる。


「分かった。ここは引き下がってあげる。――良い? あんた、またあたしが我慢できなくなる前に何とか解決するのよ? とりあえず、メアリーにてもらうところからね」


 意識こそ残ったものの、そこで限界を迎えた僕は地面に寝っ転がることに。


 なお、メアリーの診察の結果、頭はすっきりしたけど、治療中にまったく攻撃を受けてないあたりをさり気なく痛めつけられまくったのは必要なことだったんだって信じておくことにする。





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