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第六話 ~死せる街の片隅で~

(色々な意味で)テストが終わって帰ってきました!

約一ヵ月ぶりということで、本章を箇条書きでまとめておきます。


あと、前章の最後にある『登場人物等まとめ』も参考にどうぞ。


・マトイって名前の女サムライが、デリグ(第一章ラスボス)が公開処刑される日の未明に、帝都郊外の監獄最深部で二人が出会ったよ! サラとかいう、監獄丸ごと呆けさせて無力化するヤバい剣の使い手が立ち会ってたよ! サラはマトイにめっちゃ懐いてるよ!

・その日の朝、新聞にデリグ変死の件が載ったよ!

・でもミゼル君周辺はいつも通りで、キラービーの巣を狩りに森へ行くことになったよ!

・不運な事故で迷子になったよ! 正体不明()の女サムライに助けられたよ! なんか年上爆乳魔女さんは敵意満々だよ!

・帰ったら、師匠のお姉さんが剣に狂ったヤバいやつだって教えられたよ! しかも、アイラさんの父親の仇で、師匠は彼女を殺すまで故郷に帰れないよ!

・まだマトイ・ヤクサを倒せるとも決まってないのに、メアリーさんが勝った後のために覚悟を決めたよ! 正直、重い話すぎてミゼル君は聞いたことを後悔したよ!

・突然師匠が帰ってきて、重い空気から救われたよ! でも、急にみんなが動かなくなったよ! ←今ココ





「みんな、本当にどうしたんだ……?」


 声を掛けても、肩を揺すっても、何も反応がなく、だた呆けたまま、虚空を見つめるだけ。

 そんな状態になってから、まだそう時間は経っていない。

 けれど、どれだけ声を掛けても正気に戻らないとの状況の異常さが、僕の焦燥を煽る。


 原因が分からない以上、声を掛け続ける以外にどうしようもない。

 思い当たることと言えば、こうなる直前、全身を覆うように何かが這い回るような感覚があったこと。

 だけど、じゃあなんで僕だけが無事なのかとか、そもそもアレが何なのかが分からないとか、とてもじゃないけど情報が足りなすぎる。


 とにかく、今は声を掛け続けてみる。

 もう少ししても変化がなければ外の様子を見に行ってみようかと思いながら、師匠、リディ、 メアリー、ニーナと、それぞれの肩を揺らしながら呼びかけている時だった。


「あ、あの。それじゃ、起きない、よ……」


 今の入り口からそう言って現れたのは、ルーテリッツさんだった。


「ルーテリッツさん! 原因が分かるんですか!?」

「ひぅっ!?」

「あ、ご、ごめんなさい」


 思わず詰め寄って両肩に手を置いてしまい、年上爆乳魔女を驚かせてしまった。

 ただでさえ内気な人に、これでは話を聞くどころではないと、慌てて謝って一歩距離を取る。


「それで、今は何がどうなってるんですか?」

「え、えっと。向こうの方からむにゅっとしたのが来てて、ずっとまとわりついてる、の」


 そう言いながら指差すのは、城の方。この帝都でもっとも高貴な人物の住まう場所。

 むにゅ、とか言われてもちんぷんかんぷんだけど、精霊と同じ世界を見ることが出来るルーテリッツさんだからこそ見えてる何かがあるんだろう。


「何とか出来ますか?」

「で、できる、けど。すぐに元に戻っちゃう、よ」

「つまり、大元を叩くしかない?」

「う、うん」


 むにゅっとしたのは、今も供給され続けているってことなんだろう。

 そして、外からの生活音も消えたのは、それだけこの現象の及ぶ範囲が広いってことだ。

 ルーテリッツさんは精霊の力を借りて、僕は正体不明の女神の加護で、常に影響を遮断し続けているってところだろうか。


 何はともあれ、原因と対処法は分かった。


「大元を叩きに行こうと思います。先導をお願いできますか?」

「わ、分かった……!」


 僕の頼みに対して気合を入れるルーテリッツさんに続いて、外へ出る。

 正直、後衛型な上に戦闘そのものに慣れていない彼女を連れて行きたくはないけど、大元の場所を辿れるのがルーテリッツさんしか居ないのだから仕方がない。

 前衛が僕一人で、しかも防御型ではなくて回避型だ。後衛型の魔女にとっては危険極まりないことを意識しながら進むことにしよう。


 外はすっかり夜だった。

 星明りくらいしか当てにならない新月の夜も、街灯がついてくれていたお蔭で簡単に進むことが出来る。

 ルーテリッツさん自身の運動能力は最近まで引きこもりだった相応のものだろうけど、風の精霊の力を借りていることで、僕にとって軽く駆けるくらいの速さで進んでいる。


 大通りを城に向かって居るのだが、道中、見る人すべてが師匠たちと同じく正気を失って虚空を見つめている。

 そうして完全に活動を停止し『死んでいる』帝都の中を駆け抜けていると、ちょうど宮殿の建物が見えてきた辺りでルーテリッツさんが足を止める。

 目の前を行く魔女が足を止めたので、僕も立ち止まって何事かと尋ねようとすると、その答えの方からやってきた。


「おや、これはまた思いもよらないところで会いましたね」


 それは、キラービーの巣を狩りに行った際、道に迷っていた僕ら二人を助けてくれた黒髪ではかま姿の女剣士。

 ただし、最初に会った時のような笑みはない。

 その真剣な表情は、僕の『斬撃』を興味深いと評し、本能的な恐怖と一抹の甘い快感を呼び起こしたときのものに近い。

 しかし、かつて森で出会った時とは決定的に違うことがある。


「ええ、お久しぶりですね――マトイ・ヤクサさん」

「ふふ、お久しぶりです」


 ただ立っているだけだというのに、放つ威圧感が凄まじい。

 森では敵意を隠そうともせずに向けていたルーテリッツさんも、僕の前に居るものの、気圧けおされてただ固まっている。


「しかし、名乗れなかったと思っていたんですが、よく分かりましたね」

「ヤマト出身の女剣士に、少し心当たりがあったもので」

「そう言えば、うちの弟が面倒を見ている子たちの中で、一番頭が回るんでしたっけ」


 男女問わずサムライなんてまず見ない上に、強敵と戦うためなら何でもする戦闘狂のマトイ・ヤクサが出たって師匠やアイラさんが大騒ぎだ。

 森で出会ったまでならばともかく、帝都中を巻き込む事件の中で思わせぶりに出てくれば、確信に近い思いを抱きもする。


 そこですっとルーテリッツさんの前に出て、背中にかばうように立った。

 森では意地でも僕とあの女剣士の間に立ち続けた魔女も、今回は抵抗も出来ないままに受け入れる。


「一応聞きます。通してください」

「一応聞いておきましょう。殺すには惜しいので帰ってくれませんか?」

「……大した自信ですね」

「『斬撃』の興味深さもそうだし、君はうちの弟が見出した才能でもある。今ここで無為に潰すのはもったいない。できれば、あと十年はしてからお相手願いたいものです」


 向こうの言い分は、慢心なんかじゃない。

 まだ刀を抜いても居ないのに、その立ち姿だけで勝てないと思わせるすごみ。これまでの人生で、師匠以外から感じたことのない、絶望的なまでの現実。


 だけど、いや、だからこそ――


「相手にとって、不足なし」

「まあ、知ってましたよ。敵が強かろうと弱かろうと、理由が変わるだけで退かないだろうことは。ええ、よく知ってます・・・・・・・


 刀を抜き、中段に構える。

 対する向こうは、刀を抜いて右手に持ちはしたものの、特に構えを取らない。腕を下げ、自然に立っているだけに見える。

 なのに、僕には全く隙が見えない。


「今、この先に行かれる訳にはいかない。こちらの人員が、万全の対策を取って一握りしか動けない状況で平然と動き回るイレギュラーを生かしておくほど、愚かなつもりもありません。――二人そろって、ここで死んでください」


 相手の手の内が分からない上に、向こうが圧倒的な格上。

 こっちが先に動けば、下手をすれば一撃で食い殺されかねない。

 とてもじゃないが、先に動ける状況じゃない。狙うなら、後の先ってところか。


 敵から目線を切らず、とにかくルーテリッツさんを下がらせないと。

 完全に飲まれてて使い物にならないし、使い物になったとしても、こんなにおいしい状況・・・・・・に手出しなんてさせるものか。


「僕が前に出ます! ルーテリッツさんは下がってて! あの人は半端なく強――」


 その時、女剣士の姿が消えた。


 単に速すぎるとか、魔法とかじゃない。

 目線を一瞬たりとも切っていないのに、何の予兆も気配もなく、突然掻き消えたのだ。


 何の準備もないままに先手を取られるなんて、冗談じゃない。

 実戦において、完全な奇襲を許すことは、即死、もしくはそれに等しい負傷という結果となって帰ってくる。

 だから、必死に周囲を探って、


「ぐぁふぁっ……!」


 左のわき腹から来る激痛に、すでに手遅れになってしまったことを教えられる。


「ど、こか、ら……」


 いつの間にか正面に立っている女剣士に、思わずそんな問いを投げかける。

 僕が気付けたのは、最後の最後だけ。真正面から振るわれた横薙ぎの斬撃・・が、僕の左わき腹の肉に喰らい付こうと襲い掛かってきたところだけ。

 反射的に両手で逆手に持ってぶつけた刀で、何とか腹の半ばまで進められたところで食い止めている。


 ……なんだこれ。


「おや。必殺を期した一撃で殺しきれなかったのは、何年ぶりですかね。やはり、『必殺』と言うにはまだ未熟ですか」


 なんだこれ!





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