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異世界白刃録 ~転生先で至高の斬撃を目指す~  作者: U字
第四章 最弱最強の魔女
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第九話 ~最強の魔女~

「私も、なんとかしてみる……! やれることを、私も、やってみたい……!」


 なんてルーテリッツさんが急にやる気になったとき、僕は、これで撤退戦での支援火力を確保できたぞ! くらいにしか思わなかった。

 うん。まさか、こんなことになるなんて、思いもしなかったんだよ。

 むしろ、誰が予想できただろうか。


 空を見上げて、一言。


「なんだ、あれ……」


 そこには、赤、青、緑、茶、黄、白、黒の七属性を表す色の混じり合う、巨大な発光体。

 全長が百マルトほどの円錐形のその物体は、その出現前にルーテリッツさんが「あっちに、一番コワいのがいる……!」と言っていた方にそのとがった先を向け、今も少しずつ大きくなっている。


「違う……そう、だけど、もうちょっと、下に……」


 そんな風にぶつぶつ言いながら僕の背にくっついているルーテリッツさん。それはちょうど、彼女が言う『一番コワいの』と彼女の間に僕を入れて、盾にしているような立ち位置。

 背中に二つの柔らかい小惑星が着弾してるとか、気にしてる場合じゃない。

 きっと、彼女がこの光景の元凶なんだろうとは思う。

 思うけど、詠唱もなく、どうやってこの現象を起こしているのかがさっぱり過ぎる。


「ねえ、そこの不思議そうな見習い剣士さん。戦いの前にわたしが言ったこと、覚えてる?」


 魔力切れで青い顔をしたまま椅子に座っているメアリーが、冷や汗を流しながら上を見上げつつ、そう言う。

 僕以外が居る前で『仮面』を外しているのを見るに、余裕がもうないんだろう。


 にしても、言ってたことか。

 ……この状況に関係ありそうな話が、一つあったな。


「魔物の群れを見つける直前のアレか。『仮に精霊と自由自在に意思疎通が出来るなら』って話」

「ああ。あれ、『まるで出来るみたいだ』って言われてる、とある天才の噂話だったんだ。これを見る限り、本当だったらしいけど」


 一人で納得しているが、魔法に詳しくない僕にはあまりピンとこない。

 そんな様子を察したのか、メアリーは重ねて説明を続けてくれた。


「そこの女が使ってるのは、『四十二層制御式精霊砲』。正確には、原理としては、ってところか」

「そのなんちゃら砲ってのは知らないけど、原理としてはって、その限定は必要なのか?」

「ああ。七属性それぞれに最高クラスの適性を持つ魔術師を各六人、全部で四十二人で別々の詠唱をし、その魔力を振り絞って何とか使う大規模攻撃魔法。成功すれば街一つを半壊させられるが、少しでもタイミングがズレれば暴発する、最高難度の魔法の一つだよ」

「ちょっと待て。それって、四十二人で使うんだろ? そもそも、詠唱なんて誰がしてるんだよ」

「ついでに言えば、その四十二種類の詠唱は、最高クラスの国家機密。一つでも持ち出せば、一族丸ごと皆殺しにされても文句は言えないレベル」


 メアリーは、何を言ってるんだ?

 えっと、話をまとめると……あ。


「『仮に精霊と自由自在に意思疎通が出来るなら』」

「そうだよ。詠唱なんて知らなくても、大まかな理屈を知ってれば精霊たちに細かく指示を出して何とかできる。精霊からの愛されっぷりが桁違けたちがいに高くなるだろうから、常人より極めて少ない魔力の提供で、精霊が力を貸してくれる。一人で、一流魔術師四十二人分の魔力に等しい対価を、精霊に提供できるくらいにね」


 だからこそ、原理は同じでも、詠唱と言う手順の必要な常人と同じ魔法ではない。

 そんなものをすっ飛ばして結果を出せるから。


「なにこれ、チート……?」

「わたしにすれば、ミゼル・アストールの剣の才と、どっちもどっちだけど」


 そうしている間も続く、ルーテリッツさんの言葉。

 その何気ないつぶやきの持つ規模の大きな話に、思わず乾いた笑いが出る。

 ふと下を見れば、そこでは戦いが中断され、敵も味方もみんなが空を見上げていた。


 今この瞬間、戦場は、間違いなくたった一人の魔女が支配しているのだ。


「ほら、準備が出来たみたい。一生に一度拝めるかの大規模魔法なんだから、よく見ておいた方が良いよ」


 気付けば、背中から聞こえていた声が止んでいる。

 大きく息を吸う音が聞こえ、ゆっくりと吐き出される。


「やれる……やれる……!」


 僕の背中に置かれた手に、少し力が入る。

 そこから、もう一度深呼吸がされ、ついにその時が来る。


「ぶっとばしちゃえぇぇぇぇええええええ!!」


 その叫びと共に、放たれる光の砲撃。

 音もなく飛び立ったその七色の光線は、地面に触れると同時に轟音を立て、その爆風によって目が開けていられなくなる。


「はぅ……」

「おっと」


 両手で顔をかばっていた僕は、そんな気の抜ける声と共に背中の柔らかい物体が離れるのを感じ、反射的に振り向いて抱きとめる。

 見れば、青い顔をしたルーテリッツさんは、意識を失っているように見える。

 魔力切れだと思うが、専門家のメアリーに見てもらった方が良いだろう。


「なあ、メアリー……メアリー?」


 問いかければ、無言で僕の背後を指差すメアリー。

 指示されるままに振り向けば、そこには信じられない光景が広がっている。


「なんだ、これ……」


 防御柵の少し向こうから一直線に地面がえぐれ、丸ごと消し飛んでいる。

 ざっと見た感じ、敵の少なくとも四割以上は居なくなっているように見える。


「ご、めんな、さい……一番コワいのは、残っちゃった……」

「いや、十分だよ。これだけやってくれれば、十分だ」


 薄っすらとは意識が残っていたらしいルーテリッツさんの力ない言葉に、反射的にそう言いつつ、改めて攻撃跡地を見る。

 よく見れば、一つだけ何か動いている影が見える。


「ああ、これは、十分どころじゃない。とんでもない大仕事だ」

「ふぇ……?」


 『一番コワい』のが残っていて、跡地に動く影は一つ。

 たぶん、間違いないだろう。


「メアリー! ルーテリッツさんを頼む! あと、ルーテリッツさん、ありがとう! たぶん、これで勝てる!」

「え、あ、おい! どういうことだよ」


 今度こそ返事をする気力もない少女をメアリーの腕の中に押し込み、少しは回復していたハーフエルフ娘の言葉を無視して丘を駆け下りる。


「おい! さっきのはなんだ!? お前ら、あんな隠し玉を持ってやがったのか!」

「シルルさん! 撤退はナシ! 打って出て、雑魚の相手をお願いします! 決着がつくまで、焼け跡の方に近寄らせないで!」


 ここまで実質的にここの冒険者たちを指揮していてくれていた女ドワーフの冒険者にそう一方的に言い捨て、構わず駆け続ける。


 一息に防御柵を飛び越え、無人の荒野と化した地上を行く。


 そういくらも走らないうちに、漆黒の肌を持つ巨体が目に入る。

 外見は、『オーガ』と呼ばれる人型の魔物のものだ。

 僕の五倍はあろうかという巨体や、頭に生える二本のつのからして間違いない。

 その手には、やつの体長とほぼ同じ長さの、丸太のような太さをした棍棒。


 ただし、オーガには、黒い肌を持つ種族は居ない。


「はあっ!」


 駆けることで発生した運動エネルギーをすべて乗せ、放つはすれ違いざまの斬撃。

 刃を自分の体の左側に倒し、地面と水平にして斬り抜けたその一撃は、棍棒と衝突し、鈍い音と重い衝撃を体中に伝える。


「流石は『特異個体』。他の雑魚とは、実力からして違うんだな」


 振り向けば、向こうもちょうど振り向くところ。

 互いに武器を構えて向き合うが、向こうの表情がにやりと笑っているように見えるのは、気のせいだろうか。


「さあ、簡単にはやられてくれるなよ?」


 今までくすぶっていた炎が、行き場を見つけて燃え上がる。

 意識がみ渡り、『焦点』があって行くのが感じられる。

 視界が広がり、相手の息遣いまでも正確に感じ取れるほどに感覚が鋭敏になる。


 他のあらゆる一切合切いっさいがっさいが、今だけはどうでも良い。


 求めて求めて求め続けた強敵を前に、闘争本能がれ狂う。


「たったの一歩でも良い! 僕を、『至高の斬撃』へと導いてくれ!」


 その言葉と共に、本当の・・・死闘が始まる。





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