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異世界白刃録 ~転生先で至高の斬撃を目指す~  作者: U字
第四章 最弱最強の魔女
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第七話 ~死闘と絶望と~

少しあいたので、忘れてる人向けの本章あらすじ


①小惑星クラスのおっぱい持ちな引きこもり魔女を社会復帰させる仕事を請け負ったよ!

②ミゼル君だけがやけに見られてるよ!

③大平原に引きこもり魔女を解き放ちに行ったら、『特異個体』とかいうのが二千を超える魔物を率いて攻めてきたよ!

④政治的理由で戦わずに済むはずが、逃げられないみたいだから、主力以外の千五百で、二千以上の敵と戦うことになったよ! ←今ココ


後は、活動報告の登場人物等紹介なども参考にどうぞ。





 指揮官陣頭。

 皆を空気に酔わせ、よく分からないままに不安に駆られる冒険者たちを戦いに引きずり込んだ策。


 もちろん、訓練していたわけでも打ち合わせをしていたわけでもないから、全員が一斉に従ったわけではない。

 だが、半数にも満たない程度の連中は勢いに流されて僕の攻撃命令に従い、残りもその空気に流されて攻撃を開始。少なくとも、Dランク以下の冒険者が、恐怖の対象であるダイアウルフを見て、気持ちを折られずに立ち向かう程度の効果はあった。


 そして、当初は中天辺りにあった太陽も、今ではだいぶ傾いた。


 そもそもが、ここに居る『別動遊撃隊』は、戦う組織ではないのだ。

 数だけは、二千を超える敵に対して、千五百人であり、そう悲観する数字でないようにも思える。

 だが彼らは、十分以上に戦力が揃っていたアルクスの冒険者たちの中で、高位冒険者たちにとって足手まといと思われるやつらが厄介払いされてきた。敵が来ないだろうと思われる場所に陣取った部隊に、指揮系統だのといったものは必要性すら感じられなかった。

 結局、各パーティの判断に任せ、死守すべき地点を定める以外の選択肢はなかった。


 では、指揮官である僕は、何をするべきか。


 今は、膝下、腰のあたり、胸のあたりの三か所に横向きに丸太を支柱に括りつけた防御柵の、支柱と一番上の丸太の上を駆け回っていた。


「はあぁッ!」


 防御柵に対して棍棒こんぼうを振り下ろそうとしていたオークを見つけ、高所に居ることから足元にあるその魔物の首を、右手一本で低く薙ぐことで一息に斬り裂く。


「怖くても下がるな! 柵を破られたら壊滅だぞ!」

「「は、はい!」」


 防御柵の上に立つ僕の後方で尻餅をついている若い男女の冒険者に背を向けたままに言い捨て、次の危機を探して駆け出した。


 若いと言っても、一般的な冒険者登録年齢を考えれば、僕よりは年上だろう。

 普段ならばとりあえずは敬語でも使っておくが、そんな余裕はとうの昔になくなっている。

 開戦してから、前線で他の冒険者のフォローを中心に動き回れる余裕のある戦闘能力の持ち主は僕かリディしか居なかったこともあり、リディと交代しながら戦い続けている。

 確かに個々の敵は大したことがないが、疲労はたまる。

 リディとの交代も、五度までは数えているが、今は何回やったのかも分からない。とにかく、唯一の頼みの綱である防御柵を守ることだけを考えて駆け回り続けていた。


 一番痛いのは、後方からの支援攻撃がほぼなくなっていることだ。

 矢はすでに尽き、大半の魔法職には攻撃魔法を放つ魔力もない。今では、自然回復でわずかに戻った魔力を使って散発的に魔法が飛ぶか、前衛職が魔力節約のために緊急回避用として最小限度だけ使うくらいだ。

 だからこそ、前衛の負担が増え、頭で分かっていても敵の勢いの前に後退してしまう冒険者が出る。


 何かしようにも、そもそもが何かするための指揮系統が存在せず、ただひたすらに防御柵の上を駆け回りながら敵を排除していた時のことだった。


「トロールだぁぁぁぁあああああ! 破られるぞぉぉぉぉおおおおお!」


 見れば、少し離れた地点で、防御柵の三本括りつけられた丸太の中で一番上の一本がすでに、僕の二倍以上はある四か五マルトほどの巨体に相応しいトロールの巨大な棍棒に打ち砕かれている。

 そこを守っていた冒険者たちは逃げるなり腰を抜かすなりしていてアテにならない。

 すでに得物を大きく振りかぶるトロールの二撃目に間に合うかを考えながら駆け出した僕の耳に次の言葉が入ってきた瞬間、慌てて味方陣内に飛び降り、耳を塞いで目を閉じる。


「『雷爆弾』行くぞぉッ! これを投げたら、あと三つだ!」


 飛び降りながら確認したところでは、筋力強化の魔法を使ったマッチョドワーフが敵の上空にハンマー投げの要領でたるを投げ、それを隣の細身の男の冒険者が『雷矢サンダーアロー』で打ち抜く華麗なコンビネーションが行われている。


 そして、地上で防御態勢を整えた僕の耳に、地を裂くような轟音が鳴り響く。


 起きてみれば、この戦場で十度目の『雷爆弾』の猛威の傷跡が生々しく残っている。

 たる一杯の雷の魔石に雷属性の魔法を当てて起動させ、周囲一帯の敵を薙ぎ払うもの。今も、死傷した魔物の数は、三十は下らないように見える。

 だが、この武器の恐ろしいのは、その轟音と閃光である。

 人為的に小さな無数の雷を生じさせることで、何も構えていなかった魔物たちの目や耳はしばらくは使い物にならないようだ。

 その恐ろしさは、何の予告もなく使われた初回に、この身を持って知っている。


 パーティをCランクに昇格させるために、Bランク以上のパーティでもないと採算がとれないこの凶悪な武器をコツコツため込んでいた連中に感謝だ。


「それ! 柵を補修する時間を稼ぐ! 手の空いてる連中は僕について来い!」


 敵はすでに目や耳の機能が戻りつつある奴らも居る。

 そうなっては手遅れだ。代わりになる丸太の近くに居る連中が補修のために駆け出したのを見て、僕は先頭に立って柵を越え、壊れた部分の近くの敵を排除して押し返す。


 周囲を気にせず斬り進むだけの戦い。

 ひたすらに、斬って斬って斬って、斬り捨てて――それ以上に至らない戦い。


 ニーナを救うために地下水道で戦った時と同じだ。

 デリグとの戦いのような境地に、至りそうで至れない。

 思うがままに白刃を振るい、思うがままに突き進むが、どうしても意識の『焦点』が合わないとでも表現しうるような、何とも言い難い違和感が消えない。

 それでも、振るえば何かが見えそうな気がするのだ。

 振るえばゴブリンの首が飛ぶ、振るえばオークの喉笛が裂かれる、振るえばトロールの腹が割断される、振るえば――


「バカ。後ろを置いていくんじゃないわよ」


 目の前で僕の刃が捕えようとしていたオークを横から両断していった、銀色の閃光がそう言った。


「リディ、休憩中のはずだろ?」

「とっくに交代時間よ。ついでに、柵の補修が終わってて、そして、深入りしすぎたあんたについていけなくて困ってた冒険者たちには内側に戻るように言ってあるわ」


 二人で背中合わせに会話しながら戦闘継続しつつ見れば、いつの間にか柵から五十マルトほどの距離を進んでいたことに気付き、一緒に打って出た二十ほどの冒険者たちは柵を登って撤収中である。


「熱くなった。ごめん」

「それはあたしの役割よ。あんたが我を失ったら、誰があたしを止めるのよ。次からは気を付けて、今は先に退きなさい。後ろはあたしが守るわ」

「リディはこれから仕事だろ? これから休む僕が後ろに付くよ。大丈夫、落ち着いたから」


 ちらりと僕を一瞥いちべつして、リディは黙って退路を斬り開いて進んでいく。

 一応は僕の申告を信じてくれた彼女の期待に応えるためにも、リディの背中を襲わせるわけにはいかない。


 敵の個々の能力が低いこともあり、僕らの撤収は上手くいった。

 防御柵まで戻ったとき、打って出た最後の一団がよじ登っているところだった。

 柵の向こう側からの剣や槍を突きだしての援護を受けているのを見て、まずはリディが一息に駆け上がる。

 中段の丸太に足を掛け、次の一歩ではすでに上段の丸太の上に居ることを確認し、僕も続こうとした時である。


「飛び降りて、お姉さん!」

「え? ――グハァ……」


 よじ登る獣人の女性冒険者に向けて、二足歩行で犬頭の魔物、コボルトの持つ槍が突き出されているのを見て慌てて声を掛けるが、次の瞬間には穂先がその腹を貫いて現れる。


 とっくに動き出していた僕は、槍の一撃が届いた直後、一拍遅れてコボルトの両腕を振り下ろす一撃で斬り飛ばし、返す一撃でその首を断って絶命させる。


「大丈夫ですか!?」

「うぅ……なんとか……」

「分かりました。後は喋らないでください」


 急いで槍の木製の柄を斬るが、刺さっている部分は抜くと逆に危ない場合もあったかと思い出し、刺したままにする。

 鎧を身に着けず、冒険者御用達の厚手の衣服のみを身に着けているところからして、矢が尽きた弓兵が無理して前線に出てきたってところだろうか。

 槍先が出ているので背負うわけにもいかず、俗に言う『お姫様抱っこ』のまま、柵を駆け上がって越えた。


「誰か! 巡回中の回復要員は!?」

「知らん! だいぶ前から来てない!」


 激戦の中で誰の返事かも分からないまま、前線を引き継いですでに暴れているリディをしり目に、腕の中の女性冒険者をメアリーが設置した救護所まで運ぶことにする。


 陣内を走りながら様子を見るが、やはり良いとは言えない。


「うわぁ! 死ね! 死ね!」

「バカが! もう死んでいる!」


 すぐそこで、遠目にも死んでいるのが分かるゴブリンが柵にもたれ掛かっているのに対し、若い男の冒険者が執拗しつように攻撃を続け、壮年の男性冒険者がそれを止めようとし、早々に諦めて殴り飛ばして意識を奪う。

 こんな光景も、そろそろ二けたは見ている。

 何とか周囲が落ち着かせようと頑張っていた時には周囲にも狂乱が『感染』していたし、壮年冒険者の対応は正しいのだろう。


 誰もが不安で、ギリギリの状況の中で救援が来るとみなが叫びながら、本当に来るのか、もうやられたから敵がこっちに来たのではないかと不安を抱え、抱えるからこそ必死になる。

 狼煙のろしは絶やしていないが、元々町を守る少数の警備隊しかないアルクスは兵力は送ってこれないだろうし、何の準備もないところからすぐに物資を送れるわけもないだろう。本隊の高ランク冒険者たちは、どこに居るかすら分からず、異変に気付いて一刻も早く戻ってくることをただ祈るだけだ。

 しかし、そんな状況に抗うように必死になっても、戦力の質の低さは誤魔化しきれない。せめて、十分な後方支援――湯水のように使える量の雷爆弾や、一気に敵を薙ぎ払う一撃とは言わずとも、弓矢や攻撃魔法の弾幕くらいは欲しくなる。


 しかし、欲しがったくらいでどうにかなるアテがあるでもなく。

 苦々しいものを感じながら、救護所に飛び込んだ。


「えぇ~、ミゼルさんが怪我したとは思えないけどぉ~――あぁ~、そっちかぁ~」


 いつも通りのメアリーに安心、とはいかなかった。

 蒼白な顔色を見れば、限界が近いことは明らかだ。むしろ、いつもの仮面を被り続けていることが、余計に痛々しさを増していた。

 言われるままに抱えていた女性冒険者を地面に敷かれた白い布の上に寝かせ、メアリーがギルドの制服を着たヒト族の若い女性を助手に診察する間、周囲を見回してみた。


 今現在、魔法薬らしいもので治療を受けているのが三人。包帯で巻かれるなどの処置を終わらせて寝かされているのが、数十人。その横には、すでに使用済みの血に汚れた布が積み上がっている。

 その奥の一角は……たぶん、死んでいる。生者の気配が感じられない上に、隅の方に目立たないように乱雑に積まれているところからも、たぶん間違いない。


「応急処置だけして、寝かせておいてぇ~」

「は、はい!」


 見れば、女性冒険者の胸元を確認したメアリーはそう指示して立ち上がり、ギルド職員が治療に入る。


 僕はそれを見て、急いでメアリーを追い、声をひそめて話しかける。


「なあ、メアリー。応急処置でなんとかなるようには見えないぞ」

「死にはしない」

「彼女が、Fランクだからか?」


 そう問えば、蒼白な顔のままでこちらを睨むような強い視線を叩きつけてくる。


「わたしは――」

「どこまで持たせられる?」


 加えて問えば、鋭い目は大きく見開かれ、その後に大きなため息が一つ。


「話が早いのは助かるよ」


 そう言って彼女は、背伸びして僕の耳元へと口を近づける。

 無造作に近づいてくるメアリーの、本陣で震えているだろう引きこもり魔女の小惑星には及ばずとも十分に大きな、僕の腕に押し付けられる二つの柔らかな感触や、耳元に吹きかけられる吐息の温かさは、男の本能を刺激して熱くするに足るはずのもの。


 ――だが、そこから紡がれる言葉は、僕の想定を遥かに超える衝撃を伴い、心の芯から凍らせるほどの威力を持っていた。


「予想通り、戦力価値が低い低ランク冒険者に、すぐ戦線復帰をさせられる貴重な治癒魔法を使う余裕はもうない。ほとんどの治癒魔法使いはとっくにぶっ倒れて、魔力の自然回復で治癒できるようになったら、Dランク冒険者を優先に使うのがやっとだ。わたしも、わたししか治癒できない致命傷一歩寸前みたいなやつしか見てないけど、ほとんど魔力は残ってない。ギルドからの物資では、レア物の魔力回復薬が一箱あったのはだいぶ前に使い切ったし、治療用の魔法薬や包帯も底をつきかけてる。――手を打つなら早くしろ。救護体制は、日暮れまでは持たせられないぞ。そうなったら、戦力は一気に減少していくだけだ」


 僕の目に映る空は、すでに赤らみ始めていた。





※次回更新予定

昨日(2016.1.29)までの単位が全部取れてれば必要単位はそろうけど、怖いから最終日(2016.2.4)までテスト中心で行きます。よって、


本命:2016.2.6

対抗:2016.2.5

大穴:2016.2.4


ってところですね。

これ以上遅れそうなら、活動報告で連絡します。

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