第二話 ~試行錯誤~
「うん、そうね。確かに、あたしが早とちりしたことは謝るべきだわ」
「おう」
リディの不当な誅罰によって意識を刈られてしばらくのこと。
意識を取り戻した僕は、年上爆乳美少女ルーテリッツさんの部屋で、仁王立ちするリディと正面から真剣な表情で向かい合っていた。
「でも、あんたは、これを見ても自分に非がないって言えるの?」
「えー……」
そこでリディが指さすのは、彼女の後方。
僕を怯えた目で見ながらリディの背に隠れる、ルーテリッツさんだった。
「あの、ルーテリッツさん?」
「ひっ……!?」
こんな調子で、コミュニケーションもままならない。
しっとりとした年上黒髪ロング爆乳美少女に対して、ここまでの対応をされることをしたか?
いや、引きこもりから布団を引っぺがすのが重罪だと言われたら、それまでなんだけどさ。
どうしようもなくなって周囲を見回せば、まず目に入るのは、満面の笑顔でこっちを見るだけのメアリー。
ああ、うん。知ってた。お前は、そういうやつだもんな。
となれば、娘のことをよく知るはずのご両親に頼ろうとするのが自然なんだろうが、
「あなた、ルーティが初対面の相手に触れているザマス! うぅ」
「うむ……うむ!」
てな感じに、嬉し涙をハラハラと。
つまり、目の前に立ち塞がる銀髪犬耳の姉弟子とその陰の引きこもり美少女と、独力で立ち向かわねばならない。
よし!
「すんませんっした!」
「許す!」
「……うぅ」
許された!
なんか、当人が全く納得してないけど許された!
年上相手に『お姉ちゃん気質』全開なリディが許したから許された!
「で、まじめな話。とりあえず、リディが連れ出そう。何か懐かれてるし、僕が居なければ結構うまくいきそうだし。まずは、この建物の中からいこう。それなら、寝間着のままでも大丈夫だろう」
「任せなさい! ルーテリッツさん、メアリー、ちょっと行きましょう」
リディを先頭に、徹底的に僕と自分の間にリディを入れるルーテリッツさん、最後尾にニコニコ笑顔のメアリーが続いて出ていき――メアリーが戻ってきた。
「何? 僕は行けないから、さっさと行きなよ」
「いやぁ~、ちょっとぉ~、来てもらわないと困るかもしれないんだよねぇ~」
よく分からないが、ご両親と共に廊下に出れば、リディに背を向けて廊下の隅にうずくまるルーテリッツさんの姿が。
「……なにごと?」
「――!?」
声を掛けると、さっきまで見たいに、またリディを盾にして僕から隠れる爆乳美少女。
「これはつまり、リディが好かれたんじゃなくて、僕がとてつもなく嫌われてるんだな」
……言ってて悲しくなってくる。
本当に、引きこもりの布団を引っぺがすのは、そこまでの重罪なのか?
「ねぇ、ルーテリッツさん。本当に、ミゼルが嫌?」
「……うん」
聞きにくいことを真正面から聞いたリディの問いに、こちらを窺いながら答えるルーテリッツさん。
地味に傷つく僕を気にもせず、リディの問いは続いた。
「なんで?」
「えぅ、その、精霊さんが……怖い、って……」
「精霊? 何それ、どういうことなの?」
「あぅ……」
「ちょっと、はっきりしなさいよ!」
「まぁまぁ~。そんなに詰め寄ったらぁ~、答えられるものも答えられないよぉ~」
そんなメアリーの仲裁でリディは引き下がる。
でも、完全に怯えきったルーテリッツさんを見るに、話をこれ以上聞くのは無理だろう。
……精霊と言えば、僕に掛けられている神様の加護は、精霊とっては恐怖や厄介ごとの対象だったか。
いや、まさか。
ルーテリッツさんは人間だし、関係ないよな、きっと。
こんな妄想は置いとくとして、ルーテリッツさんである。
後ろで厳しい顔をして見ているご両親の期待を裏切るのも気が引けるし、ここまで関わってこの頼りない年上美少女を見捨てるのも気が引ける。
とにかく、外がどうのと言うより、他者が居るのが苦手な様だ。
「それで、オラ――コホン。えっと、私のところに来たんですか」
今は、冒険者ギルドのやけに煌びやかな応接室で、ポーラと向かい合って座っている。
こっちは、右にリディ、左にメアリーが座って、向かいにポーラだ。
ルーテリッツさんは外に連れ出す以前の問題だし、ご両親は仕事があって急にはお店を空けられないらしく、僕ら三人だけですぐにやってきたのだ。
「魔物が少なくて他の人も少ないところを探すなら、私を頼っていただいて正解です! 魔物の『大掃除』直後なら、魔物はもちろん、それを狙う冒険者も居ませんから。そのルーテリッツさんも、誰も気にせずに外の空気を吸えるだ! オラに任せてくんろ! 受付嬢だったころはそんな情報は全部頭に叩き込まれてたで、どこで調べればいいか、大体は分かるだ!」
興奮しすぎたのか、最後の方は謎方言全開でそう言い残し、部屋を飛び出していったポーラ。
すると、入れ替わるようにギルド制服を着た猫耳美女が入ってくる。
「あ、あの、お飲み物は……?」
「あ~、お構いなくぅ~」
「は、はひっ!?」
冷や汗をだらだら流していた女性は、メアリーの言葉に、慌てて飛び出していく。
きっと、ブレイブハートについて、あることないこと聞かされているのだろう。あれだけ怯えられていると、お構いしてほしくても、飲み物を頼めない。
てか、ギルドの二階窓口で名乗ったときも、名乗っただけで窓口の奥が軽い騒ぎになっていて、気付けばこの無駄に豪華な応接室だ。
舐められるよりは良いんだろうけどさ……。
と、そんなことを考えていると、ドタドタと廊下を駆けてくる音。
「お待たせしましただ! ちょうど良いところがあっただ!」
ついさっき出ていったばかりなのに、あっという間に戻ってきた。
汗をかいて着衣も軽く乱れているのを見るに、かなり急いでくれたのだろう。
ポーラが抱えていた地図を置き、それを四人で見ながら話が進む。
「アルクスの町を中心に、少し前から『大掃除』をやっているだ。まだ終わってないだで、町には冒険者が大勢いるはずだけんど、町の近くはもうとっくに終わってるだで、この町の周辺の草原辺りなら条件に合うだ」
地図を見れば、帝都のすぐ南、駅馬車を使えば日帰りで帰れる距離。
手間取るようなら、一泊すればいいか。
「二人とも、どう思う?」
「良いんじゃない? 魔物が居ないなら、あたしたちも遠くから見てれば大丈夫でしょうし」
「そうだねぇ~。元々が冒険者の落とすお金でやっていってる町だからぁ~、冒険者が多いって言ってもぉ~、どこかでは宿も取れるだろうしねぇ~」
ご両親にはすでにやることの了解は得ているし、本人の意思を聞くのは本末転倒。
ルーテリッツさんを連れ出すのも、僕が追いやって、リディが誘導してやればなんとかなるとは、僕ら三人とご両親との会議の結果。
よし、決まったな。
「ありがとう、ポーラ。アルクスの町にするよ。助かった」
「え!? そ、そんな、オラは当然のことをしただけだで! ミゼルさんの助けになるなら、何でもやるだよ!」
あー、この娘、すっごい変な男に騙されそう。
こら、メアリー。「鏡を見てみろ」みたいな目はやめろ。客観的に僕とポーラがどう見えるかは、十分に分かってんだよ。リディみたいに、素直にポーラの将来を心配してろよ。
とまあ、色々とある訳だが、次の行動は決まった。
いざ、アルクスの町へ。
2016/1/7~2016/1/8のPVを見ていたら、一時間で、普段の数日分のPVを稼いでいた。
ご、五章以降のプロット、も、もう一度見直してくる……(震え声)




