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第八話 ~速攻~

「失礼かもしれないが、礼を言わせてもらいたい。お蔭で出世できた」


 我らがパーティホームで、周囲の警戒の視線の中で開口一番に飄々ひょうひょうと、笑みなんて浮かべながらそう言った私服姿の男。

 そのキツネっぽいしっぽの中年男に見覚えがある気がして少し考えると、デリグ一党との初戦闘の際に介入してきた帝都警備隊の指揮官だった。


 どうしてこの男がここに居るのか。

 それは、僕らやカルドラルさんがそれぞれお偉いさんの屋敷を襲撃して情報を得た日の夕暮れ時のことだった。

 厳しい表情で現れたアイラさんによってブレイブハートのメンバーとカルドラルさんが居間に集められ、そこにこの中年男も居たのだ。


「あの、失礼ですが、どちら様で?」

「ああ、イサミさん。自己紹介もせず、失礼。私は、帝都警備隊第三部隊長のヒュイツ・メルセンだ」

「ちなみに、帝都警備隊内での上官は、総司令官以外には居ない立場よ」


 真顔のままのアイラさんの補足を受けても、ヒュイツさんは「ハハハ」なんて照れてるのか愛想笑いなのかよく分からない様子だ。


「今回は、今夜の我ら帝都警備隊第三部隊と黒竜騎士団の合同作戦においてご協力いただけるとのことで、挨拶あいさつに来たのだ」


 聞き捨てならない言葉があった。


 ちょっと待ってほしい。

 カルドラルさんから近く動きがあるかもとは聞いていたが、今日の今夜はないだろう。

 解決したしてない以前に、ここに戻ってからしたのは、羽織袴に着替えて休んだくらい。戦闘における頭と体のズレについて、昼の戦闘でのミスから何も考えていないのだ。


「彼にも来てもらったのは、今回はとにかく時間がないの。帝国議会の第二派閥長が死んだことでの政局の混乱で役所の業務が圧迫されそうなのが一つ。そして、そんな大物にまですでに捜査の手が伸びてることで、他の後ろ暗い連中がゾロゾロ動き始めてるのが一つ。今回の件に関係のないことでも動くかもしれなくて、そうなれば、帝都警備隊はしばらくそっちの摘発に追われるわ」


 そこでため息を一つ吐いたアイラさんは、疲れ切った表情で話を続ける。


「こんな急な作戦、あなたたちの手があっても頭数が足りない。ヒュイツさんが対外的にさとられないようにこの短時間で集めてくれた警備隊の頭数は期待以上だったけど、横槍を防ぐために大っぴらにできない以上は、限界があるの。黒竜も、他の任務との兼ね合いで限界がある。それでも、バレるのを嫌がった権力者たちの介入の余地を失わせたって意味では、順調とも言えるわ。だからこそ、この好機は逃さない。あなた達の承諾を得たら、この場で責任者二人が決裁して、二時間後に作戦開始よ――異議はあるかしら?」


 誰も口を開かない。――開けない。


 普段は、むしろヒュイツさんのように飄々ひょうひょうとしているアイラさんが、真剣な表情で問いかけてきた。

 その思いに、これまで協力した身で異議などなかった。

 例え、個人的に不安を抱えていたとしても。


「それじゃあ、あなたたちの割り当てについて説明するわ。手分けしてもらうわけだけど、まず、イサミとラルさんは一人で行ってもらうわね。敵の根城ねじろを見つけたら、この地図にあるポイントのどこかに知らせてちょうだい。戦力を集中させて警備隊と黒竜騎士が突入するわ。地下水道への突入ポイントの担当も書いてあるから」


 そう言ってアイラさんから二人に紙が手渡された。

 そして、次に、僕、リディ、メアリーの方に話しかけられる。


「あなたたち三人は、私も含めて二人一組ね。実力面と少しでも手を増やすことを考えた結果よ。あと、まったく見ず知らずの相手と組んでもやりにくいだろうことを考慮したわ。私とミゼル君がそれぞれの司令塔役。組み合わせは、私とリディちゃん、ミゼル君とメアリーちゃん」

「ええ、それで良いわ」

「はぁ~い、分かったぁ~……チッ」

「えっ?」

「ほぇ?」

「……いや、何でもない。僕も構いません」


 アイラさんの方に集中してたからか、幻聴が聞こえたらしい。

 いやいやまさか、かわいらしく首をかしげてこちらを見る少女が、舌打ちなんてそんな訳がないよな。


 僕らにも地図が渡された後、この場でアイラさんとヒュイツさんが何らかの書類にサインし、二人は慌てて去っていく。


 みんなもそれぞれの準備のために部屋に戻り、今も残るのは、自分の問題をどうするのか頭を抱える僕と、いつもと変わらぬ様子でお茶をすするカルドラルさんだけだった。


「自らの戦い方に迷いを持ったまま実戦に赴く少年に、一つ助言をしておくのである」


 不意に、そんな言葉がかけられる。


「戦い方に限らず、何かを選択すれば、必ずケチがつく。誰もが自らの意思に従って動く以上、これは避けられないのである。だからこそ、貫くにしろ折るにしろ、自らの意思を大切にするべきである」

「えっと……」

「あまりにも時間がなさすぎるのである。だからこその助言である。生かせるかどうかまでは責任は取れないであるが」


 また、平然とお茶をすする作業に戻るカルドラルさん。


 意思、か。

 ……うん、分からん。


「助言、ありがとうございます。僕もそろそろ準備しに行きますね」


 そうして立ち上がろうとした時のこと。

 コトリ、と湯呑みを置いたカルドラルさんがまたも口を開いた。


「少年、気を付けるのである。あの娘は、かなり厄介であるぞ」

「あの娘?」


 はて、誰だろうか。

 厄介と言えばアイラさん辺りが思いつくけど、娘って年でもないしな。


「少年と共に行く娘のことである」


 メアリーのことらしいが、余計に頭を悩ませることになった。

 彼女に、何か厄介と言えるような要素があっただろうか。


「あの、具体的にどういうことですか?」

「我輩は、あの娘のことをよく知らぬ。故に、何がどのようにあの娘を歪めているのか、皆目見当もつかないのである」


 これ以上の説明をする気はないようだ。


 メアリーのことは頭の片隅くらいに置いておくことにして、今はさっさと作戦の準備をすることにした。





カルドラルさんの過去話を、短編『その男、ロリを往く』として投稿しました。

異世界白刃録シリーズとしてまとめています。


どうしてリディだけがロリ扱いなのか、そのヒントが入っているお話になりました。

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